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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
3章 海からの悪夢
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第30話 訪問者

現実世界に戻るため一人行動しているユータ。

ヨネシゲとの口喧嘩が原因で単独行動をとっていた。

彼が始めに目をつけたのは、この世界に初めて降り立った地である通称“冬山”である。

ユータは冬山の詳しい情報は知らない。

今知っていることは、ヨネシゲの作り話に出てきた山であるということ。

作り話に出てきた山と言うよりも、ヨネシゲの空想と共に作り出された山と言ったほうがいいかもしれない。

自分達は冬山で倒れているところを捜索隊によって助け出された。

その捜索隊とはクラフト兵と呼ばれる民兵であり、この世界で領主ヨネシゲに雇われている。

彼らはヨネシゲの領土内で行動する民兵であるから、そう考えると冬山もヨネシゲの領土内もしくは周辺にあるに違いない。

ユータは推測していた。

この辺りで山と言うとアライバ山脈しか思い当たらない。

ユータがこの世界に来てから一ヶ月は過ぎるが、毎日特訓漬けであったため、この世界の事に関してあまりわかっていないのだ。

そんな訳もありユータは特訓の師匠であるマックスの家を訪れていた。

マックスから冬山やこの世界についての事を聞き出すつもりだった。

到着しマックスと対面するも、無断でマッチャン一家に行っていたことを突っ込まれる。

厳しいお叱りが無かったのは幸いである。

ユータが来る前にマッチャンがマックスの家を訪問していたようだ。

そこでユータとヨネシゲがマッチャンアジトに行ったことマックスに知られてしまったのだ。

冬山の事を聞き出そうとしていたユータであったが、話題はマッチャンネタになっていた。

そうこうしているうちに次なる訪問者がマックスの家を訪れていた。


「マックス、邪魔するぞ!」


マックスの返事を待たずに家に入りユータとマックスの前に姿を現したのは、マックスと同年代と思われる40代後半の男だ。

マックスよりも皺は多めであろうか。

お世辞にも豊かとは言えない髪の量だが、襟足だけはやたら伸びている。

開いているのかわからないが、力強さを感じる細い目。

眉間にも皺を寄せ口を一文字に結んでいた。

決して怒っている訳ではないと思うが、険しい顔付きで初対面のユータを眺めていた。

ユータはとてつもない威圧感を感じていた。

それはクラフト三姉妹やマックスと初めて会ったときに感じたものと同じだ。

この人、ただ者ではない…

ユータは直感でそう感じた。


「失敬、お客さんが居たのか…」


この男は落ち着いた口調であるが、声のトーンにあまり変化がない喋り方をする。


「親しき仲にも礼儀ありだぞ!返事を待ってから入ってこい!」


マックスは強い口調でそう言うも、その顔は怒っているようには見えなかった。


「まあそう怒るな。お前の好物、和尚饅頭も手土産で持ってきたぞ」


そう言うと男はテーブルの上に和尚饅頭なる物が入った箱を紙袋から取り出して置いた。


「おう…これこれ!」


和尚饅頭が入った箱を見るなりマックスの顔が緩む。


「ユータ、茶を入れろ」


マックスはユータに茶を入れるよう命じた。

いや待て、茶を入れろではない。

その前にこの男が誰なのか説明してほしい。


「あの、マックスさん。こちらの方は一体?」


ユータがマックスに彼が一体何者かと尋ねる。

するとマックスは何かを思い出した様な表情をした後、和尚饅頭の箱を開けながら説明を始める。


「こいつの名はシールド。保安官時代の同僚だ。」


マックスは男について説明を始める。

男の名はシールド。

現役の保安官で、マックスとは同期の同僚。

マックスが保安官を辞めた後も保安局に残り、幹部まで上り詰めた。


“雷神”の異名を持ち、マックス曰く非常に能力の高い男とのこと。

次期保安局長も夢ではないと語る。

しかしシールドは、それは過剰評価だと言いマックスの言葉を否定した。


マックスが保安局を去って17年が過ぎるが、シールドとは未だに付き合いがあり、年に1~2回は顔を合わす。

元同僚と言うより親友だとマックスは言う。

その事はシールドも認めている様子だ。


今度はシールドがユータについて尋ねる。

そう言えばユータ自身も自己紹介がまだであった。

自分はヨネシゲ・クラフトの板前時代の弟子で、マックスとは特訓の師弟関係だと伝えた。

そう言えば、ヨネシゲの板前時代の弟子と言う設定はどこまで通用するのだろうか?

まあ、クラフト一家やマックスにも何一つ疑われていないため、このままの設定で突き通しても大丈夫なのだろう。

しかしヨネシゲと口喧嘩した後で、まだ彼を許したわけではない。

そう考えるとこの設定は癪に障る…


ユータとシールドが自己紹介している間に、マックスが和尚饅頭の箱を開けていた。

中から姿を現したのは、まるで和尚の頭を連想させるような黄金色の光沢が印象的、一口サイズの饅頭であった。

マックスは饅頭を手に取ると一口サイズだけあって、まるごと口の中に放り込む。

マックスは幸せそうな顔をして和尚饅頭を堪能していた。

酒蒸しされた饅頭は蜂蜜でコーティングされているそうだ。

黄金色の光沢の原因はそれだ。

中身はこし餡と甘く煮詰めた金時豆が入っているみたいだ。

マックスはこの饅頭を渋いお茶と一緒に味わうのが年に数回の至福の時と語る。

この和尚饅頭は王都周辺であれば手軽に購入できるが、ヨネフト地区で販売されていない。

近場だとアライバ峠を越えた隣町、北アライバで販売しているそうだ。

箱に30個程入っていた饅頭は物凄いペースでマックスの胃袋の中に収まっていく。

それを呆然として見ていたユータだが、早く食べないと無くなってしまうとシールドに促され饅頭を一つ手に取る。

マックス同様、まるごと口の中に放り込んで食べてみる。

一口サイズであるためこの食べ方が一番食べやすいかもしれない。

ただ、想像以上の甘さでユータは驚く。

確かに渋いお茶は必須かもしれない。


それからしばらくの間、マックスとシールドは昔の思い出話に花を咲かしていた。

その話をユータは聞いているだけであったが、スケールが大きすぎて段々と話に付いていけずにいた。

王族の警護では必ず指名がかかるとか、他国から押し寄せてくる軍隊をマックスとシールドだけで蹴散らしたとか等々…

まるでヨネシゲの武勇伝や自慢話を聞いているような感じがしてきた。

これ以上ここに居るとヨネシゲの事を思い出して腹が立つし、肝心の冬山の情報を聞き出すのにも時間が掛かることであろう。

ヨネフト村の商店街通りに戻って顔馴染みに聞いた方が早いかもしれない。

そう考えたユータは席を立つ。


「マックスさん、俺そろそろ帰りますね。お二人の邪魔してしまったら悪いですし…」


ゆっくりしていけ気にするなと言うマックスとシールドであったが、このままでは自分が持たないので明日また来ると告げ、ユータは家を後にした。


(アサガオ亭に行ってクレアさんに会っちゃおうかな!)


次なる目的地を決めたユータはヨネフト村の商店街を目指し南下していった。




ユータが帰った後のマックスの家。

先ほどの賑やかな雰囲気とは打って変わって静まり返っていた。

そんな中最初に口を開いたのはマックスだ。


「わざわざ家に訪ねて来るとは珍しいな…」


マックスとシールドは年に1~2回会ったりするが、シールド自らマックスの家を訪れるのは珍しいことである。

いつもならマックスが住むヨネフト村の酒場、もしくはシールドが勤務する王都で合流するパターンとなっている。

ましてや何の連絡も無しに訪れるとは不思議で仕方なかった。

その理由に関してシールドが説明する。


「ある事件の捜査を任されてな。保安隊を引き連れ北アライバに詰めている」


「事件?お前がわざわざ指揮をとるとは…」


マックスは驚いた。

保安局の中でも上層部の幹部であるシールドが、自ら指揮をとるとは、かなりの大事である。

そしてシールドの口からまた驚く言葉が出てきた。


「大臣の命令でな。俺も驚いたよ」


大臣と言う言葉にマックスは更に驚いた。

ただ事ではない…

いつもは冷静なマックスであるが、額には冷たい汗が滲み出ていた。


「それで!その事件と言うのは!?」


「すまないが、お前とは言えこれ以上は話せん。」


マックスは事件の詳細についてシールドに尋ねるも、答えてはくれなかった。

当然の事である。

基本保安局が捜査している内容については外部に漏らすことはない。

ましてや大臣から命じられた重要捜査を軽々しく話せる訳がない。

それが元保安官で信用できる男だとしてもだ。


「俺としたことが、無粋なこと聞いてしまったな…」


マックスもその事はわかっていた。

マックスはそう言うと、残っていた和尚饅頭を全て口の中に詰め込み、ユータの入れた渋い茶で一気に流し込んだ。

しばらく二人の間に沈黙が流れる。

するとシールドがあることを提案する。


「保安局に戻ってこないか?」


シールドはマックスに保安局に戻ってくるよう提案する。

マックスの年齢はまだ46歳。

保安官として働くには全く問題ない。

それどころか、マックス程の実力者となれば即戦力。

数年もすれば保安局幹部も夢ではない。

何より、もう一度保安官マックスと仕事がしたい…

マックスの力が借りたいと言うのがシールドの本心である。

しかし、マックスは保安官に戻ると言う選択肢はないそうだ。


「17年前のあれか…」


シールドはそう言うと、部屋の一角に飾られた写真を眺める。

その写真に写っていたのは、若き日のマックスと一人の青年が写っていた。

写真に視線を向けているシールドに気が付いたのか、マックスも写真に目を向ける。

そしてマックスは重たい口を開いた。


「俺は過ちを犯した。保安官に戻る資格はないんだよ…」


「あれはお前だけの責任ではない。保安局…いや、この国自体が悪いのだ」


マックスは何やら一人で抱え込んでいる責任があるようだ。

それが保安官を辞めた原因…

とはいえ、マックスが責任に感じていることは彼だけのせいではない。

その事はシールドも含め多くの関係者が理解している。

しかし、マックスは頑なに保安官には戻れないと説明する。

そんなマックスにこれ以上無理押しもできない。

シールドは椅子から立ち上がるとマックスの座る椅子の横まで近寄る。


「無理押しはできんな。だが気が変わったらいつでも言ってくれ。保安局にはまだお前が必要だ」


「ありがとよ。だが俺の気は変わらない。それに保安局はお前が居れば安泰だ」


「よく言うぜ…」


シールドはマックスとの会話が終わると別れを告げマックスの家を後にした。

一人部屋に残ったマックスは大きなため息をつくと、ボソッと言葉をもらす。


「俺は保安官失格なんだよ…」







その頃、ユータはアサガオ亭の前まで来ていた。

ユータが店の中に入ろうとすると、大きなバスケットを持った看板娘のクレアが店の中から出てきた。


「あら、ユータさん!こんにちは!」


「こんにちは!クレアさん、それは?」



大きなバスケットの中身とは?



つづく…

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