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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
2章 空想の猛者たち
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第25話 鉄腕ジョーソン

ヨネシゲとユータはマッチャン一家のアジトに到着した。

到着するとアジトの入口前には、中堅メンバーを始めとするマッチャン一家の男たちが集結していた。

ある程度予想は出来ていたが、そう簡単には中に入れてくれなかった。

そもそも、ヨネシゲがマッチャンとのリベンジ戦に挑むことになったのは、マッチャン一家の副頭領ジョーソンの要請があったからだ。

盗賊としての仕事が乏しいこのアライバ峠で意地でもヨネシゲを待ち続けているマッチャン。

しかし、一向にヨネシゲは姿を現さない。

アサガオ亭での決闘でヨネシゲが敗れた際にマッチャンはユータに言付けをした。


“リベンジしたいならアライバ峠にあるアジトに来い。いつでも待ってるとな”


マッチャンは自分の言葉に責任を持つ男。

待っていると言ったなら来るまで永遠に待ち続ける。

だが、ユータはその言葉をヨネシゲに伝えていなかった。

覚えていたなら伝えていたかもしれないが、バタバタしていたため忘れていた。

それにマッチャンがそこまで本気に言っている言葉とは思わなかった。

仮にヨネシゲに伝えたとしても、すぐ行動しようとする彼を周りの人間が阻止することだろう。

結果としてジョーソンの命令でチャールズがヨネシゲと接触しアジトへ来るよう伝えた。

ヨネシゲはそれに応じアジトに来たわけだが…


入り口を前にしてヨネシゲに襲いかかる盗賊たち。

盗賊たちはヨネシゲが本当にマッチャンとの対戦相手に相応しいか試すつもりだ。

ここで体力を使ってしまっては意味がない。

そう思ったユータはヨネシゲに襲いかかる盗賊と戦おうとするが、ヨネシゲに制止された。

盗賊たちの指名は自分であるから、他の者に彼らの相手をさせるのは失礼だ。

ヨネシゲはそう言うと30人近い盗賊たちに立ち向かっていった。





ここはマッチャン一家アジトの2階にある一室。

かつて王国軍が使用していたこの建物内で一番程度の良い部屋である。

部屋の主はこの盗賊団の頭領であるマッチャン・ボンレス。

マッチャンはお気に入りのソファーに座りながら湯飲みに入った熱い茶を飲んでいた。

そのソファーの横で腕を組ながら副頭領のジョーソンが立っている。

二人は険しい表情をしていた。

重たい空気が部屋中に漂っているなか、マッチャンは不機嫌そうにジョーソンに問いかける。


「何故勝手なことをした?俺は奴の意思でここに来てもらいたかったのだ」


ジョーソンが計画したヨネシゲのアジト訪問はマッチャンの耳にも入っていた。

マッチャン的にはヨネシゲ自らの意思でアジトに来てリベンジマッチに挑んでほしかったのだ。

ジョーソンはマッチャンの考えに反論気味で答える。


「奴にここに来るよう誘導したのは俺だが、最終的にここへ来たのは奴の意志だ」


ヨネシゲにはアジトに来るように伝えたが、強制したつもりはない。

彼の意志でここに来たのだ。

むしろ強制的にヨネシゲをアジトに連れてきて事態を打開したいところだ。

そうでもしないとマッチャンはこの地から離れようとしない。

どちらにせよ、ヨネシゲをアジトまで来させることに成功した。

いざヨネシゲがアジトに来たかと思うと、今度は自分の意志で来なくては意味がないと言い始めている。

そんなことを言っていてはきりがない。

だが、ジョーソンはマッチャンを一番よく知る男。

こうなることは予想はできていたため、マッチャンにはヨネシゲ誘導計画をバレないように進めていた。

ところが勘のよいマッチャン。

今夜は何かがおかしい…

異変を察知したマッチャンは若い衆を捕まえて何か隠していないか問い詰めた。

マッチャン一家では隠し事は厳禁。

マッチャンの迫力に押されて若い衆は自供してしまった。

そして首謀者がジョーソンであることを知って、彼を部屋に呼び寄せ話を聞いていたところであった。


「約束も大事がしれないが、少しは若い奴らの事を考えろよ!あいつらはお前が知らないところで色々苦労してるんだからな!」


頑固者のマッチャンに我慢の限界を迎えたジョーソンが怒鳴り始めた。

しかし、マッチャンは反論することはなかった。

ジョーソンの言うことは正しい。

とはいえ自分の発言には責任を持ちたい。

その一方で仲間たちには迷惑をかけてしまっている。

マッチャンはその事は十分わかっていた。


「実は…夜が明けたら移動しようと考えていたところなんだ…」


マッチャンの予想外の発言に怒り心頭で怒鳴っていたジョーソンが静まり返る。


「自分の発言も大事だが、何より仲間たちの方が大切だ…」


マッチャンは続ける。

ギリギリまで粘ってはいたつもりだが、自分の見ていないところで仲間たちに迷惑をかけていた。

自分の発言に責任を持つのは己のポリシー。

しかし、軽はずみの発言は自分の首を絞め回りにも迷惑をかけてしまう。

今後こうならないためによく考えてから発言するようにすると反省の言葉を述べた。


「まったく、仕方ねぇ頭領だぜ」


ジョーソンは呆れながらも笑みを見せながらそう言い放った。

マッチャンは頑固な一面が際立つが、己の非を素直に認めることもできる男。

頑固で短気な男であるが、仲間思いで義理堅く、情にもろくて涙もろい、恋愛小説を好んで読むなど乙女でお茶目な一面もある。

そんな、人間味溢れるマッチャンだからこそジョーソンは長年付き添ってきた。


「出発の準備をさせろ。夜が明けたら出発だ」


マッチャンはそう言うと熱い茶を一気に飲み干した。


その時である。


外から盗賊たちの荒々しい声が聞こえてきた。

ジョーソンが窓の外を覗くと、盗賊たちがヨネシゲに襲いかかっていた。


「おもてなしが始まっているようだ…」


ジョーソンはため息をつきながらマッチャンにそう言った。





アジトの外では盗賊たちがヨネシゲを包囲して攻撃を加えていた。

盗賊に取り囲まれたヨネシゲの姿はユータとチャールズの位置からでは確認できない。

一つ確かなことは、ヨネシゲは只今奮闘中と言うこと。

ヨネシゲの力強い掛け声と怒号が聞こえる度に盗賊が宙を舞う。

そして徐々に倒れている盗賊の姿が目立つようになり、ヨネシゲの姿も確認できるようになってきた。

ヨネシゲは瞬間移動の如く俊敏な動きを見せ、盗賊たちにプロボクサー顔負けの拳をお見舞いしていく。

小太りの中年おじさんとは思えない動きである。

これも全てマックスの鬼特訓のお陰だ。

これだけの大人数、ユータなら特殊能力を使用して一発で仕留める場面だ。

しかし、ヨネシゲはこれと言って特殊能力を習得できていない。

強いて言えば治癒術が人並み以上に優れているところか。

という訳で彼の攻撃は素手での物理攻撃がメインだ。


ヨネシゲは盗賊たちから多数の攻撃を受けているはずだが、傷一つもなく余裕の表情。

逆に盗賊たちは辛そうな表情で息を切らしており余裕の無さを感じる。

ヨネシゲの猛攻に盗賊たちは次々と力尽きていく。


「つ、強い…」


ヨネシゲの戦いぶりをユータと見ていたリーゼントのチャールズは思わず言葉を漏らした。


(流石、ヨネさんだ!)


ユータも心の中でもヨネシゲの戦いぶりを称えていた。

そして、最終的に残ったのは、スキンヘッドのノア、金髪モヒカンのジョン、ちょんまげのムラマサだ。

この三人も例外なく既に体力の限界を迎えようとしてる模様。


「どうした?もう終わりか!?」


その三人の様子を見てヨネシゲが挑発するかのように言葉をかけた。

悔しそうな顔をしている三人に勝ち誇ったような表情でヨネシゲは言葉を続ける。


「降参するなら今のうちだぜ」


三人の盗賊たちはその言葉を聞いて怒りを滲ませるも、これ以上反論するこも反撃することもしなかった。

今の自分達にはヨネシゲには勝つことができない。

この短時間でヨネシゲの強さを思い知らされたのだ。


どうやら勝負あったようだ。

ヨネシゲはそう思いアジトの入口へ向かって歩き始める。

それを止める者は誰もいなかった。

ヨネシゲは入口のドアノブへ手をかける。

その時であった。


「調子に乗るな!」


扉の向こうから声が聞こえたと思うと扉が粉々に粉砕されてしまった。

そしてヨネシゲの目の前に突然現れたのは一本の太い腕。

その腕は物凄いスピードでヨネシゲの顔面に直撃。

ヨネシゲの体は宙を大きく一回転させてその場に倒れ込んだ。

ユータは驚いた。

マックスの鬼特訓をしていた自分ですらヨネシゲの体を一回転させたことはない。

マックスやクラフト三姉妹ならともかく、急成長したヨネシゲにあれほどのダメージを与えられる人物が居るとは思っていなかった。


「ジョ、ジョーソンさん!」


盗賊たちが声を揃えて名を呼ぶ先には大きく腕を回して立っている一人の男がいた。

ヨネシゲに強烈なラリアットをお見舞いしたのは、マッチャン一家副頭領のジョーソンであった。

頭領のマッチャンとは盗賊を始める前からの長い付き合い。

マッチャンと二人三脚で苦楽を共にした相棒であり、親友だ。

彼はマッチャンと肩を並べるほどの実力者。

鉄腕ジョーソンと呼ばれ王国内でも名の知れた存在だ。

その鉄腕の由来となった硬くて太い腕を食らったヨネシゲは、うめき声をあげなら起き上がった。

ヨネシゲの顔はトレードマークの眼鏡が外れて鼻血を流した状態であった。

ヨネシゲは地面に落ちた銀縁眼鏡を拾い上げるとレンズが割れていないか確かめる。

そしてゆっくりと眼鏡をかけ終わると、ニッコリ笑いながらジョーソンのラリアットを称賛した。


「効いたよ。強烈なラリアットだった!」


するとジョーソンはヨネシゲがアジトに足を運んでくれたことのお礼を述べた。


「わざわざここまで足を運んでくれてありがとう、感謝する」


そしてジョーソンはヨネシゲの成長ぶりを称えた。

1ヶ月前はマッチャンの拳が頬をかすめただけで意識を失ってしまったヨネシゲ。

そのヨネシゲがジョーソンの強烈なラリアットを食らって鼻血を流しながらも余裕の表情。

ヨネシゲがどれだけ急成長したかが伺える。


「アンタは恐ろしいほど成長したみたいだ。だが、今のアンタじゃマッチャンには勝てない。帰れ…」


ヨネシゲはジョーソンの突然の帰れと言う言葉に目が点になる。

ユータとチャールズも驚きを隠せない表情だ。

マッチャン一家の危機を脱するために、ヨネシゲをマッチャンと接触させる計画を企てていた。

その計画を企てた張本人がヨネシゲをマッチャンと接触させる前に帰そうとしているのだ。

この計画の工作員であるチャールズはジョーソンに尋ねた。


「ジョーソンさん、どういうつもりだ!?これじゃ意味がないでしょう!?」


「その必要がなくなったからだ…」


チャールズの問にジョーソンは答えた。

マッチャンはヨネシゲが姿を現さなくても夜が明けたら出発する考えだ。

ジョーソンは盗賊たちに出発の準備をするように伝える。

チャールズは自分の努力は何だったのかと肩を落とす。

倒れていた盗賊たちはジョーソンの言葉を聞いて起き上がりアジトの中へ戻ろうしていた。

だがこれを聞いてヨネシゲが黙っているはずがない。


「話が違うだろ!」


ヨネシゲは怒り心頭の様子でジョーソンを怒鳴り付ける。

そんなヨネシゲにジョーソンが説明する。


「怒るな。マッチャンと戦いたければ戦えばいい。だが今のアンタじゃ、マッチャンに勝てんよ…」


ジョーソンは言う。

マッチャン一家としてはマッチャンとヨネシゲを接触させる必要がなくなった。

これ以上お互い無駄な労力を使うべきではない。

しかし、どうしてもと言うならマッチャンと戦えばいい。

マッチャンも相手をしてくれるだろう。

だが、急成長したヨネシゲと言えどもマッチャンには勝てないと言うのだ。


「戦ってくれだの、戦わないほうがいいだの…矛盾したことばかり言いやがって!」


ヨネシゲはご立腹のご様子だ。


「悪いな。だがこれ以上無益な戦いはお互いすべきじゃない。それにマッチャンと戦えばまた周りの仲間に恥をさらすことになるぞ?」


ジョーソンはそう言った後に提案する。


「だがどうしてもと言うなら、俺の本気の鉄腕に耐えてからにしろ」


マッチャンと戦いたいのであれば、ジョーソン本気のラリアットを耐えてからにしろと言う。

実はジョーソン、特殊能力の使い手。

その能力とは自身の腕を鋼鉄の如く硬くすることができる。

鋼鉄と化した腕は剣を受け止めることや銃弾を跳ね返すこともできる。

正しく鉄腕だ。

ジョーソンは自身の鉄腕でヨネシゲの耐久力を見極めるつもりだ。


「いいだろう!かかって来やがれってんだい!」


そう言うとヨネシゲは腕を組み仁王立ちした。

するとジョーソンは右腕を水平に伸ばし構え始める。

その様子を息を呑みながら見守る盗賊たち。

そんな中、一人の男が待ったをかける。


その男とは、ユータであった!


「ユータ!?奴の相手は俺だ、邪魔するな!」


下がるように言うヨネシゲ。

ユータはヨネシゲに変わってジョーソンの前に立ち塞がる。

そしてユータは口を開いた。


「お前の相手は俺だ!」



ユータはヨネシゲに代わってジョーソンの鉄腕ラリアットを食らうつもりだ。



これは…ヨネシゲを庇っての行動か!?

あるいは…?



つづく…

豊田楽太郎です。

いつもヨネシゲの記憶を応援してくださっている皆様、ありがとうございます。


25話の投稿が遅くなり申し訳ありませんでした。


次回第26話は、いよいよ2章最後のお話となります。

ヨネシゲのリベンジ戦の行方は…?


投稿までまたお時間頂きますがお楽しみに!

今後ともよろしくお願い致します。

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