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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
2章 空想の猛者たち
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第24話 アジト

アライバ峠の頂上付近に店を構える峠茶屋“アライバ”

この茶屋を営むのは、白髪頭で丸眼鏡とお団子ヘアがトレードマーク、割烹着姿の老婆だ。

そしてここの茶屋は深夜帯のみの営業となっている。

アライバ峠は日中でも人通りが少ないと言うのに、何故深夜しか営業していないのか不思議に思う。

ましてや、この峠は深夜となると盗賊に山賊、暴走族など危険な集団が襲ってくることも。

道のあちらこちらに“悪党出没注意”と書かれた保安局の立て看板が立っていた。

ちなみにこのアライバ峠は王国の管轄であり、領主ヨネシゲの管轄する領土ではない。

仮にヨネシゲの領土という設定なら治安は良かったのかもしれない。

そんな真夜中の茶屋で三色団子を頬張っているのは、盗賊マッチャン一家のリーゼント男、チャールズである。


「待ってたぜ、ヨネシゲさんよ」


強面の顔をニッコリ微笑ませながらチャールズがそう言う。

しかし、ユータを見るや否やその表情を一気に曇らせる。


「約束が違うぞ、なぜコイツが居る?」


チャールズはヨネシゲと接触する際に、他のヨネシゲ関係者に知られることのないように行動していた。

ヨネシゲ関係者にリベンジの件が知られれば阻止される可能性が考えられる。

確かにヨネシゲは約1ヶ月の特訓で急成長を遂げている。

しかし、たった1ヶ月の特訓でそう簡単にマッチャンに勝てるはずがない。

少なくともチャールズはそう思っている。


とにかく、ヨネシゲにはアジトへ来てもらいマッチャンと対面してもらわないと困る。

リベンジするしないはその場で決めてもらえればよい。

マッチャンと会って話をすることが重要なのだ。

マッチャンはヨネシゲを待ち続けている。

彼自身が待っていると発言してしまったからだ。

マッチャンは自分の言葉に責任を持つ男。

ヨネシゲが来るまで意地でも動かないつもりだ。

このままではマッチャン一家はアライバ峠から移動できない。

盗賊としての仕事があればこのままアライバ峠にアジトを構えることに問題ない。

貧乏人や一般人から金を盗らないがモットーのマッチャン一家は、悪徳貴族や悪名高い資産家などからしか盗みを働かない。

しかし、アライバ峠周辺に悪徳貴族等は圧倒的に少なかった。

そうせいでマッチャン一家は仕事ができていない。

仕事ができていないと言うことは収入がない。

そうなるとマッチャン一家は生活できなくなってしまう。

それは彼らにとって大問題だ。

事態を重く見た副頭領ジョーソンはチャールズを使者としてヨネシゲの元へ送ったのだった。


「一人でこっそり屋敷を抜けるつもりだったが、見つかってしまったんだ」


ヨネシゲがそう説明するとチャールズは不機嫌そうにユータの顔を見る。

それに対してユータはヨネシゲから事情は聞いているし、他に話を漏らすこともしないと伝えた。

そしてユータがヨネシゲと一緒に同行することにした一番の理由は彼のサポートである。


「マッチャンとの決闘を前にヨネさんが体力を消費することがあってはならないと思ってね。マッチャンだってハンデのある相手と本気の勝負はしたくないでしょ?」


ユータの言葉にチャールズは納得したのか先程までと変わって表情が穏やかになった。

とは言っても元々強面の顔であるため、怒っているような表情だが…


「ヨッシャー!案内しろ!」


ヨネシゲはいつもに増して気合いが入っている。

チャールズにアジトへ案内するように話しかけてる最中、不気味な笑い声が背後から聞こえてきた。


「イッヒッヒッ!」


背後で不気味な笑い声を出しながら微笑んでいたのは、この峠茶屋アライバの店主の老婆。

月明かりに照らされた老婆の笑顔が更に不気味さを増している。


「な、なんだ、ばあさん!?俺たちは急がなくちゃ行けないんだ」


ヨネシゲがそう言うと老婆は皆にベンチに座るよう促す。


「腹が減っては戦はできんよ。さあ、アライバ名物の“峠団子”だよ。お食べ」


老婆がそう言って差し出したのは、自称アライバ名物の“峠団子”

あのマッチャンも峠団子の大ファンだ!

皿には抹茶を練り込んだ団子に、こしあんがたっぷりと塗れている。

そして峠団子の隣にはマーガリンがトッピングされていた。

ユータとヨネシゲは峠道を一時間以上歩いていたため小腹は空いていた。

少し不思議な団子であったが、マッチャンとのリベンジの前に腹ごしらえをする事にした。

食してみると思っていた以上に美味であった。

峠道を歩いて少し疲れた体に、こしあんの糖分とマーガリンの塩分が身体に染み込んでいく。

気が付いたらユータとヨネシゲは峠団子を間食していた。

時間がないのは知ってはいたが、二人は思わず団子をおかわりしてしまった。

老婆が峠団子と呼んでいるのも確かに頷ける。


「イッヒッヒッ…今日は大繁盛だね…」


老婆は不気味に笑いながらヨネシゲたちに食事代を請求。

しかし、その金額は団子にしては高すぎるものであった。

老婆曰く峠価格とのこと。

ヨネシゲとユータはしぶしぶ支払いに応じる。

ちなみにチャールズはここの峠団子の価格を知っていたため、一番安い三色団子を食していたのだ。

支払いを終えたヨネシゲたちは老婆に別れを告げてアジトを目指す。


「イッヒッヒッ…また来ておくれ…」





ヨネシゲとユータはチャールズに先導されて峠道から外れた側道を進んでいた。

この先にマッチャンのアジトがある。

そう考えると二人の心拍数はアジトを前にして上がっていた。

側道を歩くこと10分程、ついに盗賊マッチャン一家のアジトが姿を現してきた。


「あれだ…」


チャールズが指指した先には石造り二階建ての堅固な建物が。

マッチャン一家がアジトとして使用していたのは、かつてグレート王国軍か使用していた軍施設だ。

このアライバ峠は王国軍と、とある領主が激戦を繰り広げた地。

そのためこの峠には双方の軍施設がそのまま残されているのだ。

アジトの近くまでくると、入り口付近には大勢の男たちの姿があった。


「うわっ…アイツらだ」


ユータが思わず言葉を漏らす。

アジトの前に居たのはマッチャン一家の盗賊たちであった。

その中にはスキンヘッドのノア、金髪モヒカンとちょんまげ男の姿もあった。

それを見たヨネシゲは盛大な出迎えだなと言いながらニヤリと笑う。

そんなヨネシゲに中へ入るよう促すチャールズ。

ヨネシゲはアジトの入り口へと歩いて行く。

その後をユータが続こうとするがチャールズに肩を掴まれる。


「お前はここまでだ。外で待っていろ」


チャールズの言葉にユータは大人しく従った。


ヨネシゲが入り口の前まで来ると、それを阻止するかのように盗賊たちが立ちはだかる。

それを見たチャールズが彼らに道をあけるよう言う。

しかし、盗賊たちは従う様子はない。


「何の真似だ!?ヨネシゲを中に入れさせろ!」


チャールズが怒鳴ると盗賊の若い衆は道をあけるため後退りしていく。

しかし、今度は別の怒鳴り声が聞こえてきた。


「お前ら!ヨネシゲを通すな!」


怒鳴り声の主はスキンヘッドの男、ノアであった。

チャールズは話が違うぞと怒り心頭の様子。

盗賊として働くには仕事が無さすぎるアライバ峠周辺。

ヨネシゲがマッチャンと接触しなければ一味はこのアライバ峠から移動できない。

頭領のマッチャンがヨネシゲが現れるまでここから動かないと言っているのだから。

そうなると彼らの死活問題に関わってくる。

しかし、マッチャンに会おうとしているヨネシゲを阻止しようとする盗賊たち。

同じ仲間のチャールズにはこの行動が理解できなかった。

そんなチャールズにノアが説明をする。


「確かにマッチャンさんにコイツを会わさないと埒が明かねえ。けどな、俺たちゃ子分としてコイツが本当にマッチャンさんの相手に相応しいか見極める必要がある!」


ノアは熱く語っている。


「今はそんは事言ってる余裕はないだろ?若い奴らの事も少し考えろよ!ジョンとムラマサもそう思うだろ!?」


チャールズは呆れた様子でノア言葉に反論。

仕事ができていないため、マッチャン一家の金銭状況は悪化する一方。

そんな中、少しでも節約しようと一味の若い衆は一日一食にしたり、中には断食する者も。

若い衆に負担をかけてまでヨネシゲの訪問を待っている頭領マッチャン。

そんな彼のスタイルにチャールズと副頭領のジョーソンは疑問を抱いていた。

そして、チャールズは金髪モヒカンとちょんまげ男に理解を求めた。

この金髪モヒカンの男、名は“ジョン”と言う。

ちょんまげ男の名は“ムラマサ”だ。

だが、ジョンとムラマサの考えはノアと同じであった。

チャールズが説得を続けるが彼らは聞く耳を持たない。

するとヨネシゲはチャールズに話しかけた。


「兄ちゃんも苦労してるな。まあ、俺がコイツらを倒せば済む話だろ?ここは俺に任せろ!」


ヨネシゲの言葉にチャールズは少し困惑していた。

ヨネシゲには万全の状態でマッチャンとの戦いに挑んでもらいたい。

ここで体力を消費してしまってはヨネシゲは不利になる。

確かにヨネシゲは特訓で強くなったかもしれない。

チャールズも彼の成長ぶりを目の当たりにしている。

しかし、マッチャンの強さはこんなものではない。

少しでも万全の状態で挑まなくてはならない。

チャールズはそう思っていた。


「安心しろ、準備運動だ」


ヨネシゲはチャールズにそう言うと視線をノアたちの方へ向けた。

ノア、ジョン、ムラマサ、そして盗賊の若い衆はいつでも戦えるように身構えていた。


「ヨネさん!ここは俺が!」


ユータはヨネシゲをサポートするため前に出ようとする。

ユータがヨネシゲに同行した理由はこういう場面に遭遇した際の彼の援護だ。

するとヨネシゲはユータを制止させる。


「奴らのご指名は俺だぜ」


ヨネシゲはそう言うとユータに下がるよう指示した。

そして腕を組み仁王立ちの決めポーズと決め台詞!


「いつでもかかってきな…」


ヨネシゲはドヤ顔で手招きすると盗賊たちが一斉に襲いかかってきた。




ヨネシゲ劇場、開幕…!



つづく…

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