第23話 グレートアライバ連合
マッチャンへのリベンジを果たすためアジトを目指すヨネシゲ。
そして、ヨネシゲがマッチャンとの一戦を前に体力を消費してはいけないと考えサポート役でユータが同行する。
ユータは周りの雑魚を片っ端から倒していくつもりだ。
雑魚と言っても1ヶ月前はその雑魚相手に苦戦を強いられていた。
だが、ユータとヨネシゲはマックスの鬼特訓やクラフト三姉妹の実戦訓練で急成長を遂げた。
今の彼らにとって盗賊のしたっぱなど敵ではないはず。
とはいえ実際に戦ってみないとわからないが。
そんな彼らに今災難が迫っていた。
アライバ峠の中腹付近に差し掛かっていた時である。
ユータとヨネシゲの目の前に無数の光が現れる。
その光はゆっくりとこちらに向かって進んできている。
パラリラ…パラリラ…パラリラ…
それと同時にどこかで聞き覚えのラッパの騒がしい音も迫ってくるのだ。
これはもしや!?
「暴走族か…」
ユータがそう言葉を漏らすとヨネシゲが説明を始める。
「あれは!さっき説明したグレートアライバ連合だ!」
そう言えば先程ヨネシゲはこのアライバ峠を縄張りにする暴走族“グレートアライバ連合”について一生懸命説明していた。
しかし、ユータは説明を聞き流していたため内容を覚えていない。
そもそも、何故ヨネシゲはこの暴走族に詳しいのか?
その理由は、ヨネシゲがこの空想の世界と共に生み出した存在だからだ。
グレートアライバ連合はヨネフト村を荒らしにやって来る迷惑集団という設定。
そんな彼らをヨネシゲが華麗にお仕置きするのだ。
ヨネシゲの噛ませ犬と言ったところか。
いずれにせよ相手が暴走族なら厄介だ。
関わらないのが一番良いだろう。
ユータはそう考え、木の陰に隠れることにした。
だがあの男は隠れることはしなかった。
ヨネシゲだ!
彼は道のど真ん中で腕を組ながら仁王立ちし、暴走族を待ち受ける。
あの人は何故自ら厄介事に首を突っ込むのか?
この後マッチャンとのリベンジマッチが待ち受けているというのに、ここで無駄な時間と体力を使うつもりか?
ユータには理解できなかった。
ユータはヨネシゲにこちらに来るよう手招きをする。
もちろん、ヨネシゲがそれに応じることはなかった。
そうこうしているうちに暴走族と思われる集団にヨネシゲは取り囲まれる。
ここで二人はある違和感を覚える。
それは暴走族の男たちが乗っている乗り物だ。
恐らくだが、暴走族の人が操るマシーンと言えばバイクを思い浮かべるであろう。
しかしながら暴走族らしき男たちが乗っているのはバイクではなかったのだ。
チャリン!チャリン!
彼らが乗っていたのは自転車であった。
街中でよく見るシティサイクルやロードバイクにマウンテンバイク、三輪自転車や補助輪付きなど種類豊富。
各自転車にはラッパやベル、ライト、ミラー、旗、その他各種パーツなど個性豊かに装飾されていた。
自転車以外は暴走族の名に相応しい装備である。
いや、まだ暴走族と決まった訳ではないが…
「お前たちはアライバ連合か?」
ヨネシゲがそう尋ねると、この集団のリーダーらしき男が誇らしげな表情で答える。
「おうよ!俺らがこのアライバ峠の主!グレートアライバ連合よ!」
やはり彼らはこのアライバ峠を縄張りにする暴走族“グレートアライバ連合”であった。
今度はリーダーらしき男がヨネシゲに尋ねる。
「そう言うお前は一体誰なんだよう!?」
するとヨネシゲは待ってましたと言わんばかりに鼻息を荒くしながら自慢げな表情で名乗り始める。
「俺はヨネフト地区の領主、ヨネシゲ・クラフトだ!」
言い終えるとヨネシゲはキメ顔を見せつける。
ヨネシゲの名を聞きアライバ連合の集団からはどよめきが起こる。
仮にもヨネシゲはこの世界で最強のヒーロー的存在。
その事はこの暴走族たちも知っている。
しかし、その最強であるはずのヒーローは盗賊“マッチャン一家”に敗北してしまった。
その情報はヨネフト地区だけではなく周辺の領土まで広がっていた。
当然、この暴走族たちもヨネシゲ敗北の情報を耳にしていた。
「あんた、マッチャンに負けたんだってな?」
アライバ連合のリーダーらしき男がそう言うとヨネシゲの表情は先程までとは打って変わって険しいものとなった。
「そうだ。俺はマッチャンに負けた」
ヨネシゲは正直にマッチャンに負けたことを認めた。
それを聞いた暴走族たちからは笑いが起こるかと思われたが、彼らの表情はヨネシゲ以上に険しいものとなっていた。
「あんたでもマッチャンには勝てないのか…」
リーダーらしき男は落胆した表情でそう言った。
ヨネシゲはその表情から察したのか男に尋ねる。
「お前たちもマッチャンにやられたのか?」
その問に暴走族一同悔しそうな表情を見せる。
木の陰から様子を伺っていたユータは、今すぐに暴走族たちと衝突することはないと判断しヨネシゲの側まで姿を現した。
暴走族のリーダらしき男は予想通りこのグレートアライバ連合のリーダーであった。
リーダーの男は悔しそうな表情で語り始めた。
今から2ヶ月前のことである。
グレートアライバ連合の集団はいつものように夜のアライバ峠を自転車で爆走していた。
すると突然謎の集団が目の前に立ちはだかる。
「なんだ?お前ら?」
リーダーがそう尋ねると謎の集団の一番先頭に立っていた大男が名乗り始める。
「俺たちは泣く子も黙るマッチャン一家だ!」
その謎の集団とは盗賊マッチャン一家であったのだ。
そして先頭の大男の正体は頭領のマッチャン・ボンレスであった。
アライバ連合に緊張が走る。
マッチャン一家と言えばグレート王国内でも名のある盗賊団。
そしてこの盗賊は少し変わっており、悪名高い貴族や資産家などから盗みを働く。
凶悪な盗賊団や有名な暴走族グループなども襲撃して金品を奪ったと言う噂も聞く。
そうなるとマッチャン一家の獲物は自分たちアライバ連合か!?
リーダーの男はマッチャンに問う。
「お前たちの狙いは俺たちか…?」
「そうだと言ったら?」
マッチャンが不敵な笑みを浮かべながら答える。
それを聞いたアライバ連合の男たちは身構える。
マズイ!
このままではやられてしまう…!
それなら、やられる前にやってしまえ!
「お前ら!やるぞっ!」
リーダーの号令と共にアライバ連合の男たちが一斉にマッチャン一家に襲いかかった。
数分後…
そこにはボコボコにされてしまったグレートアライバ連合のメンバーたちが倒れていた。
一瞬のうちに彼らは倒されてしまった。
それもマッチャン一人に…
マッチャンが倒れているリーダーの元に歩み寄る。
「兄ちゃん、早とちりはいけねぇな」
どうやらマッチャンたちはアライバ連合には用はなかったようだ。
アライバ峠にやって来たのはここに拠点を置くため。
マッチャン一家はグレート王国内を転々と活動する盗賊。
目的を果たしたり利益が見込まれない場合は次なる拠点を探し移動する。
そして今回彼らはこのアライバ峠周辺で仕事をすることに決めていたのだ。
「しばらくの間、このアライバ峠は俺たちの縄張りだ。俺たちの邪魔はするなよ」
マッチャンはリーダーにそう言い残し去っていった。
その後、アライバ連合行動範囲はマッチャン一家によって制限されてしまったのだ。
現在マッチャン一家が拠点を置いている頂上付近がアライバ連合がメインで活動していた場所。
うるさいと言う理由から峠の中腹から麓のへと追いやられてしまったのだ。
縄張りを奪われると言うのは彼らにとって屈辱だ。
しかし、マッチャンの圧倒的な力を前にして逆らうこともできなかった。
「俺たちは縄張りを奪い返したい…」
リーダーが悔しそうな表情でそう言う。
するとヨネシゲが一言。
「ドンマイ!」
その一言にアライバ連合一同はは唖然とた表情をしていた。
自分たちのこの上ない屈辱をドンマイの一言で済まされてしまっては堪らない。
そんな彼らにヨネシゲは言葉を続けた。
「マッチャンは俺が倒して縄張りを取り返してやるからよ!」
その言葉に今度は驚きの表情を見せるアライバ連合一同。
マッチャンに負けた男がそう言っても説得力はない。
そんな彼らにヨネシゲは説明する。
確かにマッチャンには惨敗してしまった。
自分が何でもない一般人であれば負けっぱなしでもよい。
しかし、ヨネシゲはヨネフト地区の領主を務めている。
もし再びマッチャンが村に現れて危害を加えることがあったら?
自分は家族や仲間、民たちを守れるのであろうか?
そう考えたヨネシゲ強さを手に入れるため特訓を行うことにした。
マックスやクラフト三姉妹の熱血指導、そしてユータと共に切磋琢磨し急成長を遂げることに成功した。
当初マッチャンへのリベンジは考えていなかったが、マッチャン一家の諸事情により要請を受けリベンジマッチに挑む。
突然のことではあったが、今の自分ならマッチャンに勝てる自信がある。
ヨネシゲはアライバ連合にそう語った。
しかし、それを信用していないアライバ連合一同。
リーダーの男が口を開く。
「本当にアンタがマッチャンに勝てるか、俺たちが見極めてやるよ!」
そう言うとアライバ連合の男たちは鉄パイプや金属バットを手にして戦闘体勢に入る。
それを見たユータも身構え始める。
しかし、ヨネシゲは止めとけと彼らに警告する。
だが、アライバ連合の男たちはヨネシゲたちに今にも襲ってきそうな勢いだ。
するとヨネシゲは隣にあった大木に目をやる。
「ちょっと見ていろ」
ヨネシゲはそう言うと大木の元へ歩み寄ると拳を振りかざす。
そして大木へ渾身の拳をお見舞いする。
バキバキバキバキ!
大木は大きな音をたてながら折れていく。
折れた大木はアライバ連合の男たち目掛けて倒れてくる。
男たちは悲鳴を上げながら退避する。
大木が倒れた瞬間地面が揺れる。
大木の重さが伺える。
男たちはヨネシゲの力に呆気にとられていた。
「お前らもこうなりたいか?」
ヨネシゲはドヤ顔でそう言った。
その後、ヨネシゲたちは暴走族グレートアライバ連合と交戦することなかった。
敵であるはずの暴走族たちから声援を貰い、マッチャン一家のアジト目指してアライバ峠の夜道を進んでいた。
「そう言えば、アジトの具体的な位置を聞いていなかったですね」
「そうだったな…」
マッチャンとチャールズはアジトに来いとは言っていたものの、具体的な位置は聞いていなかった。
アライバ峠の頂上まであと少しというところまで来ていたが、アジトらしき建物は見つかっていなかった。
のんびり探している暇もない。
チャールズには夜に来いと言われている。
あと2~3時間程で夜が明けてしまう。
日が昇るまでにはマッチャンとのリベンジマッチにけりをつけて屋敷に戻っていなくてはならない。
ヨネシゲは周りの者には内緒で屋敷を夜な夜な抜け出してきた。
この事がクラフト三姉妹とマックスに知られれば何かと面倒だし、ソフィアやルイスたち余計な心配をかけてしまう。
徐々に焦り始めるユータとヨネシゲ。
その時である。
遠くの方で灯りが見える。
もしかしたら、そこがマッチャン一家のアジトかも!
ユータとヨネシゲはお互いの顔を見ると灯りの元へと走って行った。
ユータとヨネシゲの前に現れたのは古びた木造の建物。
建物の前にはのぼり旗が立っている。
旗には“峠茶屋アライバ”と書かれている。
どうやらこの建物は茶屋みたいだ。
ユータたちは茶屋にもう少し近付いてみることにした。
茶屋の外にはベンチが置かれていた。
よく見るとベンチには誰かが座っており、その横にはもう一人誰かが立っている。
更に近付いてみるとベンチの上には見覚えのある男が座っていた。
ヨネシゲがベンチに座っている男の名を呼ぶ。
「チャールズ…か?」
ベンチに座っていたのは昼間ヨネシゲにアジトへ来るよう伝えに来たあのリーゼントの男、チャールズである。
真冬の夜中の峠道、そこに突如現れた古びた茶屋。
その茶屋のベンチでジーンズとタンクトップ姿で団子を頬張るリーゼント男。
その傍らで店主と思われる老婆がにっこりした表情で立っていた。
なんとも異様な光景であった。
そしてリーゼント男が口を開く。
「名前を覚えていてくれて光栄だよ、ヨネシゲさん。待っていたぞ」
チャールズは不気味な笑みを浮かべていた。
真夜中の茶屋で待ち受けるリーゼント…
つづく…
お世話になってます、豊田楽太郎です。
いつもヨネシゲの記憶を応援していただきありがとうございます。
23話の投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。
仕事の影響で24話の投稿も遅くなるかと思います。
出来る限り早く投稿できるよう努力しますので今後ともヨネシゲの記憶をよろしくお願い致します。