第19話 花咲かユータ ※挿絵あり
マックスの鬼特訓を始めてからもう少しで二週間になる。
ユータとヨネシゲは着々と力を付けていたが、途中から組み込まれた特殊能力の練習に二人は四苦八苦していた。
練習しても目に見える効果がない。
そう感じていた。
だが、ある日のことである。
ヨネシゲが特訓で傷付いたユータに練習中の治癒術を試してみる。
完璧ではないもののユータの体から疲労を取り除き、傷もある程度回復させていた。
本来メインで練習していた火炎系の技ではなく治癒術であったが、これでヨネシゲは特殊能力を使用できたことになる。
一方のユータは依然として特殊能力の練習の成果が現れていなかった。
ヨネシゲに先を越されてしまった。
同じ日から特訓を始め能力の差もあまりなかったことから、いつしかユータはヨネシゲをライバル視していた。
そのヨネシゲに一歩リードされるのは悔しい。
ユータは焦った。
その翌日いつも以上に気合いを入れて特殊能力の練習をしていたユータ。
電撃を放つつもりで両手に力を送り込む。
するとユータの手から放たれたのは電撃ではなく一輪の花であったのだ。
「な、何だこれは…!?」
自分の手のひらに突然咲いた花を見てユータは唖然としていた。
「俺が繰り出そうとしたのは電撃だぞ!?何故花なんかが出てくる!?」
理解に苦しむユータにマックスが歩み寄る。
「特殊能力成功だな」
「これがですか!?だ、だけど…!」
マックス曰くユータは特殊能力の使用に成功したとのこと。
これでユータはヨネシゲと肩を並べることができた。
しかし、彼が使いたいのはこれではない。
ユータが練習していたのは電気系の特殊能力であって、手から放とうとしていたのは電撃である。
決して花などではないのだ。
「また随分と可愛い特殊能力だな。これがお前が使いたい技か?」
「マックスさん、違うんです!俺は…!」
マックスが軽くからかうようにそう言うとユータは誤解を解くかのように説明する。
今日まで電気系の技をイメージしながら特殊能力の練習をしていた。
しかし、実際に現れたのは電撃ではなく、一輪の花。
花のことなんか頭の片隅にもない。
電撃の変わりに火炎系や水系の技を繰り出したのであれば素直に納得して喜べる。
何故なら敵と戦闘になった時に十分にダメージを与えられることが十分に想像できる。
では、花ではどうだろうか?
こんな可愛らしい花では敵にダメージを与えることができないだろう。
想像ができない。
意表を突くという意味で敵の隙くらいは作れるかも…
仮にこの花で相手に大打撃を与えることができたとしても迫力がない、華が無さすぎる。
いや、花はあるのだが…
そんな事を思いながらユータは電撃を使いたかったとマックスに説明していた。
するとマックスが電撃ではなく花が出てきた理由について話始めた。
「お前は恐らく、植物系の特殊能力に才能があるのだろう」
マックスは説明を続ける。
能力が平均並みの人間が練習すれば、ほとんどの場合自分の思い描いた通りの特殊能力を発動することができる。
特殊能力の威力については個人差はあるが。
しかし、稀にユータみたいにイメージ通り能力を発動できないことがある。
その理由として、本人は無意識であるが眠っている能力を練習などで見知らぬうちに刺激していることがある。
特に無意識で刺激しまっている能力は本人との相性が良く他より秀でているパターンが多い。
だが、相性の良い能力を探し出すのは難しいことである。
探し出す方法としては、まず出来る限り多くの特殊能力を習得する必要がある。
その後、習得した能力を全て鍛え上げなければならない。
何故なら特殊能力を習得した初期の段階では能力同士の差があまり感じられない。
そのためどの能力が自分に合うのわからない。
相性が良い能力であれば使いこなせるまで時間はかからない。
しかし、能力との相性が悪いと成長が伸び悩む。
しばらく能力を使用して見極めが必要だ。
だが、ほとんどの者が自分と本当に相性の良い能力と巡り会えていないのが現実だ。
一部の上級者や特殊能力マニアでない限り、能力を一つでも使用できればそれで満足してしまう。
また、特殊能力一つ習得するのにもかなりの時間と労力を使用するので、ほとんどの者が新たな能力を習得するのを躊躇ってしまうのだ。
そう言った意味で今回のユータは運が良い。
確かに相性が良いかは断言出来ない。
とはいえ、ユータは念願の特殊能力を使用できるようになった。
当初練習していた電気系ではないが、どのタイプでも特殊能力に変わりはない。
素直に喜んでいいであろう。
マックスはそう語る。
「せっかくだし、植物系を極めてみろ」
するとマックスが植物系の特殊能力をマスターするよう進めるが、ユータは不満げな顔を見せる。
植物系と言われてもあまりピンとこない。
花や草などを自在に操ることができるのだろうが、それを使用して戦う姿が想像できないのだ。
そんなユータにマックスが植物系特殊能力について語り始める。
植物系は数ある特殊能力の中でも習得も扱いも難しい。
それ故、使用する者も少ない。
そんな植物系、派手さはなく地味はであるが、とても生命力が溢れる系統である。
植物を自在に操っての攻撃や、あらゆるエネルギーを吸収し自分に取り込むことも可能。
使いこなせれば治癒術以上の回復技が使えたり、持久戦に持ち込めば粘り強い戦いを見せてくれるであろう。
植物系はとても魅力的な特殊能力である。
マックスはそう熱弁していた。
しかし、ユータはそれでも渋い顔をしていた。
「ですが、皆が敬遠する能力を俺なんかが使いこなせますかね…」
そう言うユータにマックスが一つ提案する。
「試しにもう一回やってみな。この庭一面に花を咲かせてみろ」
マックスはユータが植物系の特殊能力を使いこなせる見込みがあるかどうか試すようだ。
だが、庭に花を咲かせろと言われても庭は雪に覆われている。
初心者である自分には難易度が高すぎる。
ユータは無理と思いながらも両手を地面に向け構え始める。
庭に満開の花を咲かすイメージで両手に全神経を注ぐ。
それをマックスとヨネシゲは見守っていた。
そして、ユータは掛け声と共に思いっきり両手に力を入れた。
すると一同、驚きの光景が目に広がる。
ぽんっ、ぽんっ、ぽんっ…
雪に覆われた地面から無数の花が顔を出す。
庭一面に色彩豊かな花でいっぱいになった。
信じられない、これは自分がやったのか?
ユータは間の抜けた表情で立ち尽くす。
ヨネシゲも顎が外れそうな位口を開きながら驚いていた。
練習したとはいえ現実世界から一緒にやって来た凡人であるユータが特殊能力を使い庭一面に花を咲かせた。
ヨネシゲが驚くのも無理はない。
そして、庭一面に花を咲かせろと言った張本人であるマックスも驚いていた。
正直言ってここまで花を咲かすとは思っていなかった。
最初と同じように一輪の花を咲かせることができれば上出来だと考えていたからだ。
マックスの予想は良い意味で裏切られた。
二回目でここまで能力を発揮できるのは正しく才能がある証拠である。
「凄いぞユータ!やはりお前には植物系の能力に才能があるみたいだ」
マックスはユータを褒めちぎる。
当初ユータは自分の才能に半信半疑であった。
だが、目の前に咲いている無数の花を見てこれなら自分でも特殊能力を使いこなせると自信が湧いてきた。
当初と練習していた電気系とは異なるが、ここで植物系と出会ったのも何かの縁。
ユータは植物系を極めることに決めた。
「俺も負けてられねぇ!」
ヨネシゲは鼻息を荒くしながらそう言うと練習を再開させる。
ヨネシゲは治癒術を使用できるようになったものの、練習していた火炎系特殊能力はまだ使用できていない。
攻撃系統の分野だとヨネシゲはユータに先を越されてしまった。
このままだとヨネシゲは治癒術しか使えないヒーラー役だ。
それだと彼の柄に合わない。
ヨネシゲはいつも以上に気合いを入れて練習をしている。
ユータも自分の才能を磨くため練習を再開させる。
そんな二人を見てマックスの指導にも力が入る。
あれから約二週間が過ぎた。
特訓を始めてからもう少しで一ヶ月を迎える。
マックスの鬼特訓は日に日にレベルが増してかなりハードなものになっていた。
しかし、ユータとヨネシゲもその鬼特訓に応えるかのように目まぐるしい成長を遂げていく。
初めの頃の二人とは到底思えない。
今実力なら二人だけでマッチャン一家のしったぱ達を軽々倒せるであろう。
特殊能力も急成長を遂げている。
ユータは花を咲かす技の他に草や葉、木などを使用した攻撃技を編み出した。
一方のヨネシゲは火炎系の技は多少使えるようになったが、実戦で使用できるかと言うとイマイチだ。
彼の場合は特殊能力を使用しない肉弾戦が向いてるようだ。
唯一ヨネシゲが得意とするのは治癒術だ。
既に人並み以上の腕前だ。
現在、特殊能力の訓練に関してはユータは植物系、ヨネシゲは治癒術に特化して行っている。
多彩な植物系の技と花吹雪で敵を翻弄する “花咲かユータ”
治癒術で多くの人々を治療する、歩く病院 “大ヒーラーヨネシゲ”
二人がこの異名で呼ばれるのは…まだ先の話である。
ある日の朝、いつも通りマックスの家までやって来たユータとヨネシゲ。
しかし、家にはマックスの姿がない。
いつもならリビングで新聞片手にコーヒーを飲んでいる。
もしかしたら既に庭で待機しているのかもしれない。
そう思い二人は庭へと向かう。
庭に到着すると…思わず顔が引きつってしまう様な光景が目に飛び込んできた。
その光景を見た瞬間、この後自分達に何が起こるのか簡単に想像できた。
ユータとヨネシゲが見たものとは…?
マックスが険しい表情で腕を組み仁王立ちしている。
それは見慣れた光景なのだが…
問題はマックスの背後に居る三人の存在だ。
三人は鬼の形相で腕を組み仁王立ちしている。
その三人の正体とは!?
お察しの通り…ヨネシゲの実姉であるクラフト三姉妹であった。
メアリーは赤色、レイラは青色、リタはオレンジ色の迷彩柄軍服を身に纏っていた。
ユータとヨネシゲが硬直しているとマックスが口を開く。
「今日は実戦形式で特訓を行う。お前たちの敵は俺たち四人だ」
やっぱりそうだったか…
ユータたちの予想は当たってしまった。
マックスとクラフト三姉妹相手の実戦訓練が始まる。
「手加減しないわよ!」
不気味な笑みを浮かべているクラフト三姉妹が口を揃えながらそう言った。
正直、恐怖でしかない…
この試練、二人は乗り越えられるか?
つづく…
豊田楽太郎です。
いつもヨネシゲの記憶をお読みになっている読者の方々、本当にありがとうございます。
読んでくれる方が少しでも居るだけで励みになります。
次話投稿が遅くなってしまうことも多々あると思いますが、今後ともヨネシゲの記憶を応援していただけますと幸いです。
これからもよろしくお願い致します。