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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
2章 空想の猛者たち
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第16話 吹き飛ぶヨネさん

ヨネシゲが決闘に敗れてから一夜が明けた。

そしてまた朝が来る。

朝の日差しを浴び目覚めるユータ。

とても目覚めの良い朝であった。

昨晩はベッドに入ってから一瞬で眠りについたユータ。

早めに就寝し尚且つ熟睡できたからであろう。

ユータはベッドから起き上がるとすぐに身支度を始める。

いつものユータであれば起床してからしばらくぼっーとしてからベッドを出る。

今日は目覚めが良かったというのもあるが、今のユータは時間を一秒たりとも無駄にはしたくなかった。

ヨネシゲの空想の世界に迷い込んでから今日で三日目だ。

現実世界では今頃突然居なくなってしまった自分達を皆が心配しているはずだ。

警察に捜索願いを出されているかもしれない。

下手をしたらメディアに取り上げられ大騒ぎになっているかも…

“工場勤務の男性2人突然失踪!?”なんて…

ヨネシゲの自慢話ではあるまいしテレビや雑誌で名前を全国に晒したくはない。

しかも理由が失踪など自慢話にもならない。


「こうしちゃいられない!」


一刻も早く現実の世界に戻らなければならない。

そのためには帰る方法をヨネシゲと模索する必要がある。

流石にヨネシゲも目覚めているはずだ。

ユータはヨネシゲの自室へと向かうのであった。




ヨネシゲの自室の前に到着。

ユータは扉をノックする。

しかし、応答がない。

ヨネシゲの名を呼びながら再度ノックするもやはり応答がない。

もしかしたらまだ意識が戻らないのか?

このままここで待っていても仕方ない。


「ヨネさん、入りますよ!」


ユータは応答のない部屋に一声かけ中へ入っていった。


「!?」


部屋に入ったユータであったがそこにヨネシゲの姿はなかった。

彼が意識を戻したのは間違えなさそうだ。

しかし、どこへ行ってしまったのだろうか?

もしかしたら既に朝食をとっているのかもしれない。

そう思いユータはリビングへと向かうのであった。




リビングに到着するとソフィアとエリックが出迎えてくれた。

だが、そこにヨネシゲの姿はなかった。

ユータはソフィアたちに挨拶を済ますとヨネシゲの居場所を尋ねた。

それに対してエリックが答える。


「今朝早く、ヨネシゲ様はマックス様の家へ特訓に向かわれました」


「と、特訓ですか!?」


いきなり出てきた特訓と言う言葉にユータは戸惑った。

特訓って一体何をするつもりなのだ?

そんなユータにエリックは当時の様子を振り返りながら詳細を説明した。


ヨネシゲは今朝早くに起きてきて早々、マックスの家に特訓しに行くと言い出した。

理由を聞くと昨日のマッチャンとの決闘で手も足も出なかった自分が情けなくて仕方ない。

それと同時にこんな弱い自分では家族や仲間、民たちを守れないと危機感を覚えたそうだ。

どうしたらよいか考えたときに、相棒マックスの所で一から鍛え直すことを思い付いたそうだ。

実力者である相棒の彼なら教官として不足はなしい、快く引き受けてくれるだろう。

ヨネシゲはそう言うと家を飛び出そうとした。

しかし、クラフト三姉妹やエリックに止められる。

気持ちも理解できるし特訓するのも賛成だ。

だが、今そのタイミングではない。

昨日意識を失い目覚めたばかり。

傷も癒えていなく、遭難事件の後で体力も回復していないであろう。

万全の状態で特訓に望むべきだ。

しかし、一度言い出したら聞かないのがヨネシゲ。

姉たちの制止を振り切ろうとする。

そんな彼に意外にもソフィアが背中を押すのであった。

確かに万全の状態で特訓するのが望ましい。

だが、ソフィアは夫の性格を理解していた。

今ここで止めても彼は隙を見て特訓に向かうことであろう。

ならここで気持ちよく見送ってあげたほうが良い。

彼は大切なものを守るために動き出そうとしている。

民に、仲間に、家族…

ソフィアは妻として彼の意思を尊重してあげたかった。

そんなソフィアであったがヨネシゲに一つだけ約束してほしいとお願いをした。


「無理だけはしないでください」


「ああ、わかったよ!」


ヨネシゲはソフィアと約束を交わすと家を飛び出していった。

クラフト三姉妹はやれやれと言った感じてあったがその表情は晴れやかであった。





その後、ユータは朝食を済ませヨネシゲが特訓しているマックスの家まで向かうことにした。


「冗談じゃないぞ…!」


ユータは何故か不機嫌であった。


「特訓なんてしてる暇はないんだよ。俺達は現実の世界に帰らなくちゃ行けないんだ!」


ユータが不機嫌な理由はヨネシゲが特訓を始めると言い出したことにあった。

正直特訓などしている暇はない。

自分達は一刻も早く現実世界に帰らなくてはならない。

家族や友人、職場の仲間たちが心配しているはず。

それに現実世界でもやりたいこと、やらなくてはいけないことが沢山ある。

具体的にそれを今説明しろと言われてもパッと出てこないが…

とにかくこの世界に自分が留まる理由などないのだ。

確かにこの世界に来てからのヨネシゲは散々な目にあってばかりで同情してしまう。

しかし、ここは彼が作り出した空想の中だ。

言い方は悪いが妄想に過ぎない。

何故自分が彼の妄想に付き合わなければならないのか?

そう考えるとユータの不満はどんどんと溜まっていく。


「どうしても特訓がしたいなら、一度元の世界に戻ってからにしてくれ…!」


ユータが怒るのも無理はない。

彼もまた被害者の一人だ。

ある日突然ヨネシゲの空想に迷い込んでしまった。

自分の空想ならまだしも、なぜ自分が彼の茶番に付き合わなければならないのか?

特訓して“めでたしめでたし”となるのは最終的にヨネシゲである。


「少しは俺のことも考えてくれよ…」


ユータは不満を漏らしながらマックスの家へと向かっていった。

ヨネシゲを連れ戻すために…!




屋敷を出発したユータはヨネフト村で一番栄えている商店街通りを歩いていた。

まだ朝の早い時間ではあるが人通りも多く、開店の準備をする店主たちの賑やかな声が飛び交っていた。

マックスの家へ向かうにはこの商店街通る必要がある。

というよりはユータはこの道しか知らないのである。

商店街通りを歩いていると目の前から大男が走ってくる。

大男はユータに気付くと足を止める。

その男は昨日この商店街通りを通ったときにたまたま出会した人物であった。

彼の名は“ウオタミ・フィシャマン”

このヨネフト村で漁師の長を務める中年男。

伸びきった白髪頭に穏やかな顔つき、クラフト三姉妹に匹敵する巨漢の持ち主である。

ただ、かなりの臆病者らしい。

ウオタミとは数分顔を合わせただけであったが、インパクトがある容姿なので彼の事を忘れることはなかった。


「ウオタミさん、おはようございます!」


「ユータ君、おはよう!ヨ、ヨネさんはっ!?」


ウオタミはそわそわした感じでユータに尋ねる。

ユータはウオタミにヨネシゲは既に目を覚ましてマックスの所へ特訓しに行ったことを伝えた。

何故特訓しに行ったのかも詳細に教えてあげた。

それを聞くとウオタミは安堵の表情を浮かべる。

聞くところによるとウオタミは今朝漁から戻ったばかり。

ヨネシゲ敗北事件を知ったのはつい先程のこと。

ヨネシゲの容態が心配で屋敷に向かっていた最中だったらしい。


「安心したよ…。ならこれも必要ないか」


ウオタミがそう言うと手に握りしめていた物をユータに見せた。

それは寺や神社で手に入れることのできる、よく見慣れたお守りであった。

話によるとこのお守りは災難から身を守ってくれるらしい。

ウオタミは漁に出るとき必ず持ち歩いているそうだ。

臆病者である自分には必需品とのこと。

しかし、ウオタミはその大切なお守りを今災難が降りかかっているヨネシゲに託そうとしていたのだ。


「ユータ君、これからヨネさんに会うつもりかい?」


「ええ、そうですが?」


するとウオタミはそのお守りをユータに渡す。


「これヨネさんに渡してくれるかな?」


「え…大切なお守りなんじゃ?」


「俺にはこれくらいの応援しかできないからね」


これから特訓をするヨネシゲにまた災難がやって来るかもしれない。

災難は続くことが多い。

自分はこのお守りのお陰で今のところ災難という災難に遭っていないそうだ。

もっとも、何かあればヨネフト男児である仲間の漁師たちが守ってくれるが…

そんなお守りを今はヨネシゲに持っていてほしいとウオタミは説明した。


「わかりました」


ユータはウオタミからお守りを預かるとポケットの奥深くへとしまい込んだ。


「応援してますとお伝えしてね」


ウオタミはそう言うと自宅へと帰っていった。


「応援してますか…。俺は今からそのヨネさんを連れ戻すんだけどな…」


特訓などしている暇はない。

彼を説得して連れ戻し現実世界に帰る方法を探さなければならないのだ。

大袈裟かもしれないが自分の人生がかかっている。

こうしている間にも自分の貴重な人生の時間が刻々と過ぎ去っている。

ヨネシゲの空想の中で人生を終えるなんてごめんだぞ。

ユータは急ぎ足でマックスの家に向かうのであった。




ユータはマックス家に到着した。

ヨネシゲは中に居るのだと思い扉をノックして呼び出してみる。

しかし、応答がない。

ベルも鳴らしながら呼んだがやはり応答なし…

人の家だし勝手に中に入るのも躊躇ってしまうが、今はそんな事を気にしていられない。

ユータはマックスの家に突入することにした。

ドアノブに手をかけたその時である。

この家の裏側から男の怒号が聞こえた。

その直後に凄まじい騒音が振動と共に聞こえてくる。

そして、再び男の怒号がこだましている。


ユータは何事かと思い家の裏側へ向かった。

ユータが家の角を曲がろうとしたその時であった。

目の前を謎の物体が物凄いスピードで横切っていく。

そしてその物体は地面に墜落すると辺り一面土ぼこりで何も見えなくなってしまった。

突然自分を襲う土ぼこりにユータは目を塞ぎ咳き込んだ。

しばらくすると土ぼこりも収まり視界が晴れた。

ユータは先ほどの物体が墜落した場所に近寄り目をやると…

その正体は衝撃的なものであった。



「ヨ、ヨネさん!?」


ヨネシゲだ!

なんと、先ほど目の前を高速で横切った物体の正体とはヨネシゲであった…!




ヨネシゲよ…

一体何があった!?



つづく…

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