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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
2章 空想の猛者たち
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第13話 鉄拳のマッチャン ※挿絵あり

ここはヨネフト村にある人気の定食屋“アサガオ亭”

そのアサガオ亭を占拠している盗賊“マッチャン一家”

そしてマッチャン一家を排除するためアサガオ亭に駆け付けたヨネシゲ一同。

ユータ、ヨネシゲ、マックス、メアリーの4人は盗賊たちに包囲されていた。

その盗賊たちを挑発するマックスとメアリー。

当然、血の気の多い盗賊たちが黙っているはずがない。

今にも飛びかかってきそうな勢いだ。

そして、ヨネシゲの“どこからでもかかってきな”という言葉を合図に戦いの火蓋が切って落とされた。



「おりゃあぁぁぁ!」


盗賊たちは雄叫びをあげながら一斉に襲いかかってきた。

たった4人で40人近い屈強な男たちを相手にする。

普通に考えたらユータたちに勝ち目はない。

まず盗賊たちの標的となったのはマックスとメアリーである。

この二人はグレート王国内でもかなりの実力を持つ者。

そのことは盗賊たちも理解している。

それなら厄介者から先に片付けようという考えだ。

6人の盗賊たちがマックスに襲いかかる。

物凄い勢いで殴りかかる。

まるでプロボクサーのような鋭いパンチである。

しかし、それをマックスはひらりとかわす。

別の盗賊たちが再び鋭いパンチを繰り出すがそれも軽々とかわした。

盗賊たちは困惑していた。

自分たちの繰り出した渾身の拳をいとも簡単にかわされてしまったのだ。

そして今度はマックスの攻撃だ。

マックスは瞬間移動のごとく盗賊たちの背後にまわると彼らの首元にポンポンと手刀をおみまいする。

その手刀は物凄く軽やかなものであった。

盗賊たちは次々と気を失いその場に倒れていく。

あんなに軽い手刀で人が気を失ってしまうことにユータは驚いた。

もう一人の実力者、メアリーにも盗賊たちが襲いかかっていた。

二人の盗賊がメアリー目掛けて鋭いパンチを繰り出す。

その二人の渾身の拳をメアリーは両方の手のひらでキャッチすると物凄い握力で握りしめる。

二人の盗賊からは悲鳴があがる。


「若い男の硬い拳…私、好きよ!」


メアリーが不気味な笑みでそう言うと二人の盗賊は怯えた表情で体を震わせていた。

しかし、そんなメアリーは隙だらけ。

その隙を狙って他の盗賊たちがメアリーの腹や背中にパンチやキックをおみまいする。

その拳や足がメアリーの体にめり込んでいた。

彼女はまともに攻撃を食らってしまっていた。

しかし、その攻撃は彼女には効いていないようだ。

ニヤリと笑うメアリー。


「効かないわっ!」


そう言うとメアリーは全身に勢いよく力を入れる。

その瞬間、彼女の周りに居た盗賊たちは衝撃波を受けたかのように吹き飛ばされていく。

とても人間の技とは思えない。


「女の子に暴力を振るうとは、最低な男たちねぇ…」


「お、女の子…!?」


盗賊たちはメアリーの強さ…はたまた彼女の発言に困惑していた。


「お仕置きが必要ね…うふっ!」


不気味な笑みを浮かべるメアリー。


「どうした、もう終わりか?準備運動にもならねぇな。次は誰が相手だ?」


煙草を吹かしながら盗賊たちに詰め寄る余裕のマックス。

そんな二人に後退りする盗賊たちである。


「す、凄い…。流石、メアリー様にマックスさんだわ!」


二人の相変わらずの強さにクレアが言葉を漏らす。

クレアとはこのアサガオ亭の看板娘。

赤髪のショートヘアーに情熱的な真っ赤な瞳。

活発そうな雰囲気の美しい女性である。


静まり返った店内。

前に出てくる盗賊たちはいない。

彼らは完全にマックスとメアリーの強さに怖気づいていた。

これで盗賊たちとの戦いは終わり…と思われたが、店内の一角で争う声と物音が聞こえてきた。

そう、忘れてはいけないユータとヨネシゲだ。

彼らも盗賊たちと交戦中だ。

しかし、マックスやメアリーのようにはいかない。

むしろ盗賊たち相手に劣性を強いられていた。


「これはさっきのお返しだ!」


「うわあぁぁっ!」


スキンヘッドの男に追われているのはユータである。

マックスの財布を届ける道中であったが、謎の少年と遭遇しその少年を追って現れたマッチャン一家の盗賊たちと対峙する。

その際、このスキンヘッド男にユータは襲われる。

ユータは防衛本能のためか無意識にパンチを繰り出す。

するとその拳はこのスキンヘッド男に命中しKOさせてしまう。

そのことを根に持たれているのだ。

スキンヘッド男はヨネシゲやマックス、メアリーには目もくれずユータ目掛けて突っ走ってくる。

彼の気迫に圧倒されユータ逃げ回っていた。

そんなユータの行く手を阻むかのように他の盗賊たちが立ちはだかる。


「ヒッヒッヒッ…ノアの仇は取らせてもらうぜ!」


どうやらこのスキンヘッドの男の名はノアと言うらしい。

そのノアの仇を取るため仲間の盗賊たちがユータに襲いかかってきた。


(ま、まじかよっ!?)


正面には数名の盗賊たち、背後には“スキンヘッド”ノアが迫ってきていた。

挟み撃ちというやつだ。

この狭い店内では逃げ場がない。

それに逃げ回っているうちに出口から離れた場所に来てしまった。

こうなったらやるしかない!

ユータは腹をくくった。

正面から迫ってくる盗賊の一人が殴りかかってきた。

ユータはかわそうとするも盗賊の拳が頬をかすめる。

ユータも負けじと拳を繰り出し応戦する。

生まれて初めての殴り合いの争い。

彼は必死であった。

周りが見えていない。

背後から誰かが殴ってきたのでユータは振り返り拳を放つ。

するとまぐれにもあのスキンヘッド男、ノアの顔面にヒットする。


(ヤ、ヤバい…!)


ユータは焦る。

一度ではなく二度も彼の顔面に己の拳を当ててしまった。

先程は一発KOであった。

しかし、今度は倒れるまではいかない。


「坊主…そんなに俺の事が嫌いか!?」


そう言うとノアはユータの顔面に拳をおみまいする。

吹き飛ぶユータ。


「ざまぁ見やがれ!」


床に倒れたユータであったが殴られた瞬間何かのスイッチが入ったような気がした。


「うおぉぉぉぉ!」


ユータは起き上がるとノアに殴りかかった。

ノアも負けじとユータに殴りかかる。

ユータとノア、一騎討ちの始まりだ。


一方のヨネシゲはというと…


「ゼェ…ゼェ…ゼェ…」


ヨネシゲは数名の盗賊相手にそれなりに奮闘していたが既に体力の限界を迎えていた。


「ほう…なかなかやるのう」


ちょんまげの男がヨネシゲの戦いぶりを見て感心していた。

先程は格好つけていたわりには終始劣勢で相手にダメージすら与えることもできなかった。

だが、がむしゃらに暴れるヨネシゲはまあまあ強かった。

というよりは必死の抵抗と言ったほうがいいであろう。

今は形振り気にしていられない。

しかし、最強のヒーローであるはずの男とは思えないほどの余裕の無さだ。


「ヨネシゲってメチャ強い奴だと思っていたが大したことねぇな。噂は信じてたんだが…」


金髪モヒカンの男は残念そうに嘆いた。

グレート王国内でも絶対的ヒーローと噂されていたヨネシゲ。

その存在は盗賊である金髪モヒカンも一目置いていたようだ。

しかし、目の前で盗賊の若い衆相手に必死の抵抗を見せるこの男。

最強のヒーローとはかけ離れた存在であった。

ヨネシゲはフラフラになりながらも腕を振り回しながら蹴りを繰り出し周囲の盗賊たちに攻撃を浴びせていた。

当然盗賊たちも応戦しヨネシゲに攻撃を与える。

しかし、そんな戦いもついに終止符が打たれる。

それはある男の一言によってだ。


「やめろ…」


「!!」


その声が聞こえた瞬間盗賊たちは争うのを止めて声の聞こえた方を振り返る。

ユータたちもその声の聞こえた方向へ目をやる。

するとその先のカウンター席に座って一人黙々と食事をしている大男の後ろ姿があった。


「マッチャンさん…!」


一人の盗賊がそう口を開く。


「何…?マッチャンだと!?」


その言葉にヨネシゲは反応した。

どうやら先程の声の主はマッチャンと言う男らしい。

そう、マッチャン一家の頭領である。

ヨネシゲはおぼつかない足取りでマッチャンと思われる男の側まで駆け寄る。

それを見たユータやマックス、メアリーはヨネシゲの側へと向かう。


「お前が頭か…?」


「……………」









挿絵(By みてみん)




ヨネシゲはマッチャンらしき男に問うが無言のまま食事を続けている。

ヨネシゲは男に問い続ける。


「お前が頭か聞いている!」


ヨネシゲの質問に男は背を向けたまま無言だが食事を終えたみたいだ。


「ごちそうさん…」


その言葉を聞いたクレアが男の元へ駆け寄る。


「ご、ご満足頂けましたか…?」


「あぁ…最高に美味かったよ!茶…くれるか?」


「はい!すぐお持ちします!」


男は満足そうにそう答えるとクレアに茶を持ってくるよう頼んだ。

その光景を見たヨネシゲは自分が無視されていることに怒りを覚え声を荒げる。


「無視するな!お前が頭なんだろう!?」


しかし、男は無言を貫く。

するとクレアが男に頼まれた茶を持ってきた。


「お待たせしました!」


「ありがとよ!」


男はクレアに礼を言うと熱いであろう湯気が立つ茶をグビグビと一気に飲み干す。


「はぁ~!茶も美人が入れてくれると格段に美味くなるな!」


「あ、ありがとうございます!」


自分の問いを無視し続けクレアと楽しそうに話すこの男…

ヨネシゲの怒りは頂点に達した。

ヨネシゲは男を怒鳴り付ける。


「聞こえてるんだろ!俺の問いに答えろ!」


その怒鳴り声を聞いたクレアは気まずそうな表情でヨネシゲと男の顔を交互に見ていた。

するとここで初めて男が反応を見せる。


「男が…さっきからギャーギャーうるせぇな…!」


「何!?」


「人の食事の邪魔をしやがって…そんなに楽しいか!?」


男はそう言うとヨネシゲの方へ体を向ける。

男の年齢は30代半ばと言ったところか。

丸刈り頭に黒縁の丸眼鏡。

まるで力士のような巨漢。

眉間にシワを寄せ分厚い唇をへの字に曲げ険しい表情でヨネシゲを睨み付けていた。


「お望み通り教えてやるよ!俺が頭領のマッチャン・ボンレスだ!」


やはりこの男が盗賊団マッチャン一家の頭領“マッチャン・ボンレス”である。

鉄拳のマッチャンと呼ばれているグレート王国内でも名の知れた男だ。

これだけの屈強な男たちを引き連れているのであるからその実力はかなりのものであろう。


「盗賊が偉そうに…!とっとと失せろ!いつまでも占拠しやがって迷惑なんだよ!」


ヨネシゲは激怒した様子でマッチャンたちに立ち去るよう怒鳴り散らす。

するとマッチャンが反論する。


「確かに俺らは盗賊だが…」


マッチャンは言葉を続ける。

自分達はちゃんと金を持って食事に来ており、常識の範囲内で賑やかに食事をしているだけ。

この店に何の迷惑はかけてはいない。

むしろ騒いで迷惑をかけているのはお前たちではないかとマッチャンは言う。

確かにこれだけの人数が居るから店は満員状態で他の客は入れない。

もっとも、少人数だとしてもこんな柄の悪い連中が居たら客は入ってこないだろう。

マッチャンは苦笑いしながらそう言う。

話を聞いているとこの男案外まともな事を言っている。

もしかしたら勝手に大騒ぎをしていたのは自分達のほうではないかと思い始めてしまうユータである。

しかし、ヨネシゲはそれに対して反論をする。


「盗賊は盗賊!悪者なんだよ!」


「フッ…違いねぇ…」


ヨネシゲのその言葉にマッチャンも同感してるようだ。

盗賊は悪。

それは自分も理解しているようだ。

軽く笑みを浮かべていたマッチャンだがどこか悲しそうな表情をしてるように見えた。

だがそんな表情も一瞬見せただけですぐに険しい顔付けへと変わる。


「こんな俺たちにもポリシーと言うものがあってな…」


マッチャンは語る。

彼らは一つ決めていることがあるらしい。

それは貧乏人からは金は盗らないことである。

金は持っている奴から頂いて世に解き放つ…

それが自分達の仕事だと語る。


「何かのヒーローのつもりか…?」


ヨネシゲには理想のヒーロー像というものがある。

それは単純なこと。

困っている人に手を差し伸べ、弱い立場の者を強い立場の者から救い守ると言うこと。

ヨネシゲの生み出したこの世界でそれを実行するには領主という立場は都合が良い。

しかし、マッチャンは“盗賊”という立場でヒーローになろうとしてるのか?

だったら彼はヒーローの意味を履き違えている…!


「それは間違っている!」


ヨネシゲはマッチャンの行動を否定した。

それに対してマッチャンが自分の考えを語る。


「俺には…俺の正義がある!」


マッチャンには自分が信じる正義がある。

当然、ヨネシゲにも自分の正義があるはず。

考え方は人それぞれ。

相手の考えは尊重して否定はしない。

マッチャンはそう語る。

ただし…


「俺の邪魔をするというなら…叩き潰す!」


マッチャンは椅子から立ち上がり大きな拳を握りしめる。


「正義は我にあり!俺を叩き潰すことなんてできねぇよ!」


ヨネシゲも拳を強く握り戦闘体勢に入る。

それにしても先程あれだけ苦戦していたのに懲りずにまだ戦うつもりなのか?

呆れるユータであった。


「なら…どちらが正しいか男同士拳で語り合おうじゃねぇか」


「望むところだ!」


ヨネシゲとマッチャンの戦いが始まろうとしている。

それを見届けるかのように盗賊たちが二人を囲む。


「マッチャンさん!やっちゃってください!」


盗賊たちの声援が飛び交う。

負けじとメアリーもヨネシゲにエールを送る。


「いつものシゲちゃん見せてあげなさい!」


しかし、既にボロボロのヨネシゲ。

今の彼に勝ち目はあるのだろうか?

ユータは心配になりヨネシゲの元へ駆け寄る。


「ヨネさん!援護なら任せてください!」


そう言うユータにヨネシゲは…


「来るな!これは男同士…一対一の真剣勝負なんだ!手出し無用…」


何時に無く真剣な表情でヨネシゲはそう言い放った。


「あんたは男だ!なら…礼儀を持って本気の拳を見せてやろう…!」


マッチャンはそう言うと鉄拳の名に恥じぬ硬そうな大きな拳を構え始める。

これはまずい…

不安になったユータはマックスの元へ戻りヨネシゲを止めるようお願いする。

しかし、マックスは…


「男にはやらなければいけない時がある。黙って見届けるんだ…」


するとアサガオ亭の店主も姿を現す。


「大丈夫!ヨネシゲ様が負けるはずがないよ!あの方が負けたところなんて見たことがない!」


(いや!さっき圧倒的に劣性だったでしょ!?見てなかったのかこの人は!?)


ユータは心の中でツッコミを入れた。


「ヨネシゲ様!頑張ってください!」


「フッ…美女を味方に付けたか…」


クレアがヨネシゲに声援を送るとマッチャンがやや残念そうな顔をした。


(そうだ!そうだとも!俺が負けるはずがない!)


勝つのは自分だとヨネシゲは信じていた。

何故なら…


(ここは…俺の作り出した空想の世界。つまり理想の世界なのだから…!)


それに負けられない理由もある。


(ユータや姉さん…それにクレアちゃんの前で恥はかけねぇ!)




どちらの拳が正しいのか?


男同士の真剣勝負!


領主ヨネシゲ VS 頭領マッチャン



つづく…

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