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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
2章 空想の猛者たち
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第12話 アサガオ亭

ここはヨネフト村の中心部。

多くの人で賑わう商店街通りを五人の男女が駆け抜けていく。

先頭を走るのはヨネフト村に住む少年トム。

トムに先導されるかのようにその後ろをマックス、メアリー、ユータの順で、更にその後ろをヨネシゲが遅れ気味で付いて行く。

ヨネフト村にある人気の定食屋“アサガオ亭”が現在盗賊団によって占拠されている。

ユータたちはアサガオ亭を奪還すべく現場へ急行していた。

しかし、ユータはあまりに乗る気ではない。

元々はトムがマックスに救いを求めてきたのが始まり。

盗賊団と言うだけあって相手はかなりの人数が居るはずだ。

けれど相手が何人居ようと兵器並の戦闘力を持つマックスとメアリーに任せておけば事足りる。

そもそも村の治安維持を行うのが彼らの仕事だ。

ところが、ヨネシゲもマックスに付いて行くと言い出した。

先ほど盗賊からの攻撃を受けてヨネシゲは負傷していた。

それに相手が複数人だったとはいえ、他を圧倒する実力者であるはずのヨネシゲが終始劣勢であった。

いや、あれはもはや敗北だ。

正直このヨネシゲが一緒に付いていっても足手まといになるだけだ。

しかし、一度言い出したら聞かないのがヨネシゲ。

結局マックスたちもヨネシゲを連れてアサガオ亭を目指すことになったのだ。

だが何故かユータも彼らと共に行動しているのであった。

流れというか勢いで付いてきてしまった。

相手は獰猛な盗賊たち。

下手をしたら殺されてしまうかもしれない。

危険であると知りながらも彼らに付いてきてしまったことをユータは後悔していた。

しかし、今更引き下がるのも後味が悪くなる。

それにしてもマックスとメアリーはヨネシゲには負傷してるから家に留まるよう制止していたのに、一般人である自分には何も言わなかった。

一言くらい何か言ってほしかったと思うユータであった。


(ヨネさんを止めるなら、一般人である俺を止めてくれよ…)



一同は盗賊に占拠されているというアサガオ亭の前に到着した。

少し遅れてヨネシゲも到着する。

ヨネシゲは大量の汗を流しながら息を切らしていた。

季節は冬であるため日中でもかなり気温が低い。

ヨネシゲは大量の白い息を吐き、頭からはなんと湯気が立ち込めていた。

その姿はまるで蒸気機関車だ。

アサガオ亭は商店街通りの中間付近に位置する。

昼食の時間帯でかきいれどきと言うのにアサガオ亭の扉には準備中の札が掛かっていた。

いつもなら多くの人で賑わっているはずだが、周辺には人影がなく周りの商店もシャッターが下ろされていた。

すると一人の兵士がこちらに向かって走ってきた。


「メアリー様!この付近一帯に規制線を張りました。これで村人は入ってこれません。それと周辺の商店にも事が済むまで店を閉めておくよう言っておきました」


「うむ!ご苦労!」


村人から通報を受けた民兵軍の兵士が周囲に規制線を張ったそうだ。

被害を最小限にするためには必要なことなのであろう。

そんなやり取りを見ていたユータは更に緊張が増していく。

村中に散らばっていた兵士たちも続々と店の前に集まってきた。


「踏み込みますか?」


兵士の問いにマックスが答える。


「お前たちは店の外で待機してろ。村人たちに危害が及ばないよう細心の注意を払え」


「はっ!」


兵士たちを店の外で待機させマックスとメアリーは突入するつもりだ。

するとマックスがユータの側にやって来る。


「ユータ、そこの窓から中を覗いてみろ」


ユータはマックスに言われるがままアサガオ亭の店内を小窓から覗いてみた。

すると想像していた通りの光景が広がっていた。

中には屈強な肉体を持つ強面の男たちが30~40名ほど。

酒を酌み交わしながら楽しそうに食事をしていた。

その中には見覚えがある金髪モヒカンやスキンヘッド、リーゼントにちょんまげの姿もあった。

このアサガオ亭を占拠していた盗賊団とは先程ヨネシゲと対峙した“マッチャン一家”であった。


「マッチャン一家だ…」


「おう、知ってるのか?」


マックスはやっぱりなと言う顔をしながらユータに尋ねる。

ユータは先程対峙した盗賊団がマッチャン一家と名乗っていたことを伝える。

するとマックスがこの盗賊団について説明を始めた。

マッチャン一家とは東のとある領土出身の有名な盗賊団だ。

頭領の男は“鉄拳のマッチャン”と呼ばれている腕の立つ男らしい。

マックス曰く他の盗賊団と比べるとかなり変わっているらしい。

マッチャン一家はグレート王国内を放浪し貴族や資産家の屋敷などを襲撃し金品を強奪している。

それも悪名高い貴族や資産家たちがメイン。

ちなみに平民からは金品を奪うことはないらしい。

それどころか奪った金品を貧困層が多く済む村などにばらまくらしい。

そんな少し変わった盗賊団のようだ。

基本的に一般人に危害を加えることはないらしい。

だが念には念を入れてマックスは外の守りを固めた。

とはいえこのマッチャン一家、どう見ても強そうな男達ばかり。

そんな男たちをマックスとメアリーは二人で倒そうと言うのか?

流石に無理があるだろう…

ユータはマックスに尋ねた。


「これ、マックスさんとメアリーさんだけで倒すんですか…?」


するとマックス、容易いの一言。

本当に大丈夫なのか不安になるユータだ。

そんなユータを横目に驚きの行動をとる男がいた。


「邪魔するぜ…」


ヨネシゲだ!

彼は何の躊躇いもなく扉を開けアサガオ亭の中へ入って行く。

やれやれと言った感じでメアリーとマックスが後に続いていく。

ユータは彼らと一緒に中に入るべきか迷った。

事が済むまで外で待とうと思ったが、後ろを振り返るとトムと兵士たちが“あれ?行かないの?”みたいな顔をしていたので気まずくなりユータは仕方なく中へ入ることにした。



ユータはアサガオ亭の中へと足を踏み入れた。

最初に目に飛び込んできたのは入り口の前で仁王立ちするヨネシゲ、マックス、メアリーたち三人の背中であった。

そしてその先に目をやると屈強な体型で強面の盗賊たちが三人を睨み付けていた。

そしてユータが三人に近付くと盗賊たちの視線は一斉にユータに向けられた。


(ゾクッ…)


その瞬間ユータは背筋に悪寒が走った。

あまりの恐怖に体が固まってしまう。

それはまるで蛇に睨まれた蛙のようだ。

普通の人なら恐怖で震え上がってしまう場面であるが目の前の三人は全く動じていないようだ。

それどころかマックスは煙草に火をつけ吹かし始め、メアリーは盗賊達が食べていた料理を見て美味しそうと言いながら涎を流していた。

そしてヨネシゲはというと…


「4人だが…空いてる席はあるか?」


どう見ても空いてる席などない…

ヨネシゲはそう言いながら店の奥へと進んでいく。

マックスとメアリーも後へと続く。

ユータも置いていかれないように三人の後ろにくっついた。


静まり返った店内をヨネシゲたちが進んでいく。

聞こえるのは彼らの足音のみ。

そして突き刺さるような盗賊たちの視線。

ユータは盗賊たちと目を合わせないよう俯きながら歩いていた。

すると前から一人の若い女性がヨネシゲ達の元へ駆け寄ってきた。


「ヨ、ヨネシゲ様…!」


「おう、クレアちゃん!空いてる席はあるか?」


「ご、ごめんなさい…今準備中なんです…」


この若い女性の名はクレアと言うそうだ。

赤髪のショートヘアーに赤い瞳。

活発そうの雰囲気の綺麗な女性だ。

年齢はユータよりは下であろうか。

この人が噂の看板娘なのか?


ヨネシゲが空いてる席があるかと尋ねるとクレアは準備中だと答えた。

続けてマックスがクレアに質問する。


「どう見ても準備中には見えねぇが…この人たちは団体さんかい?」


確かに準備中には見えない。

店の席を全て埋めつくし食事をしている盗賊たち。

準備中なのにこれだけの人数に食事を提供できるのであろうか?

するとクレアは先程とは違ったことを言い始める。


「そ、そう!今日は貸切だったのよ!だからマックスさんたちの座るお席はないの…」


クレアの対応を見ると事を荒立てたくないのであろう。

クレアはヨネシゲたちにお引き取り願うため必死に言葉を重ねていた。

すると一人の盗賊の声が聞こえてくる。


「見ればわかるだろ!?お前らの座る席はねぇーよ!とっとと帰りやがれ!」


その声を皮切りに盗賊たちの罵声が店の中を飛び交う。

マックスがクレアの対応を見てヨネシゲに耳打ちする。


「ヨネシゲ、ここは一回店を出よう…」


「何だって?」


「クレアちゃんは事を荒立てたくないらしい。ここは一度外に出て様子を見るんだ…」


言われてみれば自分たちが来るまで盗賊たちは大人しく食事をしていたようだ。

大人しいと言っても酒が入っているのでそれなり騒いではいた。

だが昨日のヨネシゲ邸での晩餐と比べたら全然許せる範囲だ。


「わかったよ…クレアちゃんまた来るぜ!」


ヨネシゲはそう言うと店の外へ出るため出入口まで戻り始める。

その後ろをユータ達が続くのであった。

その間も盗賊たちから罵声を浴びせ続けられる。

ヨネシゲの表情は怒りをにじませながらも歯を食い縛り罵声に耐えていた。

ユータは相変わらず盗賊と目を合わせないように俯きながら歩いている。

マックスとメアリーは盗賊たちの罵声がまるで聞こえていないかのようにすました表情で歩いていた。

店の出入口までたどり着いたと思ったその時である。

四人の盗賊たちが目の前に立ちはだかった。

それは先程謎の少年を追って現れヨネシゲと対峙したあの四人の盗賊たちだ。

金髪モヒカンとスキンヘッド、リーゼントにちょんまげ…

特にスキンヘッドの男はユータを鬼の形相で睨み付けていた。

ユータは先程スキンヘッドの男に殴られそうになった際、無意識に出した拳が彼の顔面にヒットしてしまう。

スキンヘッドの男は失神しその場に倒れ込んでしまったのだが…

その事を根に持たれてるようだ。


「おう、坊主!さっきは世話になったな」


「ど、どうも…」


スキンヘッドの男が指を鳴らしながらユータに挨拶する。

ユータは小さくなりながらも軽く返事を返した。

四人の盗賊たちは不敵な笑みを浮かべていた。

まるで自信に満ち溢れてるかのようだ。

彼らはユータとヨネシゲを追い詰めたが、最終的にはメアリーの登場によって尻尾を巻いて退散していった。

そして、そのメアリーが今彼らの目の前に居るのだ。

しかし、四人の盗賊たちはメアリーの存在にまったく動じていなかった。

するとリーゼントの男が口を開く。


「メアリーにマックス…そうそうたる顔ぶれだ。さっきは四人しか居なかったし逃げちまった。だが…」


リーゼントの男がそう言うと周りに居た他の盗賊たちがユータ達を取り囲む。


(ヤバい!囲まれた!)


焦るユータ、緊張が走る。

そんな中、マックスは煙草を吹かしながら盗賊たちに警告する。


「若いの…数だけじゃ俺らに勝てないぞ?」


そしてメアリーが挑発する。


「私たちと本気で戦いたいなら軍隊でも連れてきなさい!」


「て、てめぇら…!」


盗賊たちは顔を真っ赤にして今にも襲いかかってきそうだ。


(メアリーさん、怒らしてどうするんだよ!?)


こんな場面、いくら仲間が居ても自分なら平謝りしながら退散する。

なのにこの人たちは相手を怒らすような発言しかしない。

ユータには理解できなかった。

それに一つ心配事があった。


(それにしても…マックスさんとメアリーさんは本当に大丈夫か?さっきのヨネさんみたいにならなければいいが…)


この世界で他を圧倒する力を持つはずのヨネシゲ。

自信満々で盗賊との戦いに臨んだが…

結果はどう見てもヨネシゲの敗北であった。

マックスとメアリー…

彼らもこの世界ではかなりの実力者。

その二人が今自信満々で盗賊たちとの戦闘に臨もうとしている。

ユータは嫌な予感がしたのだ。

二人もヨネシゲと同じ目に遭うのではないかと…

そして、ヨネシゲは懲りずに自信満々の表情で腕を組み盗賊たちの前で仁王立ちしていた。

一体その自信はどこからくるのかと不思議に思うユータであった。


「手加減はいらねぇ…どこからでもかかってきな!」


「や、やっちまえ!」


そしてヨネシゲの言葉を合図に大乱闘が始まるのであった!


どうなるヨネシゲ?


そしてマックスとメアリーの運命は!?


ユータの嫌な予感は現実となってしまうのか…?



つづく…


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