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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
2章 空想の猛者たち
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第10話 ヨネシゲ 対 盗賊

緊張が走る…!

ヨネシゲは四人の盗賊と対峙していた。


ここはヨネフト村の外れ。

ユータとヨネシゲはマックスの財布を届けるために彼の家へ向かっていた。

しかし、謎の少年に財布をすられてしまう。

それに気が付き財布を取り返すも、新たなトラブル発生だ!

謎の少年は盗みを重ねていたらしく、盗賊の戦利品まで手を出していたようだ。

当然のごとく盗賊の怒りを買い追われていた少年。

逃走中にたまたますれ違ったユータから財布をこっそり奪う。

だがヨネシゲに見抜かれ少年は捕まってしまった。

そして捕まっているところを盗賊たちに発見されてしまう。

少年の悪運も尽きたと思われたが…隙を見て逃走。

その少年を再び追いかけようとした盗賊たちであったが、目の前にヨネシゲが立ちはだかる!


「何だよ、お前!邪魔だ!」


「お前たち、盗賊と言っていたな…」


「そうだぜ!俺たちは泣く子も黙るマッチャン一家だ!」


屈強な体に強面の顔。

タンクトップやピチピチのTシャツなど筋肉を強調するような服装に野性味溢れる装飾品を身に付けている。

髪型は金髪モヒカンやスキンヘッド、リーゼントにちょんまげ…

この個性豊かな四人の盗賊たちは“マッチャン一家”と言う盗賊団に属しているらしい。

この男たちが前から歩いてきたら絶対に道を空けることだろう。

そんな男たちの前にヨネシゲは自ら立ちはだかる。

先ほど少年を庇っての行動なのか?


「盗賊と聞いた以上、ここから先は通すわけにはいかねぇ…」


ヨネシゲは続ける。

この先は多くの村人たちが暮らす村の中心部。

そこに盗賊であるお前たちが姿を現せば村人たちは恐怖と不安に襲われてしまう。

村の平穏を守るためにもここから先は通す訳にはいかない。

それを聞いた盗賊たちは不満そうな表情でヨネシゲに問う。


「あっ?お前何様のつもりだ!?お前は村長か何かか!?」


「俺はこのヨネフト地区の領主、ヨネシゲ・クラフトだ!」


「な、何!?ヨネシゲだと!?」


盗賊たちはヨネシゲの名を聞いた瞬間顔がこわばる。

彼らの様子を見ると明らかに動揺している。

ヨネシゲはこの世界では悪者を退治するヒーロー的存在。

当然その実力は折り紙つき。

彼の存在を知らない者の方が少ないであろう。

そんな絶対的ヒーローが目の前に現れている。

動揺しないほうがおかしい。

彼らの心境を語るなら、某時代劇で目の前に突然将軍が現れ悪事を暴かれる悪代官一同と言ったところか。

しかし、ここで屈服しないのがお約束。

全戦力を持って将軍に襲いかかる。

そして盗賊たちもまたヨネシゲに牙を剥こうとしていた。


「相手があのヨネシゲであろうと、俺達は四人も居るんだぞ!こんなオヤジに負けるはずがねぇ!」


「なら…試してみるか?」


一生懸命虚勢を張っているような盗賊たちに対し、ヨネシゲは余裕の表情で肩を回していた。


「くっ…!やっちまえっ!」


一人の掛け声を合図に盗賊たちは一斉にヨネシゲに襲いかかる!





ここはヨネフト村の中心部にある商店街通り。

多くの村人で賑わっていた。

その人の間を縫うように一人の少年が走っていた。


「ここまで来れば大丈夫か…」


彼の正体はあのゴリラ顔の少年だ。

盗賊たちに捕まりそうになり全速力で走りここまで逃げてきた。

しかし、盗賊たちが追ってくる様子はない。

少年は人混みに紛れると走るのを止め歩き始める。

しばらくの間全力疾走していたため少年の息は荒れていたが、その表情は安堵に満ちていた。


「一時はどうなるかと思ったぜ…」


思い返すだけで身震いがする。

あんな屈強な体の盗賊たちに捕まったらただではすまない。

下手したら命が無かったかもしれない。

盗賊から金品を盗むということは一攫千金のチャンスである。

しかし、その分危険度が高い。

その辺りの民家に忍び込んで盗みを働くのとは訳が違う。

しかし、この少年には危険を冒してまで盗みを働かなければいけない理由があった。


「待っていてくれ、みんな…!」


少年は小声でそう言いながら拳を強く握りしめると人混みの中へと姿を消した。






ユータは目の前で起きていることに驚きを隠せないでいた。

盗賊と対峙していたヨネシゲ。

痺れを切らして盗賊たちがヨネシゲに襲いかかった。

この世界ではヨネシゲはヒーロー的存在でその強さも他を圧倒するほど。

そんなヨネシゲのはずであったが…

今目の前に居るヨネシゲは盗賊たちから一方的な攻撃を受けていた。

ヨネシゲは抵抗しようと拳を振り上げる。

しかし!盗賊たちの容赦ない拳や蹴りでヨネシゲの攻撃は阻止されてしまう。

連続する盗賊たちの攻撃にヨネシゲは堪らずその場に倒れ込む。

倒れたヨネシゲに盗賊たちは蹴りの嵐を浴びせ続ける。

このままじゃヨネさんが危ない!


「もう止めろっ!」


ユータはヨネシゲの方へ駆け寄ろうとする。

すると盗賊のうちの一人、スキンヘッドの男がユータの行く手を阻む。


「お前もこのオヤジの仲間か!」


そう言いながらスキンヘッドの男はユータに拳を振りかざす。

ヤバい殴られる!

思い返してみればユータはこの人生誰かに殴られるという経験はなかった。

殴られたらどれ程痛いものなのか?

ユータには想像がつかなかった。

今目の前には屈強な男から繰り出される巨大な拳がユータの顔面目掛けて迫ってくる。

こんな巨漢男に本気で殴られたらただじゃ済まない。

ユータは恐怖のあまり目を閉じてしまう。

しかし、それと同時にユータは無意識に自分の拳を前に突き出していた。

防衛本能と言うやつなのか?

その己の拳に何かに当たった感触がした。

感触と言うよりも自分の拳に痛みが走ったと言ったほうがいいか。

ユータは恐る恐る目を開けてみると自分の目を疑った。

それは自分から繰り出された拳が相手の顔面にめり込んでいたからだ。


「うわぁっ!」


ユータはその光景に驚き声をあげながら盗賊の顔にめり込んだ拳を素早く引っ込めた。

スキンヘッドの男はその場に倒れ込む。

一発KOであった。

まさか一発殴っただけでこんな大男が失神するとは…!

自分でも信じられなかった。

強そうに見えたのは外見だけか?

それとも…実は俺強いのか?

俺でもこんな大男を倒す事ができるのか!

突然の出来事であったが、ユータは初めて味わう何かに勝利したような優越感に浸っていた。

しかし、それも束の間だった。

その光景を見ていた盗賊たちの矛先はユータにロックオンされる。


「てめぇ!やりやがったな!」


残る三人の盗賊たちが物凄い剣幕でこちらに向かってくる。

それを見たユータの顔は一気に青ざめる。


(ヤバい!殺される!)


命の危機を感じたユータはその場から逃げようとする。

今は倒れているヨネシゲを気にしている場合ではない。

ユータは向きを変え走りだそうとした次の瞬間である。


コツン!


ユータの靴に引っ掛かったのは地面から突き出ていた石であった。

ユータはバランスを崩しその場に倒れ込んでしまった。

そう…彼は石につまずき転んでしまったのだ…

この自分の身に危険が迫ってる場面でだ。

ヨネシゲを見捨てようとした罰か!?

ユータはあっという間に盗賊たちに取り囲まれる。

ユータが顔をあげると盗賊たちが不気味な笑みを浮かべながら見下していた。


「たっぷりと可愛がってやるからな…!」


口は笑っているが目が笑っていない!

金髪モヒカンとリーゼントにちょんまげ…

三人の手がユータに迫ってくる。

もうだめだと思ったその時であった!


「御用だ!御用だ!」


ユータと盗賊たちは声のした方を振り返る。

目に飛び込んできたのは、赤い迷彩柄の軍服に身を包んだ一人の女性であった。

それを見た盗賊たちは跳び跳ねながら尋常じゃない驚き方をしていた。


「ヤ、ヤバい!メアリーだ!ずらかるぞっ!!」


倒れていたスキンヘッドを担ぎ上げ盗賊たちは早々に退散していく。

そこに現れたのはヨネシゲの実姉でクラフト三姉妹の長女、メアリー・クラフトである。

グレート王国軍の元将校で“怒りのメアリー”と呼ばれていた実力者である。

ここ最近は村近辺に出現する盗賊団を警戒し兵士を引き連れ巡回している。

メアリーの後ろには10名程の兵士が一緒に付いてきていた。

この兵士たちはグレート王国軍の正規の兵ではない。

ヨネシゲが領主として雇っている民兵たちだ。

この国では正規軍であるグレート王国軍の他に各地の領主たちが編成する民兵軍が存在する。

領土の防衛や治安維持等の目的で領主たちは民兵軍を編成することを王国から認められている。

しかし各地の領主達は一枚岩ではない。

民兵軍を領主同士の争いや民たちを武力で制圧するために編成する領主がほとんど。

中には国家転覆を目的に編成する領主も存在する。

大領主が編成する民兵軍は王国軍に匹敵するほどの規模と実力であり王国の脅威となっている。

ちなみにヨネフト地区の民兵はクラフト兵と呼ばれており、民たちから親しまれている。


「ゴラァ!待ちなさいよっ!あなた達、追うのよ!」


「はっ!」


メアリーに命令された兵士たちは盗賊の後を追う。

メアリーはユータの元へ駆け寄る。


「ユータさん!大丈夫!?」


「俺は大丈夫です…それよりヨネさんが…」


ユータの言葉でメアリーは辺りを見回す。

するとそこには信じられない光景が目に飛び込んできた。

それは鼻血を流し顔や腕に多数の傷ができたヨネシゲであった。

メアリーは急いでヨネシゲの側へ駆け寄る。


「シ、シゲちゃん!どうしちゃったの!!」


メアリーは驚きを隠せない。

こんな傷を作って鼻血まで流しているヨネシゲを初めて見たからであった。


(あのシゲちゃんが…雑魚相手に!?)


繰り返しの説明になるがヨネシゲはこの世界ではヒーロー的存在でその実力も最強クラス。

この世界でヨネシゲを知るもの達は彼が敗北する姿など見たことがないであろう。

しかし、目の前に居るヨネシゲはどうであろうか?

鼻血を流し顔や腕は傷だらけ。

呻き声を出しながら地面に倒れていた。

長年色々な争い事を経験し多くの敗北者を見てきたメアリーだが、目の前で倒れている弟はどう見ても争いに敗れた男の姿であった。


「シゲちゃん大丈夫なの!?」


ユータも遅れてヨネシゲの側にやって来る。

するとヨネシゲは苦しみながらも自力で体を起こし上げた。


「俺なら…大丈夫だ…」


「大丈夫じゃないわよ!」


「相手の実力を確かめるためにわざとやられてたんだよ!」


「嘘おっしゃい!」


ヨネさんは相手の実力を確かめるために一方的に攻撃を受けていたらしい。

そうだとしても実力を確かめるだけなのにダメージを受けすぎだ。

苦しい言い訳である。

確かに理想のヨネさんなら…それができたはずだ。

だけど、今ここに居るヨネさんは…


(負けるはずがない!だって、俺はこの世界ではヒーローなのだから…!)




理想の自分と現実の自分…



つづく…

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