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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
2章 空想の猛者たち
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第9話 謎の少年

マックスの財布を届けにユータとヨネシゲはヨネフト村の外れまで来ていた。

マックスの家一歩手前で二人はトラブルに巻き込まれる。

謎の少年がすれ違い様に持っていたマックスの財布をユータのポケットから抜き取ったのだ。

それに気付いたヨネシゲは謎の少年を呼び止めた。

その少年は丸刈り頭にゴリラのような迫力のある顔が衝撃的。

年齢は12~14歳くらいで身長は140センチくらいであろうか。

ヨネシゲは財布を返すように説得するもそれに応じず、少年はナイフを取り出しヨネシゲ目掛けて突進してくるのであった。


「と、止まれ!」


「うおぉぉぉぉっ!」


ヨネシゲは制止するも少年は聞く耳を持たず、雄叫びをあげながら突っ走ってきた。

目の前で突然起きている状況にユータは体が固まりただ見ていることしかできなかった。

今までこの様な状況にあったことがないのだから当然であろう。

この様な経験をする人の方が稀である。

とは言うものの、ユータは頭の中でも何かしなくてはいけないと考えていた。

しかし、そうしているうちにヨネシゲと少年の距離は縮まっていく。

そして、手を伸ばせば届く距離まで少年はヨネシゲに近付いていた。

あと一秒もすればヨネシゲは少年によってナイフで刺されてしまうという場面だ。


「危ないっ!」


ユータがそう叫ぶと同時にヨネシゲは少年をひらりとかわした。

その動きはいつもヨネシゲとは思えないほど軽やかなものだった。

ヨネシゲと言えば仕事はいつも惰性で行い、隙さえあれば一服タイム。

昼休みはいつも椅子にへばりつき誰かを捕まえ長話。

仕事の帰りは疲れ果てた様子でフラフラと重い足取りで駅まで歩いていく。

普段からだらだら動いているヨネシゲが俊敏な動きを見せたためユータは凄く驚いた。

少年はかわしたヨネシゲの方向を振り返る。

するとそこにヨネシゲの姿がなかった。

これまた俊敏な動きで少年が振り返ると同時に彼の背後へと移動したのであった。

少年の思考が停止している一瞬の隙をつき、ヨネシゲは少年のナイフを持っている腕を掴む。

少年は掴まれた腕を引き離さそうと暴れるもヨネシゲの腕はピクリとも動かない。

物凄い力で掴まれているのだろう。

日頃からヨネシゲは力自慢をしているがそれは本当だったみたいだ。

いや、相手が子供だからなんとかなっているだけかもしれない。

これが大人相手ならどうなるであろうか…

でもヨネシゲなら大人が相手でも余裕で勝てるかも!?

何故ならヨネシゲの武勇伝の中に大勢のマフィアから美女を救った話があるからだ。

内容はこうだ。

ある日ヨネシゲは夜の繁華街を歩いていたそうだ。

すると目の前に人集りができていた。

そして人集りのできてる方から女性の助けを求める叫び声が聞こえたのであった。

ヨネシゲが人集りをかき分け前に進むとマフィアの男たちに絡まれている一人の美女が助けを求めていた。

しかし、周りで見ている男たちは誰一人助けようとはしない。

助けたくてもマフィアの男たちが睨みを利かせ周囲を威嚇していた。

今はただ状況を見守り警察の到着を待つことしかできなかったのだ。

一般市民である男たちがマフィアに楯突くなど自殺行為だ。

だから助けようとする男は誰一人現れなかった…

いや、居た!


「おうおうおう?何してるんだ、兄ちゃんたち?」


ヨネシゲだ!

マフィアに絡まれている美女を見るなり助けに向かう。

見張り役と思われるマフィアの巨漢男二人がヨネシゲの前に立ちはだかる。


「お前、死にたいのか?」


巨漢マフィアはヨネシゲにそう言うとピストルを取り出しヨネシゲに突き付ける。

しかし、男ヨネシゲ!

これくらいでは動じない。


「そんな豆鉄砲じゃ俺には勝てないぞ?」


「何?」


ヨネシゲが相手を挑発したかと思った次の瞬間、ヨネシゲの両腕の拳が二人の腹にめり込んでいた。

一瞬の出来事であった。

二人の巨漢マフィアは失神しその場に倒れ込む。

それを見た他のマフィアたちがピストルを抜き始める。


「皆、伏せろ!」


それを見たヨネシゲは周りの見物人たちに伏せるよう叫ぶ。

見物人たちは悲鳴をあげながらその場に伏せたり、またはその場から離れようと走り去っていく。

マフィアたちはピストルの照準をヨネシゲに定め引き金を引いた。


パン!パン!


乾いたようなピストルの銃声が夜の繁華街に響き渡る。

逃げ回ったり泣き叫ぶ人々で街はパニックと化していた。

そして放たれた銃弾はヨネシゲの胸や腹に命中していた。

それを見たマフィアたちは不敵な笑みを浮かべる。

流石のヨネシゲもこれだけの銃弾を被弾すれば死んで…いない!?

ヨネシゲは不気味な笑みを浮かべてマフィアたち目掛けて突っ走ってくる。

マフィアたちは慌ててピストルの引き金を引こうとするが、ヨネシゲの拳のほうが速かった。

ヨネシゲの拳はマフィアたちの顔面にヒットし次々とノックアウトしていく。

そして美女の腕を掴んでいたマフィアのボスがヨネシゲに尋ねる。


「弾は確かに当たったはずだぞ!?」


するとヨネシゲは着ていたポロシャツを捲り上げる。

なんと、ポロシャツの下に防弾ジョッキが仕込まれていた。

ヨネシゲはマフィアのボスにゆっくりと近付いて行く。

ボスは後退りするもヨネシゲに追い付かれ捕まってしまった。


「お姉ちゃんをいじめるんじゃねぇよ!」


そう言うとヨネシゲはマフィアのボスを一本背負い!

投げ飛ばされたボスは近くにあった店舗のショーウィンドウに頭から突っ込んでいき失神していた。

見えている足だけがピクピクと動いた。

ヨネシゲがそれを見届けると同時に、けたたましいサイレンの音が聞こえてきた。

大勢の警察官が到着するとマフィアたちは連行され御用となった。

呆気にとられその場に座り込んでる美女にヨネシゲは歩み寄る。


「お姉ちゃん、怪我はないか?」


「私は大丈夫です…」


「そいつは良かった…」


ヨネシゲは笑みを浮かべながらそう言うとその場を後にしようとした。


「あ、あの!お名前は!?」


「フッ、名乗る程の者じゃねぇ。悪い男には気を付けな…」


そう言うとヨネシゲはその場を後にした。

そして数年後、偶然その美女と再開を果たす。

今でも家族ぐるみの付き合いがあるのだとさ。

めでたしめでたし!




(そんな訳あるかいっ!)


こんな状況ではあったが、ユータはヨネシゲの武勇伝を思い出し一人で突っ込みを入れていた。

突っ込みどころは満載だが、何故ヨネシゲが防弾ジョッキを着込んでいたのかは一番の謎である。

何はともあれ、話が大きく逸れてしまったことをお詫びしよう…


ヨネシゲに捕まり少年は抵抗し暴れまわっていた。

するとポロっとあるものを落とした。

それは奪われたマックスの財布であった。

すかさずユータがその財布を拾い上げる。


「しまった…!」


それを見た少年は落胆の表情を見せ言葉を漏らす。


「マックスの財布、確かに返してもらったぞ」


ヨネシゲがそう言うと少年は握っていたナイフを落とし抵抗するのを止めた。

それを見たヨネシゲは少年の腕を離して解放した。

少年は全身の力が抜けたようにその場に座り込んだ。

その様子を見ながらヨネシゲはタバコに火を付け吹かし始める。


「ヨネさん!凄くカッコ良かったです!」


「えっ?そ、そうか…?」


ユータの突然の言葉にヨネシゲは頬を赤く染め照れている。

恥ずかしいのかタバコを吹かしながらそれを誤魔化していた。

突然の出来事にも動じず毅然とした態度で対応し、軽々と相手を制圧し今は格好良くタバコを吹かしている。

そんなヨネシゲをユータは素直に格好いいと思った。

その思いが自然と言葉に出たのであった。

この世界はヨネシゲの空想であり、ここでは彼は強者である。

当然の結果なのかもしれない。

それに相手が子供だったから上手くいっただけなのかもしれない。


「さて、これからどうするか…」


ヨネシゲはタバコを吹かしながら頭を抱えていた。

この少年は人のポケットから財布をするだけではなくナイフまで向けてきた。

ただで帰す訳にはいかない。

現実世界なら警察に引き渡すところだ。

この世界で言うなら保安局に連れて行くのが筋。

しかし、この世界を作り出したヨネシゲは知っていた。

ヨネフト村には保安局がないことを。

それなら元保安官のマックスの所へ少年を連れていくか?

彼の財布のせいでこんな目にあったわけだし責任をとってもらおう…

いや…ここは被害者でありこの村の領主である自分が少年を直接親のところへ連れて行き厳重注意すべきか…

事をあまり荒立てたくないからな。

ヨネシゲは色々な策を練っていた。

そんなヨネシゲを横目に座り込んでいたゴリラ顔の少年はぼやく。


「捕まったのは初めてだ…」


このぼやきを聞く限り少年はこのような盗みを繰り返していたのだろう。

次の光景を見てその疑いは確信へと変わった。


「お前の服何でそんなに膨らんでるんだ?」


「さ、触るな!」


ヨネシゲは少年の異常に膨れあがった服が気になり手を伸ばす。

しかし、少年は触れてほしくないため咄嗟に立ち上がる。

その勢いで少年の服のボタンが外れる。

すると外れたボタンの隙間から金貨や宝石がこぼれ落ちていく。

少年は服の中に金貨や宝石を隠し持っていた。

少年の服が異常に膨れ上がっていた原因はこれだ。

普通に考えて少年がこれだけの金品を持っているのは異常なことだ。


「この金貨や宝石もお前が盗んだのか!?」


「…………」


ユータの問に少年は黙り込んだままだ。

ユータは更に尋問しようと少年に近づく。

その時であった。


「居たぞぉっ!!」


遠くの方から男たちの怒鳴り声が聞こえた。

ユータとヨネシゲに少年は声が聞こえた方へと顔を向ける。

すると少年の顔は一瞬で青ざめたのがわかった。


「ひっ…!」


「どうした?アイツら知ってるのか?」


ヨネシゲは尋ねるが少年は怯えた表情のまま固まっていた。

ユータたちの前に現れたのは四人組の男たち。

しかし、ただの男たちではなかった…

激怒した様子で現れた四人の男は筋肉ムキムキの大男。

鋭い目付きで強面の顔の持ち主たち。

鬼の形相で少年を睨み付けている。

服装はジーンズにタンクトップやTシャツ、野性味溢れるアクセサリーを身に付けていた。

髪型は金髪モヒカンやスキンヘッド、リーゼントにちょんまげ?

街中を歩いていたら絶対に関わりたくない四人の男たちだ!

あまりの恐ろしい容姿にユータは後退りしてしまう。

しかし、ヨネシゲは動じることなく様子を伺っていた。


「おう!ゴラァ!このガキ!」


「ひいぃぃぃっ!!」


男たちの怒りの矛先は少年に向けられていた。

その理由はすぐに明らかになる。


「俺ら盗賊から金を盗むなんていい度胸してるじゃねぇか!」


どうやらこの男たちは盗賊らしい。

ここ最近ヨネフト村付近に現れる盗賊とは彼らのことか?

この盗賊たちから少年は金を盗んだらしい。

少年が隠し持っていた金貨や宝石がそれみたいだ。

盗賊から盗みを働くとはこの少年ただ者ではない。

一体この少年は何者なのであろうか?

すると、ここで少年は初めて年相応の表情をヨネシゲに見せた。


「お、おじさん…」


怯えたゴリラのような顔であったが、つぶらな瞳でヨネシゲを見つめていた。


(怯えた目でこっちを見て…助けを求めているのか?可愛いところもあるじゃんか)


ヨネシゲがそう思っていた矢先のことである。

少年は予想外の行動をとった。


「あとヨロピク!」


「なっ!?」


少年はそう言うと満面の笑みで走り去っていく…

それは尋常じゃない速さであった。

ヨネシゲは口をパカッと開けたまま走り去っていく少年を目で追いながら立ち尽くしていた。


「あのガキ!追うぞ!」


怒り狂った盗賊たちは走り去っていった少年を追おうとする。

しかし、その盗賊たちの前に先程まで呆気にとられ立ち尽くしていたヨネシゲが立ちはだかる。

そのヨネシゲの顔は今までユータが見たことがないほど鋭く険しい表情であった。


「あっ?なんだかオヤジ!?邪魔だどけよっ!!」


「そうはいかねぇな…兄ちゃんたち」


盗賊たちはヨネシゲを取り囲み鬼の形相で睨み付けていた。

今にも殴りかかってきそうな勢いだ。

その光景を見ていたユータは恐怖のあまり体が硬直していた。

ヨネシゲとユータはどうなってしまうのか?




四人の盗賊たちの前に立ちはだかったヨネシゲ…

これは少年を庇っての行動なのか!?

それとも領主としての責任か…?



ヨネシゲVS盗賊



つづく…

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