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03.決闘

ヤケクソになったユリーカは、

「江葉はなんだかんだいって意気地なし。珍しい召喚獣を従えていれば、うかつに手を出さず様子見をするはず。今日はこれで乗り切ろう」

なにやら消極策を取ることに決めたようだ。

「いい。黙っていてね」

俺の鼻の先に、ピッと人差し指を差し出して命令するユリーカ。

「とりあえず状況を説明してほしい」

「お前は、アンティリア帝国次代皇帝不死鳥のユリーカ様に幸運にも〝偶然〟選ばれた召喚獣。見目麗しい私はお前のご主人様」

続きを待つも、黙り込んでしまうユリーカ。

「それだけじゃ――――」

「誡――――」

「わかりました。めっちゃ分かりましたので、それはお許しください」

「ふん」

カツカツと早足に進むその背中を、しぶしぶ追っかけていく。

シャオティエンも後に続く。


薄暗い地下室から出ると、そこは学校だった。

学校って言っても日本の学校ではない。

映像を通じてしか見たことのないようなヨーロッパの城砦。

石造りの重厚な校舎。まるで映画の世界の中だった。

ユリーカは急ぐように早足で掛けていく。その後ろに影のように音もたてずについていくシャオティエン。その後ろを追っていった。

廊下にはユリーカと同じく制服の上にローブを羽織った何人もの生徒がおり、俺を物珍しそうにジロジロ見てくる。

その視線から逃れるためにうつむいて、そそくさと追いかけた。


中庭に抜ける。

中庭は庭園になっており、一人の長身の男の周りに人だかりができていた。

「臆して逃げ出したと思ったぞ。妹よ」

ハスキーな声で諭すように言う長身の男。

中性的な顔立ちをしたショートカットの優男だ。

少女漫画に出てきそうなくらい、顔がいい。

「あんたの妹になった覚えはないから」

キリっと、優男をにらみつけるユリーカ。


「皇位継承争いなんて向いていないんだから、早々とリタイアしたほうがいい。ユリーカは花火でもしている方が向いている」

ギリっと歯を食いしばるユリーカ。

ふるふると震え、すぐに耐えきれなくなり、

「我らが人類の祖、アンティリア帝国聖神魔導皇帝が第33子、不死鳥のユリーカっ!」

ローブをバッサアとさせるユリーカ。

「我が名を穢した罪、その命で償ってもらう!」

杖をキッと江葉に向け宣言した。

大きい瞳は怒りに燃え、頭髪はゆらりゆらりと逆立っている。

「我らが人類の祖、アンティリア帝国聖神魔導皇帝が第33子、執念の江葉!!」

江葉も、ローブをバッサアとさせ、杖を抜く。

「売られた喧嘩は買わせてもらう!!」

三メートルの距離を置き、二人は対峙した。


「……………………第33子? 被ってない?」

シャオティエンに耳打ちする。

「気安く話しかけるな、下僕」

眉を顰めぴしゃりと拒絶するシャオティエン。

――――話しかけることすら駄目なのかよ…………。

しかし、

「でもシャオティエンは優しいので教えてあげます。天地を包んでも余りある優しさに、涙して感謝するといいですよ下僕」

「……………………ありがとうございます」

癪だが、話が進まなそうなのでお礼を言う。

「ユリーカ殿下と江葉殿下はともに、アンティリア帝国を治しめす聖神魔導皇帝陛下の御皇胤。異母兄弟であらせられます。ご誕生になられたのはほぼ同時。そのため、どちらが第33子であるかを日々争われているのです」

「日常茶飯事ってことだな」

ギャラリーがみなにやけ顔で、深刻さが微塵も感じられない原因がわかった。


「また杖が爆発して怪我してしまうぞ」

ユリーカを挑発する江葉。

しかしその声音には何だかほんとに心配しているような気配が感じられた。

しかしその優しさに気付かず、言葉通りに受け取って

「っ――――」

やり込められる我がご主人様。

反論しないところを見ると、杖が爆発するのは事実のようだった。

「わたしには、召喚獣がいるんだからっ!!」

「えっ」

腕を引っ張られて、前に引っ張り出される俺。

江葉に様子見させて凌ぐ作戦は一体…………。

目立たせては、説明せざるを得なくなるのじゃないのか。

「……………………」

所在がないので、とりあえず、ファイティングポーズを取る。

「召喚できないからって、ヴァイシャを連れて来たのか」

あきれ顔でため息をもらす江葉。

「召喚したからっ!!」

俺の腕を無理やり持ち上げ、手の甲の紋章を見えるようにした。

「ほう」

紋章を見て感嘆の声をもらす江葉。

「ひよこか」

「やっぱひよこに見えるじゃねーか!!」

「ひよこじゃないもん!! 不死鳥だもん!! アンティリア帝国皇女ユリーカ様の紋様だから!!」

涙目になって言い返すユリーカ。

絵心のなさを責めて虐めているようで心苦しいが、刺青された方はたまったもんじゃない。


「……………………」

何も言わず、鳶色の瞳で、じっと俺を見る江葉。

召喚獣であることを信じてしまったみたいだ。

「偉大なユリーカ様が召喚した使い魔の威力っ、思い知るといいわっ!!」

――――この挑発は、江葉に様子見させるという作戦をぶち壊すものじゃないのか…………。

自ら墓穴を掘り続けるユリーカ。

ユリーカだけが落ちればいいけど、自分も巻き込まれるんだろうなーって予見できて目の前が暗くなる。

江葉の細長い杖の先に、自然と目が行く。

絶対、痛いビーム的なのが来る。絶対。

かといって、この場から逃げても、手の甲のめっちゃ痛くなるやつを喰らうに決まっている。

逃げ道がない。


江葉は、はあと大きなため息をついて

「ユリーカは才能がないから、はやく諦めたほうがいい……………………」

心底心配するような声音で言った。


俺は江葉のような人間が嫌いだ。

たしかに、優秀なのだろう。

しかし優秀であるがゆえに、どっぷり選民意識に浸って、言動の端から他人を見下す視線が漏れ出ている。

しかも本人は無意識でやってるからタチが悪い。

出来ない人間の痛みが分からないのだ。

「ちょっ、ちょっとリョースケっ!!」

気付いたときには江葉の目前まで歩いて行った。

ユリーカは空回りばかりだが、頑張っている。

そのことだけは認めさせたかった。

「な、なんだ…………!?」

動揺する江葉。

ガンをつける。江葉のほうが十センチくらい身長が高いため、ガンつけるというより見上げるようになる。

江葉の胸倉を掴もうと手を伸ばす――――しかし、身長差のために胸倉を掴めず、手は宙を掴み、そのまま胸板に触れてしまう。

ふにっとした。

「あれ? 意外と柔らかい。鍛えてないな」

ふにふにふに。

顔から血の気が失せていく江葉。

「やああぁぁ!!」

女の子みたいな悲鳴を上げて、へなへなと女の子座りになってしまう。

「そんな大袈裟な」

「何やってるのよっ!!」

ユリーカが怒鳴る。

「は、破廉恥漢めっ……………………」

江葉は大粒の涙を目にためて、自分を抱きしめている。

嫌な予感がした。

「えっ…………。えっ?? ごめんっ。女だったって気づかなくて…………」

下唇を噛み睨みつけてくる江葉。

異世界転生した途端、痴漢をしてしまった。

ささーと顔から血の気が引いてくるのを感じる。

「……………………お前はっ、な、なんなんだっ!!」

「い、インクブスだっ!!」

「……………………えっ?」

怪訝な顔になる江葉。

静寂に包まれる一同。

しかし、次の瞬間には、爆笑の渦に包まれた。

「えっ…………、もしかしてエロい単語だった?」

「っ……………………」

下唇を噛み、真っ赤になって震えるユリーカ。

「インクブスっていうのは、男の淫魔のことですよ」

シャオティエンがぼそっとつぶやく。

「あっ、サキュバスみたいな?」

ギャラリーが爆笑しているのにも納得がいった。


「誡告っ!」

ユリーカが叫ぶ。


ぎゃああああああああ。

中庭に召喚獣の断末魔が木魂した。


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