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全部ぜんぶ『朝のせい』

作者: 柊 氷雨

鳥の声が聞こえた気がして、心なしか重いカーテンを引き開ける。

太くなっていく隙間から透明な泡緑が部屋の隅々まで満ちていく。目の奥が痛い。

思わず顔をしかめ、短く息を吐きながらこめかみに冷え切った指先を温めるように押し付けた。

「眠れてないのに」

机の上の野菜ジュースを勢いよく飲む。相変わらず大しておいしくもない橙色の液体が体温と同化していくのを感じながらコップを置くと、想像以上の大きな音に肩が跳ねた。

朝は嫌いだ。いつだって嫌なことの始まりで、妙な疲れを感じるのだ。

日本の大半が眠っている時間に起きている、眠れていないという罪悪感。感じる必要はないのだけれどどうしてか電気を消して、差し込む月光を見るたびに喉の奥が苦しくなって頭がいっぱいになってしまう。

逆効果なのだとわかっていても「眠れないとき 対処」なんて画面に向かって問いかける。


数字を数えるといいのだそうだ。100から順に少ない方へ、三秒に一つくらいで。『60まで数えられないで眠ってしまいます!』なんて書いている人もいる。

曲を聴くのもいいらしい。科学的に眠れると実証された曲があると書いてある。実際はリラックス効果のある音楽を心理学者と作曲家で制作したそうだ。

曲を流して、光を見ないように目をつむる。百から、一つずつ。ゆっくりと呼吸してどんどん数を減らしていく。89。60が近くなっていく。意識しているのに呼吸が少しずつ浅くなる。70。あと10。毛布に包まれて温かいはずの指先に冷気が迫ってきた。ろくじゅう、いち。指を掻き合わせ胸に強く押し付ける。六十。ふっと息が漏れ、毛布の温かさが全身に広がるのを感じた。なんでこんな。バカバカしい。


眠ろうとしているのに誰かの体験を上回りたいと心が叫んで、勝手に焦っていくからだ。僕は置き去りにされて、泣きたくなってくる。僕ですら僕を待っていてくれない。

いつもいつも『朝は嫌いだ』って『また眠れなかった』って寂しさと弱さを無色透明の緑色に押し付けて、昼間の僕は生きている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 色々考え過ぎて、だからこそ眠れないのだと思う。 [気になる点] 昼間には眠らないのか。眠るとしたらどれくらいの時間か。 [一言] 目指す先はどこにあるのか。
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