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九十二話 番犬、パリスの研究室へ

アイス「む、今日は我であるか。滅多に出ないサブキャラを使わんといかんのは大変じゃのう。ほれ、本編じゃ。最後までよろしくの」

「そういえば、君を招待するのは初めてだったよね」


パリスとともに魔王城の中を歩いていると、思い出したようにパリスが言う。


『そうだな。それにしても、お前の研究室が城の中にあるっていうのに、なぜいつもあっちの遠い大森林の屋敷まで行っていたんだ?』

「ああ、ほんとはお城の中に研究室なんてないんだけどね。言っただろう? 今日は気分的にこっちから行きたかったんだって」


ほう。城の中にはないが城から行けるとな。


『テレポート的なやつか?』

「そうそう。その通りさ。ほら、こんな具合に」


パリスが廊下にあるうちのひとつの扉に手を掛けて引いて開けると、そこは形容しがたい歪んだ空間が存在していた。


この歪みこそが、空間をつなぐ役目を果たしているのだろう。


「さ、入って入って」


俺は促されるがままに空間に足を踏み入れる。すると、奇妙な感覚に襲われた。


頭がぼーっとする。なんだろう。虚無感に襲われるというか、何もかもがどうでもよく感じるような……。不思議な感覚だ。


そのままぼーっとしていると、急に意識が覚醒する。それと同時に、大きなあくびが出た。変な体験だった……。


「やあ、ボクの研究室にいらっしゃい。ボクの開発したドアの感覚はどうだったかな?」

『なんか気持ちよかった』


こいつが気分的にここを使いたかったというのは納得ができる。現に、眠りから自身のタイミングで起きた時のような頭の冴え具合だ。気分がいい。


そして今更になって俺はパリスの研究室とやらを見渡す。


ガラスのカプセル。摩訶不思議な薬と鉄でできた難解で複雑な機材の数々。というか、どうみてもオーバーテクノロジーとしか言えないようなものが多数ある。


こりゃ城じゃ物足りないわけだ。


「感想はあるかな?」

『男のロマンだな』

「ボクの親も、そんなこと言ってたかなぁ」


ふむ。そいつはきっといいやつだろう。ロマンを追及する男はかっこいい。追求しすぎて自分大好きになるのは困るが。


『それにしても、こんな設備があるとはな……。よく使えるな』

「結構長く教えてもらってたからね。全部わかるし全部使える」

『普及はさせないのか』

「それはさすがに無理があるね」


そう言って悔しそうにパリスが機材をなでる。パリスが無理だというのならば、それは誰にとっても不可能なのだろう。魔王の圧倒的な力なら、可能性があるかもしれないが、オリジナルには負けるか。


俺も近くの機材に顔をよせる。すると、顔の毛が何かに引っ張られる感じがした。


静電気か。と、いうことは、これらは電気で動くのだろうか。


『電気なんて概念も、まだ研究途中だろうに』

「そうだね。でもボクたちはずいぶん前から知っていたよ。でもこの世界には電圧やら抵抗やらっていうのは難しすぎてね」


やれやれと首を振るパリス。こんな弱気なパリスも珍しい。不可能なものをきちんと不可能と言えてしまうのは天才故だとは思うが。


『ここでアイーダと研究を?』

「うん。最近はアイーダに使い方を教えながらかな。今日は素材を採りに行ってるみたい」


使い方を教えながら、ね。


前の大森林での一幕を思い出す。


『こんだけいろいろあれば、延命もできそうだが』

「できるよ? あのカプセルとかね」


言ってパリスが俺が最初に目を付けた大きなガラスのカプセルを指さす。


「あれに魔力供給機と魔力増幅機を取り付けて、中に入った生物の魔力量を増幅させる。でもそれじゃ魔力が暴走して爆発するだけだから」

『爆発するのか』

「そう。だから、あれに入る前に魔力を極限まで減らすための魔力減衰機が必要になる。今はそれを開発しているところさ」


なるほどなぁ。難しいから完璧に理解することはできないが、やりたいことはわかった。


要は古い魔力を抜いて、新鮮な魔力を入れればいいということか。


そんな話はどこかで俺も聞いたことがある。確か、アイーダから聞いた話だったか。人間は自分の血を若くて健康的な人間の血に入れ替えることで、擬似的な若返りを果たそうとしたのだとか。


それと同じことが、俺たち魔族にもできるというのだろうか。


「難しい話じゃないだろうね。けど、ボク自身がそれを使うかはわかんないね」

『そうなのか?』

「うん。別に延命するほど未練があるわけじゃないから」


俺はパリスをじっと見つめる。


寂しいわけがない。だが、未練無くこの世を去ることが出来るのは、清々しいものでもあるのだろう。それぐらいにパリスの表情は希望に満ちていた。


「それに」と付け加えてパリスは笑顔で言う。


「時間切れまでに何ができるのか、どこまでできるのか、何を残すことができるのかっていうのが、科学者の醍醐味だと思うんだ」


なるほどそれは違いない。


俺は尊敬の意をこめてふっと鼻を鳴らした。


「さあっ、そろそろ本題に入ろうか。君の将来を見据え、人型との交際にどんな影響が出るかを調べよう」


そう提案するパリスの科学者の笑顔は、とても楽しそうで、こっちとしてはちょっと怖いんだよな……。 

アイス「最後まで読んでくれてありがとうの。どうじゃ? そういえば、パリスは金髪縦ロールらしいぞ。作者も忘れてたみたいじゃがの。ま、次回もよろしくの」

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[一言] マッドサイエンティスト? うーむ…
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