九十話 番犬、考える
今野「今日も割愛させていただきます!よければ最後までお願いします!」
「正直に言えば、ほとんどわからないわ」
「……そうか」
正直に言って貰えて助かる。それは、このマリン姉が本当に占いの力があるという証明でもあるし。
俺たちは静かに言葉の続きを待つ。
「ただ、言えるとしたら……そうね、ほんとにとんでもない悲劇が待ってるでしょうね。でも、それが何かはわからないし伝えられないわ」
「わかった」
魔王に制約を受けていることを、他人から知ることはさすがにできないか。当然と言われればそれまでだが。
「行くか、アイーダ」
「そうね……」
少し残念だが、まあそういうものだと割り切ろう。上手く行きすぎても困る。
「あ、じゃあお金は受付に頼むわ。ここは後払いなの。それと……」
何か勿体ぶるような言い方に、俺たちは立ち止まる。マリン姉はわざとらしく胸を強調させるようなポーズをとって、唇に人差し指を当てて言った。
「あたくしの占いが当たる確率、九割ぐらいだからね♪」
……九割って高いんじゃないのか?
「わかった。ありがとうな」
「はーい♪ またいらっしゃい。今度こそ二人の今後について」
「もう来ないわよっ!」
やっぱりまた顔を赤くしたアイーダが、受付にお金を叩きつけて店を出る。
そして気まずい沈黙。
「……適当にカフェでも入るか?」
「そうね。はぁ、疲れた。冷たいコーヒーでも飲もうかしら」
疲れに関しては同感だ。俺も気が気でなかったからな、途中は……。むしろ、俺を占う時よりもその前のほうが緊張してたから……。
いろいろと込み上げる雑念をなんとか振り払い、俺たちはまた商店街を歩いた。
ーー ーー ーー ーー ーー
手近な良さげのカフェを見つけ、飲み物を注文して席に着く。
「それで、結果聞いてどうだったの?」
「そうだなぁ。なんとも言えないというのが俺も正直なところだ」
「ま、そうよね」
当然の疑問に当然の答えを返す。むしろそれしか返しがない。
結局、俺は何をすればいいのかも、未来がどうなるかもわからなかったのだから。
しかしひとつだけ引っかかることがある。
「当たるのは、九割か……」
ボソッと呟くと、アイーダが運ばれてきた飲み物を受け取り、こちらに差し出しながら言った。
「てことは、見事に外れてハッピーエンド、なんてこともあるのかもね」
「是非ともそうなって欲しいがな」
そんな理想論を語り、俺はふっと笑う。本当にそうなることがどれほど嬉しいことか。嫌だ、戦いたくないし、悲劇も嫌だ。
だが悲劇は確実に起こるのだろう。
「……ルーケルやら、ダイアやらがいるんだ。そういう未来なんだろ」
「あ、確かに」
未来から、この世界を変えに来たあいつらがいることが、悲劇が起こることをしっかりと裏付けている。
また今回のことをふまえ、あいつらに訊いてみるか。まあ会えたらの話しだが。
「ま、会えたら話そう」
「そうね。……結局あいつらなんも話してくれてないもの」
そうだな。あんまりいい情報は貰ってない。まあいろいろ助けて貰ったりはした……よな?
記憶があやふやだがそういうことにしておこう。
そんなあやふやな記憶の中から、ひとつだけルーケルが言っていたことを思い出した。
「そういえば、ルーケルは三年後に魔界が滅ぶとか言ってたな」
「それっていつから数えてよ」
「あの時に、零雪原で会った時からだ」
そうすると、今は……一年半は経ったか。
「時間の感覚がなかなか無くて分かりづらいな」
「そうね。この魔界にも、年越しのイベントがあればわかりやすいんだけど……」
生憎と魔界には年中行事が一切ないため、生活の中で年月があやふやになることがよくある。
ちなみに、なんでないかというと魔王が「俺の人生的に何百回もやるのはなぁ」とこぼしたかららしい。元凶め。
「今のところはなんの動きもないが……」
「そうね。絶死海で人間が出たぐらい」
「そうだな」
逆に言ってしまえば、それしかないのだ。
「凶王の暴走、か……」
今度一度見に行ってみるか。そう俺は心に決める。
ちなみに、このあともいろんなとこに出かけましたとさ。そこはご想像に任せよう。
今野「最後まで読んでいただきありがとうございます! 次回もよろしくお願いします」