八十八話 番犬、王女様と出かける
アイーダ「今日はあたしよ。結構久しぶりね。やっとメインに出れたわ……。ま、本編もよろしくね」
「今日もあんたは平和そうねぇ」
そう言って現れたのはアイーダ。なんかかなり久しぶりの登場な気がするが、そういえばこの前の定食屋ででてきたのか。
『ま、実際平和だしなぁ』
「そうとも言い切れないじゃない。聞いたわよ? 絶死海で人間が出たって」
ああ、そういえばそんなこともあったな。それを踏まえて考えると、確かにそこまで平和じゃ無いのかもしれない。かなり前に人間が動いていると、マミーも言っていたし。
『そうだな』
「あ、あと幹部昇進おめでとう。あたしも立ち会って上げたかったけど、生憎と人間界にお邪魔してたのよ。別の世界のね」
別の世界の……。こいつの力も存外未知数なんだよな。別の世界って……。
『ありがとうな。しかし、お前の能力はどこまでできるんだか』
「さあね。質量が大きすぎるとかだと使えないかもだけれど、大抵のことはできるわ。天気も変えられるぐらいね」
うーん。やはり魔王と女王の子だな……。チートだ。
『別の世界というのも気になるが』
「いつか連れてってあげたいけど、まだ自分の分しか使えないの。結構魔力持ってかれるのよねぇ」
それは逆を言うならば、魔力さえあれば俺も行けるということだろうか。言ってみたいな。魔力を渡したり、強化ができるマミーぐらいに頼めば行けるだろうか。
それにしてもこいつは今日は暇なのだろうか。
『今日は暇なのか?』
「ええ。パリスが出かけてるの。暇つぶしにここに来たってわけ」
暇つぶしねぇ。ま、アイーダと一緒にいるのも好きだから、来てくれて嬉しいという思いはあるな。……これはペット的な感覚だったりするのだろうか。
自分の中でそんなことを考えていると、アイーダがぼそっと呟く。
「……ま、よかったら一緒にどっか行って上げてもいいけど」
それを犬の耳でバッチリ聞き漏らさずにキャッチした俺は首を上げる。
『いいな。行くか、久しぶりに』
「……そうね。というか、どんだけ尻尾振ってるのよ」
言われて俺は自分の尻尾をみる。
『……少し準備をしてくる。人の姿の方が楽だからな』
「わかったわ」
体は正直だ。だが少し恥ずかしいのでやめてもらおうか。俺は理性でなんとか尻尾を抑え、小屋に入っていった。
―― ―― ―― ―― ――
「で、どこに行くんだ?」
人化をと準備をした俺は開口一番そう尋ねる。
アイーダは少し考えるように上を向き、だが何も思い浮かばなかったのか俺の方を見た。
「思いつかないわ。ケルベロスは? どこか行きたい場所でもないの」
「そうだな。飯も最近食ったし、特にないな」
「そう。なら、ちょっとぶらっとする?」
「そうしよう」
俺がアイーダの隣に並ぶと、にこりと笑って商店街の方へ足を向ける。
……なんだろう。人の姿になった時の、このアイーダを前にした時のドキドキには慣れない。
魅力的なものを前にした時は万人こうなるのだろうか。俺にはやはり眩しすぎるか。
商店街に入って、見回しているとふと気づいたことがある。
「……よく通りすがりの人から話は聞いていたが、時間というものは早いな。昔よく遊びに来てくれた人の店はもう無くなってしまったらしい」
そこには今は絶死海から空を伝って仕入れられた、魚たちが並ぶ魚屋になっているが、少し前……20年ほど前には質のいい肉の並ぶ精肉店だった。
「そうね。私のお気に入りのお店も、何個か無くなってるわ。寿命が長いのも考えものね」
何度も言っているかもしれないが、この世界での寿命は魔力に比例する。俺たちの周りは三桁を超えるような化け物ばかりだが、街に出ればそうもいかない。
平均的に、鬼は百五十年、中級妖精は百年。インプは五十年程度だし、ミノタウロスに関しては三十年ほどだ。
それぞれの寿命の中で、皆懸命に生きているのだ。ちなみに、右手側にある占い店は、創業二百年にしてまだ一代目らしい。
と、俺の視線を追って、アイーダが呟く。
「……占い、いいわね」
「行くか?」
「うん。当たるって評判らしいわよ?」
「そりゃ楽しみだな」
と、そこまでいってふと思った。
この占いで、もしかしたら未来を教えて貰えるかもしれない。あの試練で見たはずの未来を。
そんな興味もあって、俺たちはその店の中に入った。隣のアイーダはとてもウキウキしているようだ。
中はそこそこの人がいた。しばらく待って、アイーダと共に占いの部屋に入る。
「いらっしゃい。あたくしの占いは百発百中よ♪」
中には、派手な衣装に金色の髪、大きな胸の背の高い美しい女性がいた。
「あ、ちなみあたくし五百歳よ♪」
幹部レベルじゃないか。
アイーダ「最後まで読んでくれてありがと。どうだったかしら? ……ちょっとしたデートよね。うぅ、意識しないようにしてるのに……。次回もよろしくね」