八十七話 番犬、ちびっ子と戯れる
アレッタ「ど、どうも! 本日は私です。と、とても久しぶりの登場になりますが、ちびっ子大集合です。よければ最後までお願いします」
試練を終え、幹部になってから一夜明けた。俺は今日も番犬として橋の前で眠っている。
なんか、パーティーみたいなものはまた今度行うということだ。親父や母さんも忙しいみたいだしな。その間に、俺は俺で挨拶回りでもするとしよう。
そんなことを考えながら、日の光を浴びてうとうととする。
「あー! わんちゃんだー!」
その無邪気な声がして、俺は寝る体勢のまま薄目を開けた。
とてとてと俺の方に向かってくるのは、何人かのちびっ子ども。どこかでみたことがあるような気がしてよく見てみると、その中に砂人のアレッタを見つけた。(九話参照)
「久しぶりー!」
血色の鱗をもつ竜人のアランがそう言って俺の毛にダイブしてくる。犬の了承も無しにこいつは……まあ許すがな、まだこどもだし。魔王だったら蹴飛ばすが。
「お、お久しぶりです」
『おう、アレッタ。久しぶりだな』
みんながみんな俺に飛びつく中、黄土色の肌を持つ砂人のアレッタは、年長者としてか俺に声をかけた。
「すいません。お邪魔じゃありませんか?」
『ああ、大丈夫だ。……それにしても、なんかお前雰囲気変わったか?』
「そ、そうですかね?」
以前はしどろもどろして、あまり喋らなかった大人しいイメージだった。今も大人しくはあるが、違う意味で大人らしくなったように見える。
照れているのか、頭の黒いベレー帽をいじるアレッタ。そのアレッタへ、植人種、薔薇のサリーが声を掛ける。
「アレッタ! あんたも来なよー。なんか前より気持ちいいわよ!」
「あ、それ俺もわかるぞ! なんかもふもふしてる! 前より!」
ゾンビのカイもそれに賛同するが、果たしてそんなに俺の毛は変わっているのか……? 全然そんなつもりはないんだが、もしや試練を突破して、もふもふ度合いが上がったとか?
その強化はいらない気もするが、こういう癒やしには効果があるから感謝しておこう。もふもふアップよありがとう。
「え、あ、うん。じゃあ……」
控えめに目でいいですか? と問いかけてくるアレッタに無言でうなずくと、嬉しそうな顔をしてそっと俺の首元に抱きついた。
「あ……本当だ、前より気持ちいい」
『お前が言うなら間違いなさそうだな』
思わぬレベルアップを知った。
『そういえば、アレッタは特に最近変わったことはないか?』
「最近ですか?」
特に理由はないが、話の切り出しとしてなんとなく聞いてみる。
「最近は……あ、これはなんというか、私のことではないのですが、知ってますか? 《無の砂漠》のサンドさんが、また活動を始めたらしいですよ」
『ほう。サンドか』
大分昔の話のように感じられる。まあ時間軸をきちんと設定していない……ん? なんでもないぞ。
なんとなくあのサンドと出会ったときのことを思い出す。
そういえば、あの魔方陣は結局わからずじまいだったのだろうか。全然そんな話を聞いていないからな。また気が向いたら聞いてみよう。
ふと空を見上げれば、青空が広がっている。そのまま視線を首元のアレッタへ向けた。
『……雨は降らないか』
「そうみたですね」
惜しいな。折角来てもらったし、もう一人のアレッタとも話をしてみたかったが。致し方ない。
……と、いうか。
『おい。小僧ども。まさか寝てるんじゃ……』
そう呼びかけてみて、だが反応がない。
……寝るの早すぎるだろ。そして俺の体気持ちよすぎるだろ……。
くっ。これはまた俺がこいつらを運ぶはめになりそうだ。昼寝は明日にしておこう。
俺はのっそりと起き上がる。昨日の試練は思った以上の疲労を俺に与えていたようで、睡魔に体を委ねたくなってしまうが、何があるとも限らない。ここは親の元へきちんと届けなければ。
そう頭では考えていても、体はいつの間にかいい体勢になっていた。主に寝るのに良い体勢に、あの動きたくなくなる感覚がやって来る。
……まあ、夕方に起きれば、いいよなぁ。
俺は諦めて目を閉じた。
すぐ前の商店街の喧騒が心地よかった。
アレッタ「最後までお読みいただきありがとうございます。いかがでしたか? 水に濡れたアレッタ? は、残念ながら出ませんでしたけど、またいつかでるかもしれませんね。それでは、次回もよろしくお願いします」