八話 ”魔王君”とピクニック!
魔王が・・・・・・ショタ化・・・・・・? (;゜д゜)ゴクリ…
子供と化した魔王を背に乗せ、ピクニックに出かける俺たち。
『どこに降りる?』
「うむ。行きたいところがあるのでな。あっちで頼む」
俺は、魔王の案内を受け、大地を駆けていた。
この高い声が魔王のものだと思うと、だいぶ違和感を感じる。
『というか、お前軽量化になったはいいんだが、服とかは大丈夫なのか?』
「ん? 服か? うむ。俺の体に合わせて変化するようになっているから大丈夫だぞ」
と言って、服を風になびかせる。
なんか便利な服だな。
『売れば儲かるんじゃないか?』
「いや、もうこれ以上金があっても持ち腐れだからなあ」
まあ、一国の主にこれ以上の金は要らないということか。
「お、もう少しで目的地だから、よろしく」
『おう。わかった』
そして、俺は徐々にスピードを落としていった。
―― ―― ―― ―― ――
「着いたー!」
と、小さな魔王が俺の背の上で伸びをする。
着いたのは、この前アイーダと来たような森林ではなく。大きな石が連なる岩山の上だった。
『・・・・・・なんでこんなところなんだ? 俺はもっといい場所を知っているぞ?』
どうせなら、魔界を出た森林や草原に行きたいのだが・・・・・・。
「ふっふっふ。甘いぞ息子よ。どうせ、もっとさわやかな草原や森林に行こうとしたんだろ?」
たしかにそのとうりだが、そんな自信満々に言われると否定したくなる。
だってどや顔なんだもん。
まあ、子供の姿だし、許してやるがな。
『まあな』
「男二人でそんな場所に行って何をする?」
『好奇心旺盛な魔王様はきっと、野原を駆けまわってると思います』
「・・・・・・否定はできないが、きっと飽きてくることだろう」
否定しないのかよ。あんた何歳なんだか・・・・・・。
「だがな息子よ!」
おそらくはかっこいいポーズをとっているんだろう。背中の上だから見えないが。
「この周りを見るがいい!」
『岩しかないぞ』
「そう! それこそが重要なのだ!」
岩が重要・・・・・・。
『石器でも作るのか?』
「いや、なんのために?!」
それぐらいしか思いつかないのだ。仕方あるまい。
「そろそろ話を進めるぞ。つまりだ。修行だよ」
『修行?』
一体何のために? と、聞こうとすると、魔王に遮られる。
「実はな、最近うちの幹部の一人が辞職したいって言っておってな」
うちの幹部って辞職制度あったのかよ。
「もう二百年の付き合いだし、給料もかなりあげていたのだがな。いてくれるだけでもいいって言ったのに、頑なに拒否するんだよ」
『実はブラックなんじゃないのか?』
「いや、安心安全高給料有給有り残業なしがモットーのうちだからそんなことはない」
超ホワイトだった。ちょっと安心する。
「でだ、お前にはその埋め合わせをしてもらいたくてな」
埋め合わせ・・・・・・。
『幹部になるってことか?』
「いや、単純に補欠だ。幹部にはならなくてもいい」
『だが、その幹部を探す必要があるのだろう? だったら俺が・・・・・・』
「まあ、たしかに戦闘力もあっていいのだが、そうするとお前。昼寝の時間がなくなるぞ?」
昼寝の時間がなくなるねえ・・・・・・。
『別に』
「とにかくだ!」
折角幹部になろうと言っているのに、魔王がそれを遮る。
なぜだろう? 俺にやらせたくない理由でもあるのだろうか?
「お前には、その補欠の資格があるか! まあ、なくてもやってもらうが、その力を試さしてもらおう!」
そう言って、魔王が俺の背の上で立ち上がる。
「あ」
何かを思い出したように魔王がつぶやいた瞬間。俺の上に乗っかっていた重さがなくなる。
背中の方を見ると、そこに魔王の姿がなかった。
『おい! 親父!』
急に心配になってあたりを見渡す。
攫われた? 鳥? だが、そんな気配はどこにも・・・・・・。
「あーぶなーーーーーーい!」
不意に上から低い声と大きな影が降ってくる。
俺は確かめるよりも早く。咄嗟に横跳びで影の外に出る。
ドーーーーン・・・・・・。
降ってきたものにより、大量の砂ぼこりと砕け散った岩石があたりに飛び散る。
俺は巨大化した尻尾で体を守った。
そして、落ちてきたのはもちろん。
「ただいま!」
『いや、ただいまじゃないから』
それは魔王。それも、子供の状態ではなく。普通の状態の魔王だった。
「いやー! この靴着けてたの忘れてたよ!」
そう言って、頭をかく。
『・・・・・・なんだっけか。たしか、自分の体重と釣り合わせて、その靴が触れると発動するんだっけか?』
「そうそう。そんな感じかな。この体に設定してたからさ、軽量化状態じゃあ釣り合わなくなるのも当然だわな! 一瞬天龍の姿が見えるところまで飛んじまったよ!」
”天龍”とは、この世界の”陸””海””空”の三大巨神獣の一体で、”空”を支配する神獣なのだ。
天龍がいる場所は、この世界の空と別次元の狭間であると言われており、どこかの国では宗教もあるとか。まあ、あとの二体については追い追い話すとしよう。
というか・・・・・・。
『よくそこまで飛んで、生きて降りてこられたな』
「そうだな。天龍に会釈したおかげかな?」
一瞬本気で心配したのは、なんだか恥ずかしいので言わないでおく。
『で、修行は?』
「おっと、そうだったな。じゃあまずは・・・・・・この岩だ」
魔王が自分の体ほどある岩を持ち上げてこちらを向く。
「これを投げるから、お前の能力で砕いてもらう!」
『待て。さすがにそれは無理だぞ』
「無理なのか?」
『せめて置いてやってくれ』
魔王が投げたらどんなスピードで飛んでくるかわかったもんじゃない。
それに、硬いものを相手に戦ったこともほとんどないのだ。
「じゃあいい。ここに置いておくから、好きなタイミングでやってくれ」
重い岩を置き、魔王が腕を組んでこちらを見る。
さて、やるか・・・・・・。
俺は、岩に歩み寄り、己の二本の犬歯。いや、”牙”に”強化”と”巨大化”の魔力を籠める。
説明し忘れていたが、俺のこの能力は、”付加部位が狭いほど効果が高い”。そしてこれは、巨大化の効果をうけないのだ。そのため、いつもはこの牙か尻尾にしか使わないのだ。
『そこで大丈夫か? 破片が飛ぶぞ』
「大丈夫だからやっていいぞ」
念のため確認を取ったが、大丈夫だそうだ。
大丈夫と言ったのだから大丈夫だろう。俺は、強化した巨大な牙で岩を抉る。
すると、抉るどころか、粉砕してしまい。破片が顔にあたる。
「いい感じだな。じゃあ、次に行くか」
いつの間に取って来たのか、大きな岩が目の前に置かれる。
「行けるか?」
『もちろん』
そうして、”ピクニック”と称した”修行”が始まった。
―― ―― ―― ―― ――
「はい次あの山!」
『さすがに無理だっつってんだろ!』
開始から随分たったころ。俺は魔王に無理難題を出されていた。
「えー。さっきの岩できたし、できるでしょー」
『さっきの岩の何倍あると思ってんだあの山! 百個あっても足りないわ!』
ちなみに、さっきの岩とは、民家をたてに二つ並べたような大きさの岩だった。
俺はなんとか全力を出すことで破壊できたが、山の一つなど消せるわけがない。
「なんだよ。限界か?」
『さっきからそう言ってるぞ』
「そうか・・・・・・じゃ、俺もたまにはストレス解消するかな」
魔王の周りの魔力がうごめき始める。
そして、魔王が先ほど俺に壊せと言った山へ手のひらを向けると、その魔力が手のひらに吸収されていくのがわかる。
これは・・・・・・まずい。
本能的にではない。誰が見てもわかるような、そんな様子なのだ。
俺はすぐさま手近な岩の裏に隠れる。と、魔王の口が動く。
「《破》」
かすかに聞き取れたその一言。一文字を受けた魔力が、一粒のしずくのように凝縮されて魔王の手のひらから放たれる。
その速さ。まさに閃光。
そして、その閃光が山に吸い込まれていく。刹那。轟音とともに山が爆散。さらにひとつ後ろの山も爆散。爆散。爆散。爆散。
恐る恐る岩から出てみれば、不自然な形の“丘”の連なりが出来上がっていた。
「ふいー。気持ちいい〜」
・・・・・・やばいなこの人。
長いこと魔王と過ごしてきたが、ここまでの力は初めて見た気がする。
その時。俺はようやく魔王というものの恐ろしさを知った。
「さて、もう夕方だし、帰るか」
魔王がこちらを振り返る。
「それにしても、我ながらいい感じに削れたな!」
『いい感じ?』
「いい景色じゃないか!」
この岩山にいい景色もなにもあるまい。そう思って、魔王の眺める方を見やる。
『・・・・・・計算してたのか?』
「なんのことかな〜。さ、帰るぞ!」
きっとこの人は、このことを聞いてもとぼけた振りしかしないだろう。
崩れ去った山々の一番奥に連なる山に、どうやったのか、『ありがとう』と、岩肌にメッセージが書かれていた。
『・・・・・・変なサプライズだな』
「へ・・・・・・! そ、そうか・・・・・・」
がっくしと魔王が肩を落とす。
こんなダサいメッセージの送り方はないだろうよ。
だが、まあ・・・・・・。
『また、ピクニックにでも来ような』
魔王が顔をパァっと明るくする。
「おうよ! 息子!」
そして、俺たちは城へと帰って行った。
『あ、ピクニックは修行じゃないほんとのピクニックな?』
「え? あ、そ、そうだな!」
最後までお読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか? え? 魔王君タイムが短い? ・・・・・・またいつか登場させるんで許してください(´・ω・`)
あ、それと、《番犬祭》と称して連続投稿を行います! よかったら、次回も、そして、《番犬祭》もよろしくお願いします!