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八十一話 番犬、巨人定食屋にて

ジミー「どうも! 超久しぶりだな! 巨人定食屋のマスターだ。久しぶりにうちが舞台で嬉しいぞ。それじゃ、本編だ」

「よおー! ケルベロス!」

『おう。マトイか』


朝の遠吠えと兵隊たちの相手を終え、体をぐぐっと伸ばしているところにマトイがやってきた。


『てっきり、昨日ぐらいには呼びに来るかと思ったが』

「はっはっは。俺もな、忙しいんだよ。昨日はちゃんと布団作ってたからな」


……ちゃんと?


『ちゃんととはなんだ、布団屋』

「んんっ! で、どうよ、久しぶりに飯に行かねぇか?」

『雑な誤魔化し方だな』


しかし俺の指摘も何処吹く風。まあ今までもこんなやつだったしな。今更か。


と、俺の腹は冷静な頭よりは本能的らしい。ぐぅと可愛らしい唸り声を上げた。


『よし、行こうか』

「おう! あ、それと今日は他のやつもいるんだよ」

『他のやつ?』

「そうだ。具体的に言えば、パリスと、王女様と、あと」

「我だっ!」

『リズムよく流れに入ってくるな』

「ぬおっ?!」


突如現れた魔王へ、俺はツッコミと称した尻尾の一撃を叩き込むのだった。


うん。こんな感じだよな。うちの魔王(変態)への扱いっていうのは。


「あら。手厳しいわね、ケル」


一人で満足していると、これまた意外な人物の声が。


『マミーも来てたのか』

「お前呼び方可愛いな」

『そう言われると恥ずかしくなる』


今まではこれがしっくり来てたのだがな。ママ、というには血の繋がりがないし、母さん、と呼ぶには美しすぎるし仰々しい。

冗談めかして行ってみたらしっくりきた。マミー。


それにしても、なかなかに母さんも背が高い。マトイと並ぶぐらい。俺からすれば少し見上げるぐらいではなだ。


「私は気に入っているのよ?」


そう言って、白い肌を輝かせて微笑む。ふくよかな唇は紅色に飾られている。


『それにしても、何を話すんだ?』

「そうねぇ」


頬に人差し指を当て、勿体ぶるように言う。


「それは、家族会議で、なんてね」


……魔王もいい嫁を持ったものだ。


「……可愛いな、お前の母さん」

『そうだな』

「だろ?!」

『親父はうるさい』

「おう!」


話が進みそうにないので、ひとまず魔王を尻尾で簀巻きにして店へ向かうことにした。


『ちなみに、王と女王、さらには王女に最恐科学者までくることを店主は知ってんのか?』

「ん? なんも伝えてないぞ?」


うむ。なかなかパニックになりそうだな。特にパリス。俺が散々あいつのことを喋ったこともあるから、店内は戦々恐々としていることだろう。


……その矛先が俺に向かうことの無いことを祈ろう。俺が言いふらしたなんて知られたら……。


「ん? どうしたケル。寒いのか?」

『武者震いだ』

「その使い方はどうなんだ……」


おっと親父に呆れられてしまった。ま、あいつも鬼ではない。大目に見てもらえるだろう。


ーー ーー ーー ーー ーー

久しぶりに《巨人定食屋》へとやってきた。見上げるほどの扉を前にするのも久しい。


しかし……。


『……今日は一段と騒がしいな』

「やっぱりお前もそう思うか。俺が来る時でも、お前が来た時もこんな騒がしくはなかったはずなんだけどな」

「居酒屋とは騒がしいものだろ? ケル」


そうなんだがな、親父。しかしいつもはもっとなんというか……地響きは、しないんだ。


「とりあえず、入ってみるか」


マトイが先陣を切って扉に手をかける。そして、重たい扉をぐっと押すと、チリンとベルが鳴った。


「へいらっしゃい! 巨人定食屋へようこそ!」

「今なら大盤振る舞い半額だよ!」

「ついでにこの巨大化の薬でみんな一緒に楽しくテーブルを囲めるぜっ!」


どっという笑い声が俺の耳になだれ込んでくる。


なるほどこれが理由か。俺はそっと耳を伏せて音をなるべく遮断して、息をつく。


『パリスか……』


よくここで見かける奴らが、どうしてか巨人と同じサイズになっている。

どうせパリスの新薬だろう。


「そのようね」

『母さんは慣れてるのか? こういう空間に』

「ええ。私の国のピクシーたちといい勝負ね」


それは音の妖精とかじゃないだろうか。

巨大な体から発せられる歓声が芯にまで響いてくる。


「いい空間ではないか」

「だな! 新鮮な感じで楽しいな!」


……耳が発達しすぎているのも考えものだな。しかも、こんな時に限って人化の薬を忘れてきてしまった。


もしかしたら、あいつが持っているかもな。


俺はのそのそふらふらと背の高い椅子と大きな靴の間を縫って目的の人物を見つける。


『パリス……』

「やっと来たみたいだね。って、もう瀕死じゃないか。大丈夫かい?」

『耳がよすぎるのも考えもんだ。人化の薬はないか?』


そろそろ限界だ。頭がぐるぐるしてきた。


「あー……。あるにはあるけど、服ないよ?」


そう言って、パリスが俺から見えない左隣の人物を指す。


「遅いわよ。もうだいたいやりたいことは試しちゃったのよ」


そう言って、カラフルな液体の入った通常サイズのグラスを揺らすアイーダがむすっとした表情でカウンターに座っていた。


『……尚更服が必要だな』

「大丈夫よ。ちゃんと防音壁はってあるから」


防音壁? 俺は試しにカウンターの上へと飛び乗る。すると、たちまち音が小さくなった。


『お前の能力はほんとうに便利だな』

「どうも。父さんたちは?」

「今来たところだ」


振り返ると、魔王とカミラがちょうど来たところ。

しかしマトイがいない。


「マトイさんは、あっちよ」


カミラの指の先を見ると、常連の輪に入って無邪気に笑っているマトイが見えた。


……まああいつは今回の話には関係がないんだろうな。とか考えていると、そういえばと思い出す。


『パリス。今度は巨大化の薬を作ったのか』

「いいや、元からできてたんだよ。試す場所が無かっただけさ。ほら、小さくできるのに大きくできないわけないだろう?」


俺はパリスに久しぶり会った時のことを思い出す。……うむ。実際に小さくなった経験があると納得するな。


「想像以上に喜んでもらえたみたいだけど」


ふと嬉しそうにパリスが破顔する。


『……そりゃ良かった』

「最近行き詰まってたのよ。いいモチベーションになったんじゃないの?」

「そうだね。アイーダの言う通りだ」


へえ。珍しいな。魔界屈指の天才にもスランプはあるか。当然か。


「いやなぁ。最初に王女様と幹部様がいらっしゃった時はどうしたもんかと思ってたんですけれども」


ふと俺たちの体を影が包んだ。


「まさか魔王様と女王様までいらっしゃるとは! あ、パリス様、ありがとうございます。おかげで人生最高の居酒屋になりました」

「礼はいいよマスター。ボクは自分の実験をしただけ。最初、無理矢理飲ませた甲斐があったよ」

「マスター。なかなか美味しいわよ、ここの飲み物。アルコールは勝手に抜いちゃってるけど」

「構いませんよ。どちらにしろ、自分が提供したのには変わりないので」


巨人定食屋のマスター。ジミーが満面の笑みでそう話す。


確かに、自分と同じような体の人々に、本来自分が食べてもらいたかった量と、物を提供できるのは幸せだろう。


嬉しそうなジミーに不思議な感慨を抱く。


「さて、そろそろ本題に入ろう。マスター。適当に飲み物を頼む」

「わかりました」


魔王が居住まいを正して、俺に向かって口を開いた。


「ケルベロス。幹部になる気はないか?」

ジミー「最後まで読んでくれてありがとうございます! どうでしたでしょうか? 珍しいジミーの丁寧語だ。意外といいとこ育ちなんだぜ? それじゃ、次回もよろしく!」

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