八十話 番犬、まったり帰還する?
パリス「やあ、今回はボクだよ。といっても、これと言って喋ることもないんだけどね。とりあえず、最後まで見ていってくれ」
……砂が、潮が、毛が、砂が……。
「みんなー! すぐ風呂を沸かしてくれ! いや、もう俺も手伝ってやる! 《湯》!」
いつの間にか寝ていた俺は、起きたら悲惨なことになっていた。
砂は毛の隙間に入り込むわ、潮風で毛がカピカピになるわ、気分は最悪だわで……つまり、最悪だ!
しかも体が痒すぎてたまらん! 起きた時にもそれで暴れてしまった。マリンとアクアにとってもらえれば早かったろうに!
くっ、握手だった……。もう海行きたくなぶっ!
「どうだ、ケル! 少しは楽になったか!」
『いきなりお湯を頭にかけるな! 体にそっとかけろ体に!』
顔は勘弁してくれ。うー……。
『……なんか精神的に疲れた。親父、ありがとな。あとは召使いさん達に任せたい……』
「お、おう。すまんな……。じゃあ、あとは頼んだぞ」
しょんぼりと魔王が風呂場からとぼとぼ出ていく。また、咄嗟にここにテレポートしてくれたのはありがたい。あとでもう一回ぐらいもふらせてやるか。
「ケルベロス様。とりかかりますがよろしいですか?」
『おう……。すまん、悪いな』
気づけば俺の周りには六人の召使いが、泡を手にまとわせ準備万端。
よし、あとは任せるか。
いや、しかし……。
不快感とは、これほど精神的に辛いものだったか……。
ーー ーー ーー ーー ーー
「いかがですか?」
『ありがとう。すごい気持ちよかった』
「それでしたら私共も満足でございます」
黒髪の男の召使いが、丁寧にお辞儀をした。
……まて、今更気づいたが、召使いってもしや全員男か?
俺は自分の体を確認するふりをして、六人の姿を見る。
筋肉質。男。ふんどし。
「……何か?」
『い、いや、なんでもない。すまんな。何もしてやれんが……』
「いえ、いつももふもふさせてもらってましたので」
いつも? いつも……。
『ん? あ、あの兵士たちか?』
「ええ。まあ、こちらの方が本業ですので。兵役のようなものです。基礎体力を付けるための特訓でもあります」
なるほどなぁ。あの兵士たちか……。
『ありがとな。またいつでも来てくれ。大歓迎だ』
「ありがとうございます。それでは、毛を乾かすのでこちらへ」
俺は誘導されて別室へ。風の魔法と火の魔法を組み合わせた温風に毛がなびく。
……気持ちいい。
なんだろうか。不思議な気持ちよさだ。もしかして、俺をもふもふしている人々もこんな風なのだろうか。
それならば、気持ちはわかる。
「終わりましたよ」
『ありがとう。……日差しに当たりながら、昼寝でもするよ』
「ええ。そうなさってください」
俺は、いつもどおり。いや、いつも以上につやつやでふさふさな毛に満足して、リラックスした気分で城を出る。
いい日だ。気持ちのいい光が今日も街に降り注いでいる。
……今日はマトイが来ても無視だな。また明日にでもあの店に行ってやろう。
俺は体を丸め、昼寝の体制に入る。
誰かを頭に思い浮かべたところで、意識は心地のいい世界に吸い込まれていった。
パリス「最後まで読んでくれてありがとう。どうだったかな? 久しぶりの投稿だけど、まあ気長に見てくれると嬉しいね。それじゃ、次回もよろしく」




