七十五話 五大凶王アクア
ケルベロス『やあ。今回は俺だ。しばらく更新が止まっていてすまなかった。今回からいつも通りになるぞ』
「じゃ、飯にでもしよう」
そう言って、魔王が魔力で作りだした黒い空間に手を突っ込む。
興味深げに俺がそれを眺める。そして何かを引き抜いた魔王の手には――一つの箱が掴まれていた。
『なんだ? それ』
「これはな。ナローストレージと言うんだ。ものを小さくして入れることができるから、重宝している」
『ああ、聞いたことがある。デイジーさんが使っていたな』
俺は何ヶ月も前のことを思い出す。
あのトラウマを植え付けられた日……。デイジーさんが、大量の肉を入れていて、全力を出さないと持てないぐらいの重さだったのを覚えている。
『実用化されたのか』
「ああ。パリスの功績だな」
あいつなんにでも関わってるな。さすがと言ったところか。
魔王が布を広げ、その上にストレージを置く。俺たちはその周りに円になって座る。
魔王が布の上に美味しそうなサンドイッチをいくつか並べる。
『……美味そうだな』
「カミラの手作りだ」
『母さんのか』
そういえば、最近はマトイと食べに行ってばっかりだな。……たまには母さんの手料理を食べたい。
「それにしても、魔王様とカミラんは仲良しねぇ〜」
「お前、俺の妻をなんつー呼び方してんだ……」
「あら? カミラんはあたしのこと“マリリン”って呼んでくれるわよ?」
「ちょっとあんまり聞きたくない事実だった」
親父よ。同感である。
……母さん。もう大分歳なんだよなぁ。いったら天の果てまで飛ばされそうだが。
『ま、若々しい限りだ』
「ほらぁ。魔王様も偏見はだめよ?」
「へ、偏見はしてないぞ?」
そんな話をしながら、俺達は好きな具材が挟まれたサンドイッチを手に取って、雑談をする。癖の強いマリンだが、こいつとの会話も楽しい。
「あ、そういえばなんだけど」
ふと、マリンがそう話を切り出す。
「見て欲しいものがあるのよ」
「なんだ?」
「ふふっ。きっとビックリするわよ。……その前に。アクアー!」
なんだろう。すごい気になるがその前に。
「はーい!」
俺らの丘から見える海の方から、声が聞こえる。
すると、大きな青い表面が盛り上がりーー
ザッパーンッ!
巨大な水しぶき。並び立つ八本の水柱。宙に浮かぶ巨大な雫。そしてそこに立つ影。
「五大凶王が一人、アクアちゃんだゾっ!」
比喩ではなく文字通り透き通った髪をツインテールにして、飛びっきりの笑顔で名乗る少女ーー凶王、アクアが現れた。
『……過剰な演出だな』
「ひどいっ! 私たち頑張って考えたのに!」
おっと、怒られてしまった。
それにしても……なかなかまた、癖の強い。
「……アクアちゃん。あたしたちそんな打ち合わせ」
「しっ! マリン。ダメよ。ここはやっぱり凶王として……」
「あっ、なるほど」
いや打ち合わせしてないんかい。そして全然噛み合ってねぇ。ツッコミたい。が、抑えろ俺……。
「よう。久しぶりだなアクア」
「おっひさー! 魔王っち! 五百年ぶりぐらい?」
「だな。お前とマリンがいっつも遊んでるから、せっかく来ても顔も出せねぇ」
「あたしたち仲いいのよぉ」
「そゆこと! めんご!」
……なんか、一気にこの場がカオスになったな。
まあ、癖の強い二人がいるからなのか。……こんな凶王もいるんだな。
「で、自己紹介はこれぐらいにして」
仕切り直すようにマリンが手を鳴らして、話を始める。
「あなたたちに関係する大事なことがあるの!」
「そうなのよぉ。じゃ、マリンちゃん」
「あーい!」
アクアが海を指さして、その指をゆっくりと持ち上げる。すると、ひとつの雫が浮かび上がってくる。
その中にはーー二つの人影。
「ご紹介するわぁ」
その姿は、ローブに隠されていてよくわからないが……。
なんか、見たことある。
「未来からきたお二人でぇす!」
「未来人の二人よ!」
零雪原で出会った、強者感のすごかった二人が雫のなかでぐったりと伸びていた。
ケルベロス『最後まで読んでくれてありがとう。どうだったか? なかなか癖の強いキャラが二体も来たな。今回の章は騒がしくなりそうだ』




