七話 親父。再来。
親バカ魔王様の登場でございます。
シクルと別れた翌日。
朝の二つの日課を済まし、なんかまた飯に誘いに来たマトイを手短に追い払い、今日こそは昼寝をするぞと寝る体勢に入る。
「ケルベロス様ー!」
が、現実はそう優しくないらしい。こちらに向かってくる兵士が見える。
もう無視して散歩に行きたい・・・・・・。そんなことはしないが。
『・・・・・・どうした』
「はい! 魔王様がお呼びです!」
魔王がおれを呼ぶ・・・・・・?
『俺は行かないって言ってくれ』
「はっ! 了解しました! では!」
足早にその場を去っていく兵士。
なんで行かないのかって?
・・・・・・詳しくは昨日の様子を見てくれ。
ともかく。俺は絶対に行かない。てこでも動かんぞ。
そして俺は、二度寝に・・・・・・。
「ケルベロス様ー!」
つこうとして起こされた。
『今度はどうした』
若干のイラつきが混じった返答。本人は気にしていない様子だが。
「はい! 魔王様から言伝です!『来ないなら、お前の昔のあんな写真やこんな写真を・・・・・・キャー!』と、言うことです!」
あんな写真やこんな写真ってなんだよ。あとキャーって、なんだよ。
今すぐ頭突きしに行きたいが、そうしては親父の思うつぼ。そこで俺は考える。
『こう伝えてくれ。「俺そろそろ魔王の城から離れてどっかの看板犬になるわー」ってな』
「はっ! 了解しました!」
そしてまた去っていく兵士。
そろそろ鬱陶しいんだよな・・・・・・。
なんて考えているうちに、城の門が開く。
・・・・・・なんか、さっきの兵士と違う。
二本の立派な角に、大きな体。そしてあの禍々しいオーラ・・・・・・。
「ケルベロース!」
魔王がこっちに向かって猛スピードで走ってくる。
正直に言う。生きてきた中で一番恐怖を覚えた。
あんなのに追われてみろ。ゾンビの大軍の一万倍は怖いわ。
まあ、もちろん我が身の防衛ぐらいはするがな。
俺は尻尾に魔力を集中させる。
そこで既に魔王は俺の体三つ分まで迫っている。
「ケルベ」
『消えろ』
「ブハァ!」
俺の無慈悲な一言で一瞬魔王の体が止まる。すると、まるで透明ななにかに薙ぎ払われたかのように、魔王が空中で吹っ飛ばされ、門の前まで戻される。
無論。俺の能力なのだがな。
俺の能力その二。“透明化”と、その三。“部位強化”である。
俺の能力は、この“巨大化”“透明化”“部位強化”の三つだ。
パッと見て、定番そうなもののオンパレードだが、これがまた便利なものなのだ。
さて、あの変人は無事かなっと。
「ケールーべーロースー」
少しの怒気を孕んだ声が、門の方を向いた俺の背後からかけられる。
『なんだよ。もう復活したのか』
それは、先程門の前まで吹っ飛ばした魔王だった。
「ねえ、俺の名前すごい不名誉な呼び方されてなかった?」
『気のせいだろ』
ココロアタリナンテナイヨ?
「そう言ってあれなんだろ? 『変人だとは思ってないけど変態だとは思った』みたいなそういうパターンなんだろ?」
『よくわかってるじゃないか』
「ひどい! しかもそれを本人に言わせるなんて!」
いや、自分で言ったんだろう。
というか、オンとオフの差が激しいな。なんだよ。幹部の前では『我は・・・・・・』とか言ってたのにさ。
『で、なんか用か』
「そうだよ! お前に用があるから呼んでるのにこないんだもん!」
昨日を思い出せ昨日を。あんなことあったら行きたくないわ。
『で、用は』
「モフモフさせてください」
『帰れ』
すかさず尻尾の一撃をはなつ。
が、魔王。これを跳んで回避。
「はっはー! 残念だったなケルベロス! 見えなくとも空気の流れでわかるわ! ふふふ・・・・・・流石だろう?」
そう言いながらどや顔で俺の前に降り立つ。
・・・・・・腹立つ。
「ブホァ!」
で、その顔面に無言の頭突きをおみまいするわけだ。
不意の一撃をうけた魔王は門まで逆戻り。
なんか兵士が慌てているが、まあ・・・・・・うん。俺は何も知らない。
「番犬様も大変だねぇ・・・・・・」
と、後ろからしわがれた声で話しかけてきたのは、何時ぞやの角の生えた婆さん。
『やあ婆さん。今日も重そうな荷物を持ってるね。大丈夫かい?』
「ほっほ・・・・・・。大丈夫じゃよぉ。これでも鬼族だからねぇ」
婆さんが自分の角を指さして言う。
「で? さっきのお方は魔王様かえ?」
『ん? ああ、そうだぞ。誤解はしてくれるなよ』
「ほっほっほ。仲が良くていいんじゃないかのう。わしも、もともと彼の幹部だったんじゃよ。たしか、四百年ぐらい前のことじゃったかのう・・・・・・」
・・・・・・元幹部だって?
しかも、俺の生まれる前じゃないか。
『・・・・・・それは驚いたな』
「ほっほ。じゃろう?」
婆さんが笑いかけてくる。
と、後ろに誰かの気配。
「ケルベロス。さっきのはかなり痛かったぞ・・・・・・っと。デイジーの婆さん。久しぶりだな」
「おや、久しぶりじゃの。マオちゃんも長く魔王やっとるのう」
「はっはっは! 勇者以外でくたばるつもりはないからな!」
魔王とデイジーと呼ばれた婆さんの笑い声が城の前に響く。
「ほっほ・・・・・・勇者なんて、もうここまでは来るまい」
「さあなぁ。それが、また人間どもの動きが出始めたって聞いたから、万が一も考えてだよ」
「万が一ねえ・・・・・・。そんなもん。ない方がいいんだけどねえ」
祈るかのように、デイジーが空を見上げる。
「そうだな・・・・・・」
そして、同じように魔王も空を見上げる。
ちなみに、会話を邪魔しないよう、俺はうとうとと眠りの体制に入っている。
それにしても、こんなところで会うなんて、偶然もあるもんだ。
「さて・・・・・・。もう少し喋っていたいところだけど。あいにく、玄孫にご飯を食べさせないといけないからねえ」
「そうかい。じゃあまた。元気でな」
「あんたもね・・・・・・っと、番犬様や」
呼ばれた俺は、座りなおしてデイジーに向きなおる。
『なんでしょうか?』
「敬語なんて使わんでもいいけどねえ。・・・・・・でのう? 折角じゃから、わしの力で助言を与えようと思うてのう」
『力?』
「うむ。わしはちょいと先の未来を見れるのじゃよ」
ふむ。なかなか便利な能力ではないか。というか、助言?
何のためだろうか・・・・・・。
そして、デイジーが近寄ってきて、耳元でこうささやく。
「”明後日。死に注意せよ”。とだけ言っとくわい。もしこれ以上口出しして、未来が悪い方に曲がっては困るからのう」
死に注意?
何のことだかさっぱりだ。
『いったいそれはどういうことなんだ?』
「ほっほ。とりあえず。明後日は気を付けろということじゃよ。誰にも言うでないぞ? じゃあの」
「おう。じゃあな」
『・・・・・・さようなら』
去っていくデイジー。
明後日は気を付ける・・・・・・。
「俺は聞えなかったが、いい助言はもらえたか?」
『いや、聞いたけども何のことかさっぱり・・・・・・』
「そうか。本人曰く。言いすぎると悪い方向に未来が捻じ曲がってしまうようでな。まあ、未来をみているわけだから。確実に当たるぞ」
確実に当たるねえ・・・・・・。
にわかには信じられないが。魔王がそう言うなら事実なのだろう。
『心の隅にでも置いておくよ』
”死に注意”。”明後日は気を付ける”。
なんだか、かなり不安になるが、これを知っているだけでも十分だろう。
「さて、ケルベロス」
『触るな』
「早いよ?!」
この魔王が言うことなど、たかが知れている。
「いや、たぶんお前の予想と違うことを言おうとしてるから、せめて最後まで」
『じゃあな。寝る』
「・・・・・・そろそろ悲しくなってくるからさ・・・・・・」
さすがに言い過ぎたか。
魔王がうつむく。
『で、なんだって?』
「うむ。それがな・・・・・・」
魔王が何かを言おうと口を開く。
「魔王様ーーーー!」
が、それは門から出てきた一人の執事のような男の声が遮る。
「なんですかー! この置手紙はー!」
遠目では確認できないが、何かを持って腕をブンブンと振っている。
「やべっ! あいつと話してたからもう見つかった! もう出発している予定なのに!」
『は? 出発?』
・・・・・・・あー。これはもしや。
「さあ! 久しぶりにピクニックに行くぞ!」
そう言うと、キラキラした目でこちらを見てくる。
はあ。どんだけ俺のことが好きなんだか。
『はあ。仕方がない。行ってやるよ』
「よし! じゃあ乗るからな!」
『は? ちょっと待って・・・・・・』
魔王の大きな体が俺の上に乗る。
瞬間。俺は足元から崩れ落ちた。
「ん? どうした?」
『どうしたじゃない! お前自分の体重考えやがれ!』
そう。普段は普通に過ごしているのは、靴についている”重力”の魔法で、地面への負担を軽減しているからにすぎない。
実際は、一歩ごとに地面を踏み砕いてしまう。そのぐらいの重さがあるのだ。
「ん? ああ! すまんすまん! まて、今軽くなるから!」
早くやってくれ。押しつぶされそうだ。
「”変化 軽量化”!」
そう唱えると、俺の上にあった魔王の体が軽くなる。
気のせいか、座っている体の形が変わっているような・・・・・・。
ちらりと魔王の方を見やる。
すると、かわいらしい男の子がちょこんと、俺の広い背にちょこんと座っている。
「さあ! 行くぞー!」
声も子供のように高い。
なんというか・・・・・・すごい驚いている。
『・・・・・・何それ?』
「ん? なんか、俺が使うと副作用かこうなってしまうのだ! これもこれでいいだろう?」
お姉さん受けは良さそうだな。
「まおーさまー!」
と、先ほどの執事がこちらへ駆けてくるのが見える。
「ほら! じいが来ちゃったから! 早く早く!」
『お、おう・・・・・・』
せわされるがままに駆け出す俺。
いろいろと頭がついてかないが、とりあえずは。
ピクニックを楽しむとしよう。
最後までお読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか?
この親父・・・・・・やりよる(何が)。