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七十三話 番犬。絶死海を探索する

『なあ親父。この辺りにも何か住んでいるのか?』

「そうだな……。まあ、ほんのすこしだがいるぞ。海からやってくる怪物どもを倒すような強種族が」


 なんだ海からやってくる怪物って。そんな危なっかしいところなのかここは。

 俺は木々の隙間からチラリと海の方を見る。

 ……あ、なるほど。あのでかい背びれ。ありゃバケモンだわ。

 俺達は今。海岸から一度離れて、草木の茂っているところを歩いていた。


『……絶死海なのに、海以外も危険なのか……』

「そうだ。下手したら、砂浜の下から魔食い貝にパクリだ」


 恐ろしいな本当に。そんなことで絶命とか絶対に嫌だぞ。そしてもう帰りたくなってきた。

 まあ、仮にも魔王である親父がいるし、大丈夫か……。


「と、話しているうちに、ほれケルベロス。あれを見ろ」

『……民家?』

「ああ。あれがこの絶死海にいる唯一の人型。|砂人《砂人(サンドマン)》だ」


 砂人(サンドマン)……。


砂人(サンドマン)ってこんなところにいるんだな』

「ああ。絶死海の砂浜に生まれ、サンドの領地を渡って来たのが今よく見る砂人(サンドマン)だ。だから、こっちはいわゆる祖先みたいなもんだ」


 魔王がそう説明しながら草地を出て砂浜を歩く。俺もそれに続いて恐る恐る砂浜に足をつく。


『祖先、ねぇ』


 つまり、アレッタの祖先。サンドの祖先もここで生まれたわけだ。

 ふと、何か作業をしていた砂人(サンドマン)が魔王の姿に気づく。


「おお! 魔王様。これはどうも!」

「よう村長。何十年ぶりか」

「ええ、そうでございますね。お元気でしたか?」

「ああ。元気だよ」


 どうやら、あの魔王はこの村の村長と知り合いのようだ。俺は魔王のそばを離れて村の中を歩く。

 この村の家屋は藁と細い木々で立てられている。それにしては丈夫な作りであるが……よく見ると、接合部に固められた砂が見えた。


「…………ねぇ」


 ふと、誰かが俺に声をかけた。俺は首だけでその声の主を探す。

 そこには、真っ白で可愛らしい砂人(サンドマン)の姿があった。


『なんだ?』

「あなた、何?」

『何って……犬だ』

「体、触っていい?」

『もちろん』


 そう言うと、少女が恐る恐るといった様子で俺の体を撫で始める。俺が動く度にビクリとしているが、なんだ、こっちの方にはこんなもふもふの生物はいないのだろう。


「……気持ちいい」

『どうも』


 なんだか最近、体を触られて「気持ちいい」と言って貰えることが一番の賞賛に変わりつつある。そろそろ末期かな。

 ま、しばらくここにいるか……。


 ーー ーー ーー ーー ーー

「ケルベロスー。そろそろ行く……」

『……助けてくれ』


 俺は切実にそう魔王に言う。

 率直に言おう。ここの砂人(サンドマン)は、なんと体自体も砂でできていた。アレッタとは違ってな。……それが何を意味するか。

 体が砂まみれになったわけだ。


「……ま、まあなんだ。お気の毒に……」

『魔法でどうにかしてくれよ……』

「いや、ここで派手に魔法を使うと、それに気づいた魔物どもが来るからな。我慢してくれ」


 なんだと……?! じゃあ、こっちにテレポートしてきた時はなんだったんだ……。

 だが、そういうことならば仕方がない。俺だって戦いたくはない。


「じゃ、ちょっと良い丘を知ってるからそこにでも行って飯にするか」

『……口に砂ついてるんだが』

「着いたら洗ってやるよ。ほれ、行くぞ」


 まあ、それならば……。

 と、こっちをじっと見ている先ほどの少女と目が合った。


『じゃあな』

「うん。ありがと」


 その後ろにいる、さっき俺の口の方を重点的にもふってきた何人かの砂人(サンドマン)にも熱い視線を送っておいて、俺は魔王の後ろについていく。

 強種族と言っていたが、一体彼らにはどんな力があるのだろうか。気になるが、お目にはかからない方がいいな。


「お、ケルベロス。この辺りなら水に入れそうだ。ちょっとこの水舐めてみろよ」

『騙されるか。知ってるぞ? 海ってのはしょっぱいもんだってな』

「まあまあ。騙されたと思って」


 楽しそうだが……ニヤニヤとこっちを見る魔王の目が、完全にイタズラをする悪ガキと同じだからきっと何かあるんだろう。さっきの砂人(サンドマン)と同じ目だ。

 だが、少し興味があったので、海に近づく魔王の隣に駆け寄る。そして、青い水に口をつけーー


『うっ、お、がふっ! なんだこれ!? 毒入りか?!』

「バカ言うな。そんなもん入ってないぞ。これが絶死海。超絶しょっぱい海だ」


 なるほど、これが絶死海のノーマルか。

 いや、しょっぱすぎるだろ。下がヒリヒリするぐらいだし、これ体なんて付けれるもんじゃない。大森林戦の傷に染みたら終わる。


『うう、気分悪い……さ、さっさと行こう』

「……いや、行きたいのも山々なんだが」


 魔王が深くため息を吐いて、海の沖を指さす。


「もう一人、客だ」


 俺はその指を追って海を見てーー驚く。


 人魚だ。


「ふんふんふ〜ん♪」


 長いマリンブルーの髪が背中にくっつき、その後ろ姿は幻想的でーー


 その人魚が、凄い勢いで水の中に潜った。


『な、なんだあれ?』

「しっ! ちょっと見てろ」


 言われたとおり俺は静かに待つ。すると、人魚の影と何か歌が聞こえてくる。


「白き砂浜うつ青波〜♪ それアクア〜の元にあり〜♪ ならば〜魔王に託されたこの命を〜♪」


 それは、人魚にしてはやけに低い声。


「達成する〜が我が務めぇぇ!」


 どっぱああああん!


 目の前で大きな水柱が登る。そこから現れたのはーー


「あたし、マリン♪」

「紹介しよう」


 それは、一人称と容姿と性別がどうしても一致しない。


「魔王軍幹部最強。絶死海の監視をしてもらってるマリンだ」

「ど〜も♪ あたしマリン。よろしくねぇん」


 どうみても、オカマであった。

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