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後編

 カミラが幹部になってから百年。


「いたぞ! 魔王だ!」

「よし! じゃあ作戦通り囲んでーー」

「《滅》」

「うっーー」

「おい! おまーー」


 二人の人間が魔王の呪文により消滅する。

 あれから、魔族と人間の戦いはさらに激化していた。今ここはホウプ大陸に最も近い《永炎》。

 無論。そんな場所に人間など存在できるわけが無いのに……。


「おらぁ! 行くぞぉ!」

「強化魔法使いか。面倒だな」


 倒せども倒せども、敵の波は止まない。

 どうやら、相手になかなかの強化魔法の使い手がいるらしい。いや、違う。腕がいいのではない。


「クソ女神が……っ!」


 それは、女神からの贈り物(チート)を貰った異界人の仕業。憎むべき女神には、魔王とてさすがに手は出せない。

 だが、腕のいい強化魔法使いならこっちにもいるのだ。


『魔王様! 一部隊を送らせていただきました!』

「ありがとう。カミラ」


 そう、カミラの力は実に素晴らしいものであった。

 今現在で同時に魔法をかけている人数は実に七百人を超えたが、ムラもなく適した強化をしてくれている。


「ーーおう! 魔王! そっちは片付いたんかい!」

「ファイア。そりゃあ、俺が負けるわけないだろ?」

「せやな!」


 ふと、この永炎の支配者であるファイアが、体を揺らめかせながら現れた。しかしその火力はいつもと比べても高いのか、全身が青い。


「まったく! なかなか歯ごたえはあるが、楽しかないなぁ!」

「おいおい。そんなこと言ってるとーー」


 ビュンッ!


 目の前を、太さ二十センチほどの氷柱が通り過ぎて行った。


「ちっ! 外した!」

「来るぞ、中ボス級が!」

「大ボスに勝てるわけないやろ!」


 ーー ーー ーー ーー ーー

「ーーおかしい」


 先程の氷使いを倒して、魔王はふと呟く。


「おかしいって、何がや?」

「いや、敵の強さだ。ーーゴリ押しするならば、ここで押し込むために大量に投下すればいいものを……。ーーまさか!」


 魔王は急いで魔法、《千里眼》を発動させ、魔界中を見渡す。すると、その予感は的中した。


「大森林……!」

『魔王様!』


 魔王が大森林への進軍を確認すると共に、カミラの声が脳内で響いた。


『私は大森林へ向かいます!』

「ああ。俺も向かう! ーーくそっ! 想像以上にまずいぞ」


 何がまずいのか。愚問だが、それは魔王自身の危険があることではない。


 この魔界の住民に、土地に、どれほどの被害が出るかが想像出来ないからだ。


「これが、デイジーの言ってた地獄か……!」


 悪態を吐いて、魔王はカミラの元へワープする。


「カミラ! ショートカットだ!」

「ありがとうございます!」


 カミラが魔王の手を握る。

 それを確認して、魔王はまたワープをする。そこは、進行中で戦闘が行われている大森林のど真ん中。


「マオちゃん!」


 唯一幹部の中でも大森林の魔力の吸収の影響が少なく、大森林を守っていたデイジーが魔王に気づく。


「デイジー! 戦況は!」

「頭を使ってきたわい。大森林中のどこにでも潜んどって、わしには数え切れん!」


 これは……なるほど厄介なわけだ。

 もしこのまま魔界の数少ない安全地帯である魔王城まで行かれたら……。


「リーフ!」

「ーー呼んだか」


 魔王が一体の凶王を呼ぶと、地中から人型の根が顔を出した。


「ここの木を上半分切らせてくれ!」

「我も我が領地を蹂躙されるのは不快だからな。今回だけ許そう」

「感謝する! カミラ! 強化を三分の一!」

「はい!」


 カミラの手から魔力が流れ込んでくる。それは、みるみる魔王の体を強化しーー


「ーーはっ、あ、あっ!」


 それが終わる前に、異変は起こった。

 カミラが急に膝を追って地面に倒れ込む。


「カミラ?!」

「ほう。これは……相当な無理をしているな」

「さすがにあの量は負担が大きいか……」


 だが、今はカミラを看る前にひとつ。


「《伐》!」


 魔王が宙に浮いて、そこで右手を横に薙ぎ払う。瞬間。森の大木達が一斉にして空を舞いーー


「《停》!」


 それが、全て空中で停止した。

 それを確認して、魔王はカミラの元に。


「カミラ……! 仕方がない」


 魔王はテレパシーを魔王軍の全兵に繋げる。


『皆の者! 戦闘をしている人はすぐにテレポートをして逃げろ! 今からカミラの強化を全て解除する! そして、それぞれ第一から三部隊は、早急に大森林へ!』


 そう伝えて、しばらくしてから魔王は唱える。


「《解》!」


 唱えると、魔王の中からも何かが消えていく感覚が。

 そう、カミラの能力の詳細に、魔王は薄々気づいていたのだ。カミラのこれは、魔力を送り続けて相手を強化するのではなく――自分の魔力を相手の中にとどめて相手を強化する能力なのだと。

 魔力を送り続ける場合、カミラの魔力が無くなった瞬間全ての強化が途切れる。だからこそ幹部とて七十人までしか同時に強化できない。だが、魔力をとどめるだけならば?

 無数の対象を永遠と強化できるのだ。

 だが、今回はそれが裏目に出た。


「う、うぅ……」

「カミラ。今は休んでいろ」

「ま、魔王、様……」


 急な魔力の消失と、回復とで顔色を悪くしたカミラに、魔王はそう告げた。

 そして、魔王は眼前――立ちはだかる何十、何百もの人間の部隊の方を向く。


「てめえが魔王か」


 ふと、リーダー格のような男が前に歩み出てそう尋ねてきた。


「ああ。お前がそっちのリーダーか?」

「そんなとこだよ。……じゃ、いきなりはじめてもいいか?」

「答えを聞く気もないくせによく言いよる」

「あ、バレてた?」


 そう男が笑うと同時。巨大な、それこそ大陸一つを壊しかねないような膨大な魔力の塊が男の頭上に現れる。いや、それは一人だけではない。そのサイズが――少なく見積もっても七発。


「じゃ、遠慮無く。全弾、放てぇ!」


 襲い来る巨大な魔力の塊。それらが、魔王を、魔族を、この大陸すらも破壊しようと迫る。

 だが間違いなくそこには、魔族への侮蔑と、怨念と、嫉妬と、嘲笑が含まれ――


「俺は不愉快だ」


 ――時が、止まった。


 否、実際にはそう錯覚させられたのだ。その圧倒的なまでの威圧感と――あふれ出る怒りと殺意によって。

 魔王が、大地を踏み砕きながら男の方へ向かって行く。


「なぜ、何もしていないのにここまでのことをする?」


 魔王が、一つの弾を――握りつぶした。

 刹那。とてつもない爆風を伴って魔力が消滅する。


「なぜ、いらぬ恨みを買われる?」


 魔王が、次の弾を手で弄ぶ。


「なぜ、魔族と人間はわかり合えぬと決められた?」


 その弾を、次の弾にぶつける。二つ分の爆風が全てをなぎ払わんと襲いかかり、数十人の人間が吹き飛ばされる。


「そしてなぜ――女神は、我らを滅ぼさんとするのだろうか?」


 何個もの塊を、今度は魔王が手の中でねじ曲げて、合成して、そして神をも滅ぼさんとするほどの凶悪な力を生み出す。

 凶王リーフですら武者震いの止まらないそれを――


「答えろ! 神よおおおおぉぉぉぉ!」


 天高く、打ち上げた。

 それは、どこまでもどこまでも高く高く昇っていき――そして、見えなくなる。

 それを眺める魔族も、人間もまるで阿呆のように口をぽかんと開けている。


「さて」


 刹那。時が動き始める。

 すると、あれほどまで威勢よくやってきた人間達がわなわなと震え、ざわざわと話はじめる。


「お、おい」

「嘘だろ……」

「この星割れるぐらいのだぞ……?」

「ありえねぇ」


「か、勝てる気がしねぇ……」


「お、俺は逃げるぞ!」

「俺もだ!」


 そして、次次と魔王たちに背を向けて逃げ出す人間達。


「なんだ、チートとは言ってもこんなものか」


 そのあまりの見苦しさ、醜さに魔王は落胆する。

 まさか、ここまであっけなく終わってしまうとは……。


「魔王様!」


 背後で、そう叫ぶ声がする。

 振り返ると、そこには――


「永炎、零雪原、無の砂漠にて、凶王の猛攻にて全人間軍全滅! 全部隊集結いたしました!」


 無数の魔族達。


「魔王様」


 そして、また声が掛けられる。


「魔王軍幹部カミラ。復活いたしました。――さすがですね」


 そう笑うカミラに、魔王は尋ねる。


「カミラよ」

「なんですか?」

「弱い者いじめは嫌いか?」

「はい。嫌いです。私たち妖精は“弱い者”ですもの」

「そうか。じゃあ――」


 魔王が、不適に笑う。


「弱い者いじめをしたやつらにはそれ相応の罰を下さねえとなぁ」


 魔王の目がもうスピードで逃げていく人間達に向けられる。


「これより! 人間軍の殲滅を開始する! ――やられたらやり返す! それこそが俺たちのもっとー!」


 大きな完成が巻き起こる。


「――俺たちに手を出したことを後悔させてやる。総員! 突撃ぃ!」


 かくして、魔王軍と人間軍の最後の戦いが始まった。

 それは、魔王軍の一方的な攻撃だったらしい。そして、最後の一人にとどめをさしたころ。


「魔王様……」

「ああ、カミラ。見えてるよ」


 ――三大神獣が、ホウプ大陸とロスト大陸の間に佇んでいた。

 空を支配するは神龍、海を支配するは海蛇、大地を支配するは地亀。その三体が――ホウプ大陸を、動かしていた。


 かくして、人間と魔族の戦いは終わった。


「終わりましたのね」

「だな。カミラ」


 夕日と神獣のきらめきが、薄暗い大地を照らす。

 魔王とカミラは、妖精の村に来ていた。


「……カミラよ。伝えたいことがあってな」

「なんでしょうか?」

「俺、一目お前を見たときから、惚れてしまったのだ」

「あら、そうなんですね。……ふふふ」

「おい、笑われるとどんな反応をしていいかわからなくなるだろう」

「いえ、だってあまりにも唐突なのですもの。――不器用ですね」

「……否定はしない」


 そう言って赤らめた顔を隠すようにそっぽを向く魔王の頬に、柔らかい感触。

 驚いて横をむくと、またいつものーーいや、少し頬を紅潮させたカミラが微笑む。


「私も不器用なんです。ーー今度、どこかに連れて行ってくださいません?」

「ーーああ。もちろんだとも。なんなら、零雪原にいい洞窟があってだな……」


 これが、魔王の物語。

 そして、ここからが魔王とカミラの物語である。

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