七十話 魔王軍幹部パリス
パリス「やあ。今日はボクさ。今回はボクの回だね。よかった最後まで見ていってくれ」
「……やめる?」
俺はパリスに聞き返す。
今、幹部を辞めると言っていたのか?
「ああ。そうさ、ボクは幹部を辞めるよ」
だが、聞き間違えじゃなかったらしい。
重い空気が立ち込める。
「……なぜ?」
「ま、理由としてはね、ボクの力はもう幹部にはいらないと感じたからさ」
「そんなことはないじゃないか」
最近だって、パリスの研究がどれほどの人々を救ってきたことか。だというのに、もう自分の力はいらないと。
「そんなことは」
「老いって、悲しいものだよね」
ふと、パリスがそう話を始める。
「ボクの種族はインプっていうんだ」
「インプ?! 嘘をつけ、インプでそんな力を持ったやつなど……」
「いるじゃないか。ここに、突然変異した個体が」
……馬鹿な。インプだと? この魔王軍の幹部であり、闇属性を巧みにに操り、一時期幹部トップとも謳われたパリスが?
ありえない。そもそもインプは最下級悪魔。……人型をしているわけが。
「……君が産まれる前にさ、ボクは造られたんだ」
パリスがたんたんと語り始める。
「ボクの親は、歴史上でも稀に見る天才でね。魔王様には仕えてなかったけど、それでも素晴らしい腕の持ち主だった。……そんな方が、自分の生命力を全てつぎ込んで生み出したのがボクさ」
信じられない話だ。パリスが造られたものだと?
「その方は、ボクを後継者にした。あの屋敷、あるだろう? あれがボクの親の家さ。……地下室だってあるんだよ?」
パリスが微笑みを浮かべる。
「でも……。元はインプだからね。寿命は短いよ。長くてあと五十年ぐらいかな?」
「……見た目には変化がないんだな」
「そうだね。ボクは生まれた時からこの容姿さ」
パリスが寂しそうに顔を俯かせる。
造られたといい、インプだといい、生まれた時のまま、存在し続けるパリス。
……理解が追いつかない。
「もう、強力な魔法も練れなくなってきた。……そろそろ辞めどきかなって、今日のリーフ戦でもしみじみと感じたよ。ーー全盛期なら、圧勝できたはずなのになぁ」
「……そうか」
それだけしか言えない。
いつも楽しそうに実験実験と迫ってきたあのパリスが、俺にこんな薬をくれたパリスが、何気に世話になった魔女が、こんな独白をするなんて。
「……ほんとにロリババアになったわけか」
「それはわざとかい? ロリババアでも本気をだせば君に地獄を見せることだってできるんだよ?」
おっと、冗談で言っただけなのにかなり怖い雰囲気になってしまった。
「はぁ。まったく。いくらシリアスがあれだからって、強引だねぇ」
「あんまりよろしくないんでな。ま、驚いたが、軽く行こう」
「……人の気持ちも考えないで」
「考えてこの行動なんだがな」
その言葉に、パリスが少し驚いた表情をして、すぐにそれを微笑みにもどす。
「……はは。ほんとに、癒しのケルベロス様って言われるぐらいはあるのかな?」
「さあな。まあ今はもふもふ無いし」
「そうかい。じゃあーー」
パリスが俺に向けて腕を広げる。
「たまには、もふらせてくれないかい?」
「……たまにはって、お前がいつも言わないだけだろ」
「あれ? そうだっけ?」
「そうだよ」
まったく……。だが、まあそこでもふらせてやらないほど俺も鬼ではない。
俺は衣服を脱いで、人化を解く。
懐かしきあの黒い毛並み。もふもふの俺が帰ってきた。
『いいぞ』
そう言って、首元を見せるとーー
「ありがと。じゃ、お言葉に甘えて、ね」
もふっと、そこにパリスが飛び込んできた。そして、俺の毛並みをわしゃわしゃとしてーー
「あー! もうほんとに老いってなんなのさ! もっと生きたいのに! やりたい実験もあるのに! 本当に憎たらしいよ! まったく!」
パリスが、俺の毛並みの中で叫んだ。
パリス「最後まで読んでくれてありがとう。どうだっかい? そういえば、番犬祭をやるみたいだね。今回は魔王様のお話らしいけど、ボクの話もいつかやるみたいさ。ま、次回もよろしくね」




