六十八話 決着
ウィン「こんにちはっ! 乗っ取られてるけどこっちは来ますよ! よかったら見ていってくださいねっ!」
「……着いた、ね」
パリスが荒い息を吐きながら呟く。
そこは、突如出現した山の真ん前。そこにはぽっかりと大きな洞窟が口を開けていた。
俺とアイーダは無意識に唾を飲み込む。
「……まったく。老いっていうのはどうしてこうも忌々しいのか……」
「どうした? パリス」
「……いや、独り言さ。さあ、進もう」
どうも無理をしている気がするが……パリス本人がそう言うのならば、仕方あるまい。
俺達はアイーダの生み出した光源を頼りに洞窟の中を進む。洞窟だと言うのに、どうも上へ向かっている気がする。
「中は安全ね」
「ああ。そうみたいだな」
妙に広くて長い上への洞窟。魔物はいないから戦闘の必要は無いが、確かなことがある。
この先に、五大凶王、リーフがいる、という確信。
その緊張が、重くのしかかる。
「……出口だ」
パリスがそう呟くので、俺達も視線を上に向ける。すると、確かに明るい光が。
「じゃ、急ぐか」
それに二人が無言で頷き、俺達は歩調を早める。
どうか、無事でいてくれますように……。
暗闇が、晴れるーー
洞窟の先は、穏やかな空間であった。
火山の噴火口のようにくぼんだ広い空間は、上を向けば高くまで岩壁が伸び、だが足元は色とりどりの草花で飾られている。
そして、目的の人物もそこに。
「……ウィン。無事か?」
俺はただ呆然と立っているウィンに向け、声をかける。だが、それが無駄なことを悟った。
ウィンの雰囲気ではない。
「……何千年と、待った」
ウィンの口が重く開かれ、そして口調も異常。
俺達は無意識に身構える。
「何千年、と、な」
にやり、と横顔から口元が覗く。瞬間。
「ーーなっ!」
アイーダがその光景に顔を青ざめさせる。
ウィン……ではない何かが足踏みをしたその時、足元の草花が茶色に変わったのだ。
全てを枯らす歩み。ーー俺にとっては何度目かの死の恐怖。
「……やるしかないのか?」
「ああ。やるしかない。魔物ども、我はーー」
そこで間をとって、告げる。
「我は五大凶王が一人、リーフなるぞ」
ばっとリーフの右腕が伸ばされる。
「《ユグドラシル》」
右腕が木の幹へと変化しーーそこから、無数の枝が突き出してくる。
これはーーまずい。
俺は即時に足に強化をかけ、真上に跳ぶ。
あれはまずい。命中したら、体の貫通は免れないだろう。しかしこれはーー判断をミスったな。
「ううむ。慣れぬな。しかし」
リーフの視線が俺に向けられる。
「宙じゃ逃れられまい」
ギュンと方向を変えて枝が俺に迫る。
くそっ。失敗した。
俺はダメもとで両腕に強化をかけ、体を守る。
枝が俺の腕に接近しーー
「させないっ!」
その枝が、瞬きとともに消滅した。否、枯れた。
リーフが自分の魔法を無力化した本人を睨む。
「……小娘、やるな」
「敵からの賞賛なんて嬉しくないわ」
ばっと地面に手をついて、アイーダが魔力を流し込む。
「《変化液状化》!」
そう唱えた瞬間、パリスが宙に飛ぶ。
だが、リーフは反応が遅れた。枯れた茶色の地面が――水に変わる。
「……ふむ。なるほどな。物質を変化させる能力、か」
「ーーご名答! ならさっさと脱出することね!」
自身も水に浸かりながら、リーフにそう挑発をかける。
そして、手を水の中に突っ込んだ。
「《変化氷結》!」
水が――リーフとアイーダを閉じ込めたまま、凍り付く。
「……ほう。だが小娘。それでは自分も動けないではないか」
リーフがそう不適に笑い、右腕を伸ばす。そこから、鋭利な枝が飛び出す。
それがアイーダに向かって行き――
「手を出すんじゃねえよ」
それを、真上から俺が踏みつける。
強化した俺の足は、枝を氷の中へと埋める。それをさらにアイーダが能力でからからに枯らす。
「ふん。だが、その程度では我は倒せぬぞ?」
「ああ、知っている」
俺は確かにそう言い切る。
間違いなく、俺たちではリーフに勝つことはできない。ウィンの扱いに慣れていないのか、まだ不完全な実力のリーフですらこれだ。
だからこそ。
「こうやって、気をひいてるんだがな」
その言葉に、はっとリーフが視線を上に向ける。
「気づくのが遅いね」
視線の先には――汗をかきながらも、余裕の笑みを浮かべ右腕を掲げるパリス。その右腕の先には――何分もかけて練り上げた黒い球。俺たちの、切り札。
「くらいな。《精神分離」
「やめっ――!」
リーフが、ウィンの体とともに黒い球の中にのまれていった。
ウィン「最後までお読みいただきありがとうございますっ! どうでした? これ、もうバトルものですね! なんですかほのぼのって! 完全に詐欺よ! 次回もよろしくねっ!」




