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六十七話 番犬。みんなの力を目の当たりにする

パリス「やあ、今日は僕さ。よければ最後まで見ていってくれ」

 俺たちは魔王と凶王の切り開いた道を走る。

 二人の力で雑魚は殲滅できたが、さすがは凶王の領地と言ったところか。生き残りがいるようだ。

 それも、かなり厄介な。


「うっわ! ジェルワームだ!」


 マトイの視線の先の凍った地表から現れたのは、ジェルワームという毒でできたミミズだ。体はスライムに近いが、そのジェルは確かな毒性を持っている。


「私に任せろ!」


 そう意気込んで飛び出したのは、氷を操る魔王軍が幹部。氷結のシクル。

 その両手に魔力を宿し――


「《アイス・ビーム》!」


 水色の細い光線を発射する。

 それがジェルワームのど真ん中に命中し、みるみると凍らせていくではないか。


「相性がいいわけだ」

「そうだな。ジェルワームならば任せてくれ!」


 なるほど。ジェルワームは任せればいいと。


「じゃ、シクル」


 珍しく汗なんかをかいているパリスが苦笑いで指を指して言う。


「あっちの全部よろしくね」

「全部?」


 シクルに釣られて俺もそっちに視線を動かす。

 そこには、二メートルを超えるジェルワームの大群がこちらに向かってきていた。

 うわぁ。正直に言おう。すごい気持ち悪い。半透明の筒型の生物がにゅるにゅる移動しているわけだからな。

 それを見て、シクルも少し表情を硬くし、隣に声をかける。


「あ、アイス様」

「なんじゃ?」

「ちょ、ちょっと手伝ってくれませんか……?」

「うむ。貴様のためならばいくらでも手を貸してやろう」

「ありがとうございます!」


 そんなような会話をして、頼もしく二人はジェルワームの大群へと飛び出していった。

 凶王と幹部……なかなか感慨深いものがあるな。アイスは弱ったシクルを乗っ取らなければいいが。


「……っ! 本当に休ませてくれないね」


 今度はなんだ?

 俺は悪態をつくパリスの視線を追う。


「……本当だな」


 そこには、以前にパリスが初めての調査で被害を受けたという、鎧大蟷螂おおかまきりのこれまた大群が空を我が物顔で飛翔していた。

 この鎧大蟷螂は本当に厄介なもので、並みの魔法じゃ傷一つ付けられない。

 そう、並みの魔法ならば。


「《ファイア・ソード》行くっすよファイア! シクルばっかに手柄をとられるわけにゃいかないっすから!」

「おう! お前さんら! ここはわいらに任せとき!」


 グレンが煉獄の炎で作りだした炎を両手に掲げ、ファイアはいつもの口調で軽い歩調でファイアとともに俺たちの列を離れていく。

 そして、グレンが足に魔力を込める。


「バーストォ! からのぉ……」


 足から吹き出す炎の渦。それで空中に飛び出したかと思えば、炎の剣を高く掲げ――


「両っ断!」


 鉄よりも硬いの装甲を持つ鎧大蟷螂を一刀両断。いや、二刀両断した。

 バラバラと降ってくる残骸。その隙間をぬって、どう飛翔したのかファイア。


「ぶんぶん五月蠅いなあわれぇ!」


 右手から、黒い炎をまき散らす。それにのまれた蟷螂たちの姿が見えなくなり、炎が晴れたかと思えば――


 黒い灰が、風に吹かれて消えていった。


「おっそろしいなあの凶王!」

「同感だぞマトイ。あれが凶王たる所以ってやつだな」


 今まではただのゲーム好きな変わったやつかと思っていたが……やはり、凶王と呼ばれるだけの実力はあるようだ。いや、あって当然だが。


「マトイ様」

「なんだ? リン」

「本当に私は必要でございましたでしょうか……?」

「そ、そんな深刻な表情で聞くなよな。……ほら、そう言ってるから」


 なるほど。これがフラグ回収というやつか。


「ウォールフオルンの大群か」

「よくもまあこんなやつらが生き残ったもんだ!」

「見た感じ、仲間とともに体を守ったんじゃないか? じゃないとさすがに無傷は無理だろう」


 鎧大蟷螂は空を飛んでいたから無事で、ジェルワームは地中に隠れていたから無事だったわけで、普通あの攻撃を前に生きている生物は存在しないだろう。


「じゃ、リン」

「わかりました。唯一の見せ場ですね」

「唯一とか言うなよな」


 ぐっとマトイとリンが足に力を込める。

 その殺気。ただならぬもので。


「参ります」

「よっしゃぁ行くぜ!」


 リンは黒い鱗に覆われた拳を握り、マトイは前回の反省からかメリケンサックを握って飛び出す。

 そして――あとは単純だ。


「おらぁ!」

「脆い」


 まるで、布きれを破るかのごとく、頑強な体を持ったウォールフオルンが、粉砕、粉砕、粉砕。木くずへと姿を変えていく。


「ほんと、頼りになるね」

「そうね」


 パリスとアイーダが顔を見合わせてそう言う。

 確かに、あいつはほとんど何もしてこなかったからな。ここまで楽しそうに戦っているのは初めて見る。


「ま、僕たちもうかうかしてられないね」


 突如パリスが立ち止まり、俺とアイーダは急ブレーキをかけて停止する。


「シールド」

「パリス? どうし――」


 ダダダダダダダダダダダダダダダダ!


 パリスに問いかけようとした俺の言葉が、シールドを打ち付ける何かの音でかき消される。

 これは……。


「バレットダンゴムシか……!」

「危なかったね。もう少しで蜂の巣だったよ」


 轟音が鳴り止み、パリスがゆっくりとシールドを解く。


「さあ、先に進もう」 

パリス「最後まで読んでくれてありがとう。どうだったかい? それにしても、みんな本当に強いね。僕の力もいらないくらいじゃないか。……妬けるね、まったく。じゃ、次回もよろしくね」

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