六話 ”魔王”兼”親父”
ブックマークが初めてつきました!ありがとうございます!なんかやる気がでたんで今度連続投稿したいと思います!
さて、なぜ俺が呼ばれたのか。
今、俺は俗にいう”謁見の間”とやらで玉座に座る魔王。俺の”親父”のような存在である魔王と向かい合って座っていた。
赤紫の肌に漆黒の瞳。冠からのぞかせる二本の禍々しくも立派な赤黒い角も含め、玉座に佇む姿は正に”魔王”。魔の王そのものである。
ちなみに、俺がここに来た原因の一つであるシクルはまだ卒倒中だという。
はよ来い。空気がもたない。
魔王の従者も、物音ひとつ立てない。まるで、ここだけ音という概念を消し去ったような。そんな沈黙がずっと流れている。
しかし、その沈黙を破ったのは魔王であった。
「息子よーーーーーー!」
『来るな!』
「グハア!」
蜘蛛のような勢いで飛びついてきた魔王を頭で跳ね飛ばす。
だが、そこは腐っても鯛。否。腐っても魔王。空中で器用に体をよじると、元の玉座の位置へとストンと座る。
なんだあのどや顔。めちゃくちゃイラっとする顔なんだが。
「痛い! お父さん痛いよ!」
『来るな! 寄るな! 触るな!』
「ひどい!」
おどけたような態度で魔王がそう叫ぶ。
先ほどまでの禍々しさなどどこへ行ってしまったのか、今や完全に親バカの見本である。
「あーあ。昔はあんなにかわいかったのになー」
『昔とはなんだ昔とは。知ってるか? 過去は過去、今は今なんだぞ?』
「そんなに変わっちゃったらお父さん悲しい!」
悲劇のヒロインのように魔王が悲しむふりをする。
いや、そんなポーズでちらちらこっち見られても何も思わないし感じないよ?
『で、俺はなんで呼ばれたんだ』
「ん? ああ、俺がモフモフしたいからだ」
『帰るぞ』
「待って待って! せめて! せめて体を触らしてよ!」
そんな魔王の言葉には目もくれずすたすたと扉に歩いていく。
まったく、騒がしい父親を持ったものだ。
「くそう! こうなったら強硬手段だ!」
・・・・・・嫌な予感がする。
「本気飛びつきー!」
頭突きをかまそうと振り返るももう遅し。首元にはもう魔王がつかまっていた。
「はっはー! 残念だったな息子よ! わたしのステータスは越えられまい!」
なんて鬱陶しい親だ!
『く、くそっ! 離れろバカ親父!』
「はっ! 親父・・・・・・だと? もう一回」
『なんでそんなどうでもいいところに反応するんだよ! さっきからそう呼んでんだろうが!』
「嫌われても・・・・・・なお親父と呼んでくれるなんて・・・・・・!」
正直言って、このままこいつだけ毒の沼にぶち込んできてやりたい。
ブンブンと首を振り回すも、ガッチリ首に回した腕が離れない。
「あー・・・・・・。やっぱ布団なんかよりも本物だよなあ・・・・・・」
布団? 本物?
『・・・・・・おい。まさかマトイんとこの布団を使ってるわけじゃないだろうな』
「んー? 使ってるに決まってるじゃないかー」
『変態か! おい! 離れろって・・・・・・!』
とことん変態だなこの親父は!
ああ、母さんの苦労が目に浮かぶよ・・・・・・。
「はーなーれーなーいー」
まるで駄々っ子ではないか!
こうなったら致し方ない。こちらも強硬手段だ。
体の中の魔力に呼びかける。
そう。体を大きくすることでつかめなくする作戦だ。
『ほら、腕を首から外さないと痛い目にあうぞ?』
「どーぞー」
じわじわと体を大きくしていく。
「ん? なんかお前の体がだんだんでかく・・・・・・。痛い痛い! 腕もげる!」
じゃあさっさと離せよとはあえて言わずに無言で巨大化を続ける。
「待って! ごめん! 謝るから! 痛い痛い痛い痛い!」
『さっさと離せよ!』
「あ、そっか」
パッと魔王の腕が首から外れる。
いや、離すって言う手段がなかったのかよ。いよいよ変態まっしぐらじゃないか。
「ふー。久々にいい思いをした!」
『そうですかそうですか。はあ・・・・・・』
この短時間でどっと疲れてしまった。
そういや、なんでここに来たんだっけか・・・・・・。
『そうだ。シクルは大丈夫なのか?』
「む? ああ。全然大丈夫だぞ。ただの失禁だ。まったく。「シクルがしくったー!」とぼけてやろうと思ったところだったのにな」
『やめてやれ。あいつ本当にコミュ障になっちゃうから。そんでもって、最初の方は聞きたくなかったな』
「うむ。わたしも今のは配慮に欠けたな」
そんなんだから母さん以外の女ができなかったんだよと、さっきのストレスを込めて言ってやりたいところだが、めんどくさくなりそうなのでやめておこう。
「魔王様ー! シクル様がお戻りになられましたー!」
一人の兵が扉から入ってきてそう告げる。
「うむ。そうか。もう少し父子水入らずの時間を過ごしたかったのだがな」
『早く入れてくれ、俺の身がもたない』
これ以上親父といるなんてたまったもんじゃない。毛を何本かむしられる気配すら感じる。
「し、失礼・・・・・・します」
か弱い声で入って来たのは、明らかに顔色の悪い様子のシクル。
『シクル。お前大丈夫なのか?』
「ええケルベロス様。先ほど診てもらいましたけど、ストレスのせいだと・・・・・・」
まあそれ以外ないだろうけどな。
『ほら、俺の体触れ。それで落ち着け』
「ありがとうございます・・・・・・」
なんか、俺の体触って落ち着けとか自分でも何言ってるかわかんなくなってきたな。
というか魔王。羨ましそうにシクルを見るな。ちょっと怯えているだろうが。
「あ、あの。魔王様。さ、先ほどはとんだ醜態を晒してしまいまして申し訳ございません・・・・・・」
「うむ。何も謝ることではない。むしろ、こうしてわたしの前にまた来てくれただけでもありがたいぞ」
それを聞いたシクルの力が、安心して抜けるのが体に触れているのが手ごしに伝わってくる。
「では、報告を述べよ」
「はっ。まずはここ十年間の間に侵食が始まった雪原の様子ですが、大地の魔力の流れ。雪も全てが自然によるものだということがわかりましたが、侵食については何も得られませんでした」
そこでチラッと魔王の顔を窺う。
「続けよ」
「はっ。雪原の調査中に突如現れた山についてですが、こちらに関しましては現在調査が進行中でありまして、今回はその報告に参りました。以上です」
「ふむ。そうか・・・・・・。わかった。ありがとう。お疲れ様。シクル。ケルベロスよ。下がってよいぞ」
「はっ。それでは失礼します」
最後だけ魔王面しやがったなあの野郎。
・・・・・・まあいい。今日はもう疲れたし、帰るとしよう。
そして、俺らは扉へと向かっていった。
「はあ~。一時はどうなることかと・・・・・・」
城を出て、シクルが伸びをする。
『まったく。一人で行かせた途端にこれだからな。魔王の幹部とは言え、この先はコミュニケーション能力をちゃんと備えてもらわないと困るぞ?』
「う・・・・・・。まったくもってそのとうりだな。返す言葉もない・・・・・・。まあ。部下たちとともに励むよ」
そう言ってはにかむシクル。
『・・・・・・というか、もう普通に話せてるじゃないか』
「ん? あ、本当だな・・・・・・。まあ、慣れてしまったのだろう。これが初対面や久しぶりに会う人となると・・・・・・」
何を思い出したのか、シクルが苦い顔をする。
と、そう話しているうちにもう長い橋を渡り切り、俺の小屋の前まで来ていた。
『さて、俺は寝るよ。もう夕方だしな』
「む。ほんとではないか」
見れば、夕日の赤色に染まった空が見える。
「じゃあ、今更言うのもなんなのだが・・・・・・」
頬をポリポリとかき、もじもじしだすシクル。
「今日は、すごい助かった。ありがとうな」
夕日の逆光の中、その可憐な笑顔は、空よりも、輝いて見えた。
最後までお読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか? こんな感じでやっていこうと思っているので、失踪しないように見守っててもらえると嬉しいです。それでは。次回もよろしくお願いします。