六十三話 思った以上に
パリス「やあ、今日はボクさ。よかったら見ていってくれ」
「いやー。なかなかやるね。魔物って」
そう俺の前で笑うのは、白衣をボロボロにして帰ってきたパリス。その後ろには同じく髪の乱れたアイーダと、無表情の風ウィンが立っている。
「お前がそんなに喰らうなんて珍しいな」
「ちょっと油断したね。体は防御魔法で覆ってたから無傷だけど、まさか空を飛んでくるとは思わなかったよ。虫だから飛ぶのは当たり前だけど」
なるほど。安全だと思っていた空中にも敵がいたわけか。それにしても、一体どんな攻撃を受けたら服がここまで破けるのか……。
などと考えていると、パリスが話題を変える。
「そうだ。そっちはどうだったんだい?」
「ああ。それなりにまとめられたぞ」
俺はマトイと作ったレポートをパリスに渡す。
パリスは、それを見て、突然ふっと吹き出した。
「君たちはまともなレポート一つも書けやしないのかい?」
「だってよ、マトイ」
「いや半分はお前だからな?!」
む、言われてしまった。こいつになすりつけるつもりだったのに。
まあ、仕方がないだろう。何しろレポートなんて二人とも未経験なのだから、不器用なりに手探りで頑張って書いたのだ。褒めろ。
「……バレットダンゴムシ?」
「ああ、勝手に名前は付けさせて貰った」
「名前はケルだ」
「余計なことを言うんじゃない」
俺がネーミングセンスまったくないことに気づかれてしまうじゃ無いか。……え? もう番犬隊のところで気づいてる? ……勘弁してくれよ。
まあ、そんなことはいいとして、だ。
「わかりにくかったら直接聞いてくれ」
「……うん。わかったよ。まあいろいろ書いてくれてるみたいだし、またこれからも頼もうかな」
……これからもあるのか。
まあ、当たり前だよな。みんなで調査をしに来てるわけだから、一人だけわがままを言うわけにもいかないし、与えられた任務はきちんとこなすのが俺の義務だ。
「なあ、そっちはどうだったんだ?」
そう俺の隣のマトイが聞く。
それは確かに俺も気になっていた。だが、答えは一言。
「「「何も無し」」」
「「ですよね」」
見事にみんながそれぞれはもったな。
まあ探索一日目だ。そうトントン拍子で進められても困る。むしろ不安になってしまうからな。
「ま、マイペースに行こうか」
「そうね。いつも寝てるあんたが言うと説得力あるわ」
……アイーダにそう言われると単純に傷つくんだが……というかマトイ、笑ってんじゃねえよ。
まあ事実だけどな。だってやることないし。
「そういや、アイーダは薬草は?」
「まあ、ひとまずは空からの探索が終わるまではお預けね。何かあったかしら?」
「いや、あったら採っておくよ」
「じゃあお願いするわ」
実は、あの探索でも何個か気になる草は見つけていたのだ。それを採ってくるとしようか。……大半が色とか臭いがやばかったのは隠しておこう。
少し今の報告を各々が考えているなか、ウィンがパリスの白衣を引っ張った。
「どうしたんだい?」
「お風呂、入ってもいい?」
「もちろん。……そういえば、お風呂で思い出したんだけど」
ウィンが去って行くのを尻目に、パリスが俺たちに向き直る。
お風呂? それで何を思いだしたのか……。
「君たち、お風呂昨日入った?」
…………あー。
「忘れてたな」
「だな。聞こうにもお前らがどこの部屋かわかんなかったし」
「……入ってくるといい。あっちに曲がると、男子女子別々の露天風呂がある」
なんだ、そんなものがあったのか。というか、人間らしくなったと自分で言っておきながら、風呂に関してはすっかり忘れていたな。
じゃあ……。
「行くか、マトイ」
「だな。行こう」
「タオルとかはきっと常備してあるやつが置いてあるから、入ってきな」
俺とマトイは、露天風呂へと向かう。
その中で、俺はマトイに一つ尋ねる。
「露天風呂って気持ちいいか?」
「んー。俺もあんま入ったことねえしなぁ」
二人とも露天風呂も初体験であった。
パリス「最後まで読んでくれてありがとう。どうだったかな? まさか、巨大なカマキリに襲われることになるなんてね。ちょっと怖かったのは内緒さ。じゃ、よかったらブックマークとかもよろしくね」




