五十四話 番犬。遊びを教わる
ケルベロス「今日は俺だ。なんか、面白い遊びがあるらしいからな。任務を達成するためにもやらないといけない・・・・・・」
魔方陣の光が晴れ、それと同時に喉を焼くような暑さに襲われる。その証拠に、髪にまだ残っていた水滴が一瞬にして蒸発してしまった。
恐ろしいな永炎。
とりあえず俺はあの洞窟へと向かう。このコートがあってよかった。人化した途端、暑さをさらに感じるようになったから、無かったら今頃ミイラになってくたばっていたな。
「戻ったぞ」
「うい。じゃあ続きだ」
戻ったらすぐにルール説明。ポーンがこうでナイトがこうでビショップが・・・・・・。
「わかったか?」
「なんとなく」
とりあえずかなり奥の深い遊びであることと、とんでもなく難しいことがわかった。
「じゃ、試しに一戦やろうかい」
「ああ、よろしく」
「よろしくお願いします」
礼儀正しいファイアの挨拶で、俺の初めての遊び――チェスが始まった。
―― ―― ―― ―― ――
数十分後
「ん。チェック」
「・・・・・・キングを動かす」
「だーかーら。キングを動かすだけじゃダメやで? ほれ、キングをチェックしてるルーク、ビショップでとれるがな」
ああ。本当だ。
「じゃあそうする」
「よし。こういう使い方もあるでな」
さらに数十分後。
「・・・・・・難しいな」
「だろう? ほい。わいの勝ち」
またさらに数十分後。
「ルークでビショップをとる」
「あ! ちょいたんま! マジで?!」
「マジだ。というかたんまは無し」
「あああぁぁ! ミスったあああぁぁ!」
約一時間後。
「・・・・・・マジか・・・・・・」
「へっ。わいに勝とうとは片腹痛いわ!」
むぅ。惜しかったんだがなぁ。なかなかどうして勝てないのか。
「いやー! 楽しかったわい! ありがとうな!」
「俺も楽しかった。・・・・・・チェスってのは面白いな」
まだ五戦程しかしていないが、とても面白かった。こう、頭をフルに使う感覚がたまらない。
「ん。いい表情するな。どや? これが遊びってもんや!」
「一個学んだよ。なあ、他にもあるのか?」
その問いに、ファイアがニヤリと口角を上げる・・・・・・ような素振りをする。
「当たり前や! オセロにイゴ、ショウギなんかもあるで!」
なんだその聞いたことも無い単語のオンパレードは・・・・・・!
ちょっと・・・・・・いや、かなり興味がある。
「ぜひ教えてくれ、ファイア」
「おう! 当たり前や!」
ファイアが本当の笑顔を浮かべて、そう言い切った。
まあ、炎だから表情なんて見えないんだけどな。
ーー ーー ーー ーー ーー
「あ、終わったっすか?」
遊びも終わって片付けをしている俺たちに、グレンが声をかける。
「ああ。とりあえず今日はな。というか、お前空気だったぞ? もう少し存在感残しとかないと、覚えてもらえないぞ?」
「そんなにっすか?! というか、誰に覚えてもらえないんっすか・・・・・・」
さあ? 多分俺らのことをどっかから見てる誰かだよ。
と、まあ冗談は置いておいて、俺はふとあることに気づく。
「・・・・・・俺、何しにここに来たんだっけか?」
「わいの方見られても困るわ。・・・・・・なんか、わいと友達になるゆーてたやろ?」
そういえばそうだったな。それが、こんなに遊んで・・・・・・。
「ファイア」
「なんや?」
「これで俺は友達に相応しいか?」
その問いに、ファイアは「うーん」と声を出しながら、手を顎に当てて考え込む。
・・・・・・我ながら、おかしな質問をしているとは思う。が、これを確かめないことには報告しに行けないからな。
「ま、相応しいわな。ケルベロス」
・・・・・・ケルベロス?
「ようやく名前で呼んだな?」
「そりゃ、仲良くない下等生物なんぞ名詞で十分やろ?」
おお。なかなか厳しい考えを持っているな。
仲良くない下等生物・・・・・・か。ファイアの心情が見て取れる。
「ま、認められたなら嬉しいよ」
「けっ。ただ条件はあるぞ?」
「条件?」
オウム返して聞き返すと、ファイアは「せや」と言って続ける。
「そりゃ、友達ってのは何回も遊んでこその友達や! また来いよ!」
ああ。そういうことか。
そんなの。
「当然だろう? そんなこと」
「へっ。じゃあ待っとるからな」
そうして、俺は一度永炎を去る。
・・・・・・なんで去ったのかは、なんかそういう流れだったからだ。
だか、今回はかなり楽だった。サンドやアイスの時のように、誰かの安否を気にしなくてよかったからな。
さあ、じゃあ明日も来るとしよう。
ケルベロス「最後まで読んでくれてありがとう。どうだったか? ・・・・・・意外とはまってしまった。これは、どうしたもんかな・・・・・・」




