番犬。いざ鬼ノ子狩り
魔王「よう! 二本目は俺だ。良かったら最後まで見ていってくれよ!」
「鬼ノ子狩りじゃあああああ!」
そう意気揚々と叫ぶのは――魔王。
おい、一番偉い立場のやろうがなんで一般庶民以下の食いつきしてんだ。さすがの俺でも恥ずかしいわ。
「ふふふ。あなたったら、張り切っちゃって♪」
でもってなぜかその親父の横で微笑みを浮かべる母さん・・・・・・。いや、もうよくわからん。わからんけど仲が良さそうならいっか。
「まったく。あきれた親ね」
『本当だな。アイーダ』
魔王とカミラとの実の娘であるアイーダと苦笑いを交換し合っていると、今度は実際に鬼ノ子と戦っている大森林のど真ん中から声がした。
「強茸がでたぞおおお!」
「「うおおおおおお!」」
・・・・・・楽しそうなもんだな。まったく。
さっきからこっちには怪我人が続々と運び込まれているというのに。
「僕は毎回このためだけに呼ばれるのさ・・・・・・」
そう愚痴をこぼしながら薬を作り続けているのはパリス。
いつも自由なお前にも逆らえないものがあるのか・・・・・・。
『お前も大変だな』
「僕がいないとこのイベントやれないんだってさ。そんなイベントやらなくていいじゃないか・・・・・・」
本当にご不満なようだ。
今までに見たことのないオーラを発するパリスをあとにして、今度は比較的安全な地域へと行く。
「あ! ケルベロス!」
そう呼ばれ、俺はその方向を向く。
『おう。カイ達か』
そこには、サンドの時に遊んでやった子供たちの姿があった。
ゾンビのカイ。竜人のアラン。植人種のサリーに火竜のレン。それと・・・・・・。
「お、お久しぶりです!」
『久しぶりだな。アレッタ』
砂人のアレッタ。
なんだか妙に懐かしい。時々遊びに来てはくれてたらしいが、俺がしょっちゅうでかけてたからな。マトイんとこに。
『最近は何もないか?』
「はい。あれ以来、何も」
また何か急に引き寄せられたりはしないらしい。ならば安心だ。
と、レンが何か手持ってやって来た!
「見ろ! おれのてがらだ!」
その手の中には、とても小さな、だが紛れもない鬼ノ子の――丸焼き。
『すごいじゃないか』
「ブレスで一発だ!」
そう笑う姿は、無邪気な子供そのままでどこか癒やされる。
「見て! あたしも!」
「僕もです!」
「お、俺もだぜ!」
そうみんながみんな見せてくるから困ってしまうな・・・・・・。
そうして一通り紹介が終わって、俺はアレッタたちを後にした。
さて、次は・・・・・・。
『妙に張り切ってるな。デイジーさんとシクル』
「け、ケルベロス殿?!」
「おや、久しぶりだねぇ。番犬様」
そう悠長に返事を返してくれるが、実はそれどころではない。
『なんだその巨大な鬼ノ子の山は・・・・・・』
「これかのう? これはのお、わしとシクルちゃんの努力の結晶じゃ」
「た、たまには上司らしいことをしたくてな・・・・・・。部下達にやろうかと」
と、いう会話の最中にも片手で巨大な鬼ノ子を真っ二つにするデイジーと、近づいただけで何もしていないのに鬼ノ子が凍り付いていく、シクルの周り。
こいつら、前からわかっていたが化け物だな。
「ま、のびのびさせてもらってるわい」
『そ、そうか。じゃあ俺はどっか行ってくるよ』
「ケルベロス殿! また!」
そうして俺は去って行く。
・・・・・・いつの間にシクルとデイジーは仲良くなったのか。まあ、シクルのことをよく知っている身としては嬉しいことだが。
そんなことを考えながら、まだ出番のない幹部の横を通り抜け・・・・・・。
「おい待てし!」
急に呼び止められた。
『・・・・・・グレンか』
「そうだし! なんで俺を無視したっし!」
『いや、その喋り方と絡みが苦手なのと読者はまだお前のことを知らないから』
「なんかマジ辛辣っすよ?!」
苦手だなぁ。こいつ。
魔王軍幹部、《紅蓮のグレン》とかいうだじゃれみたいな幹部だ。燃えるような、というか燃えている髪を揺らめかせ、肌はマトイと比べても圧倒的に黒い。
アイーダ曰く、『ギンザのちゃらけたホスト』らしい。あんまり意味はわからなかったが。
『で、お前は・・・・・・』
ちらっとグレンの背後を見る。
そこには火だるま状態の鬼ノ子が・・・・・・。
「鬼ノ子の躍り食いっすよ!」
『・・・・・・確かに意味的にはそうだが、伝わりづらいな』
グレンは、火を食べることができるらしい。
なので、火だるまにした鬼ノ子を火ごと食べているのだが・・・・・・。
『カオスだな』
「そうっすか?」
『ああ』
完全に異様な光景である。というか、よくこの火は燃え移らないな。
『じゃあな』
「ういっす!」
そうして俺はグレンの元を去る。
グレンの出番に関してだが、おそらく二章ぐらい先だ。残念だったなグレン。その頃にはお前は忘れられているぞ。多分。
そして俺はもう一人の幹部の横を通り過ぎてどこかへ向かう。こいつは呼び止めてこなかった。おい、呼び止めろよ。お前も氷結のなんちゃらと同じでコミュ障か。
まあ、関わる意味はないからスルーしたがな。
そうしていると、周りに誰もいなくなってしまった。鬼ノ子はたくさんいるけどな。まあ犬の状態じゃあ味わえないし・・・・・・。
などと考えていると、人影が前に見えた。
『おう。マトイ』
そう呼ぶと、どこか不機嫌なマトイがこっちを見るやいなやこう口を開く。
「なあ、このイベントさ」
『なんだ?』
「カオスすぎねぇか?!」
カオス? 何がだろう。
『いいイベントじゃないか。美味しいし、魔物も狩れるし、有名人の幹部も見れるって一石三鳥だぞ?』
「いやそうだけど! そうだけども! つっこまずにはいられねえ!」
そしてマトイはすぐ側の鬼ノ子の山を勢いよく指さす。
「なんだこいつら?! キノコの二足歩行とか気持ち悪すぎんだろ! しかも弾力あって素手じゃ倒しにくいし!」
『歯ごたえがあっていい鬼ノ子っていうことじゃないか』
「あああぁぁぁ! そういうことじゃねえ!」
そういうことじゃない? 一体それはどういうことだ・・・・・・?
かみ合わない会話をマトイは続ける。
「いいか? 俺の世界じゃあな、キノコってのは森の中に生えてるもんだ」
『そりゃあそうだ』
「いいか。俺は故郷の世界にある異世界転生小説とこの世界は違うと思ってたんだ。まともだと思ってたんだ」
『ほう』
「だから・・・・・・」
マトイが大きくため息を吐く。
「ちょっと・・・・・・失望してる」
『ちょっと何言ってんのかわからねえな。おら、後ろ向け後ろ』
「はあ?」
本気で失望しているところ悪いが、その失望の元凶がな・・・・・・。
『おら、今年最大級の鬼ノ子だぞ』
「ああああああくそったれえええええええ!」
鬼ノ子よりも鬼のような形相で鬼ノ子に飛びかかるマトイを見て、どこか切なくなった。
はたして、あいつのあの行き場のない怒りはどこへ行くのだろうか・・・・・・。
魔王「最後まで読んでくれてありがとう。どうだった? 今回は豊作だったな。まあ、あとはバーベキューだ! 三本目は二十一時だ」




