四十六話 番犬。報告をする
ケルベロス「やあ。今回は俺だ。やっとあの寒いところからおさらばできたな。じゃ、本編だ」
光が晴れて、目を開けるとそこは見慣れた城の橋の前。俺の小屋がある番犬の持ち場。
だが、どこか久しぶりに見た気がする。四ヶ月ぶりぐらいか? 本当は四日ぶりぐらいだが。
というか、想像以上に早く終わったな。たった四日しか経ってないのか。まあ、かなり濃縮された四日だったが。
そして、俺は橋を渡って城に向か
「ちょっと待ったー!」
バーンと音が鳴るぐらいに勢いよく開かれたのはーー俺の小屋の扉。
そしてそこから出てきたのは・・・・・・。
『知らない人だな。新キャラか?』
「違うぞ?! 俺だ!」
『誰だ』
「魔王だけど?!」
ああ。そういえばそんなキャラもいたっけなぁ・・・・・・。
まあ忘れられたぐらいだから別に大したキャラじゃないんだろう。
「待って。お前の目的がここにいるんだけど。俺に報告するんじゃないの?」
『ん? 母さんに言った方が効率的かなって』
「親父の扱い酷くない?!」
なんかそんなセリフも昔聞いたことあったっけなあ・・・・・・。
『まあ茶番はこんなもんでいいか。報告いいか?』
「お、おう。急に真面目になられると困るんだが・・・・・・」
知らんがなそんなもん。まあ、さっさと済ませようか。
『まず、雪山の調査報告だが。出現原因は不明だ。ま、問題は他にあってな』
俺は一つ一つ思い出しながら説明する。
『その雪山の中には魔法陣があった。中には入らなかったが、推測するにそれは魔王街の郊外に出現した洞窟と同じで、《アイス》の元に繋がっていると見られる』
きっとあれに入れば、すぐにシクルの元に行けたのだろうとも今思ったが、まあ別にそれはいい。
『で、その途中で未来から来たと言う二人組に出会う。片方の女はダイア。もう片方は名前のわからん男だ』
未だ未知の多い二人組。きっとこれからも俺に関わってくるのだろう。
『そいつらの話によれば、五大凶王が何者かに洗脳され、魔界が滅亡するらしい』
真偽の程は怪しいが、信じる他ないだろう。雪山と洞窟の件がある。
『で、最後にアイスとの邂逅だ』
最も重要な報告。
『五大凶王と出会った。形状的には巨大な亀のような形をしていたな。まあ何事も無く、・・・・・・いや、やっぱりある。パリスの野郎が人化の薬を飲ませやがった・・・・・・。今は幼女化したアイスをシクルとパリスが面倒を見てる。以上だ』
・・・・・・こんなものか。
なんとか噛まずに言えた。
と、不思議なものを見る目で俺を見る魔王と目が合った。
『・・・・・・なんだ』
「お前、まともに報告できたんだなって」
『子供扱いすんじゃねえよクソ親父』
「クソ?!」
そうショックを受けたようにうずくまる魔王を横目に、俺はため息を吐いて城の方を向く。
まったく。帰ってきた途端にこれだ。驚きを通り越して呆れてしまうじゃないか。
『ま、いつも通りって感じだな』
でも、楽しいな。こういうやり取りは。
・・・・・・いけない。四ヶ月も経つとこんなことでも感慨に浸ってしまうのか。気をしっかり保たねば・・・・・・。
あとは、母さんに報告すればいいか。
「お帰り。ケルベロス」
・・・・・・タイミングがいいな。ほんとに。
『ただいま。マミー』
「ほんとに不思議な呼び方をするわよね。普通に母さんとかでもいいのよ?」
『今更恥ずかしいな。子供の時からの癖だ』
なぜかこの呼び方がしっくり来てしまったのだ。
『ま、母さんって呼んでおこうか?』
「ふふ。どっちでもいいのよ」
そう微笑むマミー・・・・・・母さんは、俺を見つめてまた笑う。
「初仕事。どうだった?」
『初仕事のくせして難易度が高すぎるな』
「それは不確定要素が多かったから仕方ないわよ。でも、しっかりやりきってくれて私は嬉しいわよ」
そう言って俺の頭を撫でてくる母さん。
・・・・・・なんだか、こうされているだけで癒される。それに褒められて単純に嬉しい。
まるで甘えん坊みたいじゃないか。齢三百歳の番犬のくせして。
「全部聞いてたから、あとは私たちの出番ね。あなた」
「ん? ああ。そうだな」
二人が横に並ぶ。
「その未来から来た者達の話、俺達も聞いた」
『そうなのか?』
「ええ。そうよ。でも、多分ケルベロスの会った二人とは違う人ね。名前をリースと言ってたかしら」
リース。確かに聞いたことがない。
「私たちも今、その犯人の特定と五大凶王との対話を試みてるのだけど・・・・・・」
「どうしてなかなか、現れてくれなくてな。無の砂漠に行ったが、サンドは現れなかった」
あのサンドが? それは、かなり洗脳が進んでいるのか、それともサンドが制御して抑えてたのか・・・・・・。
「私たちも私たちなりに頑張るわ。だから、ケルベロス。あなたも頑張ってね」
『俺のことも聞いたのか』
「聞いたぞ? 魔界の救世主になるんだろう?」
なんだか余計な名誉を受け取ることになりそうだな・・・・・・。
だが、俺にしかできないと言ってたし・・・・・・。
『・・・・・・ま、それなりに頑張るよ』
そう返して、俺は小屋へと向かう。
なんだかいろいろあって疲れてしまった。安心したからか? まあ、それでもやはりーー
魔王街っていうのは、いいところだ。
『おやすみ』
「ゆっくり休みなさい」
「おやすみ、なんて久しぶりに言うがな。おやすみ」
・・・・・・気が変わった。
俺は、橋の前で丸まって、騒がしい魔王街の音に耳を澄ます。その雑音も、どこか心地よい。
そして、寝ている俺の毛並みを誰かが触るのだろう。きっと。
ケルベロス「最後まで読んでくれてありがとな。どうだったか? こう、仕事を達成するのも気持ちのいいものだ。・・・・・・まあ、働かないのが一番楽だが」




