四十五話 番犬。零雪原をたつ
今野「今回もリアルの都合で前あとがきはなしです!すみません!」
アイスの消滅とともに吹雪の消えた雪原を好奇心のまま猛スピードで飛んで行ったパリスを追って少ししたところで、シクルが俺に尋ねる。
「ケルベロス殿。あの薬は一体・・・・・・?」
『あれはな、人化の薬っつって、生物を人型に変化させる薬だ。俺が使ったのと一緒だ』
「なるほど。人化の薬・・・・・・」
それにしても、果たして五大凶王のアイスは生物として認識されるのか・・・・・・? だが、姿が消えたということは少なくとも成功したということ。
・・・・・・五大凶王、そんなちょろくていいのか?
そんな余分なことを考えていると、パリスの姿が見えてきた。
「ケルベロス! ケルベロス!」
『なんだなんだ』
興奮気味に俺の名前を連呼するパリス。その頬は、赤みがかっている。
・・・・・・つまり。
『成功したのか』
「そうなんだ! 見てくれ!」
そうパリスが指さす先にはーー
美しく輝く純白の肌の幼女が倒れていた。
髪は文字通り透き通るほどの透明さで、その髪の間からはところどころ氷塊がオシャレに顔を出す。
・・・・・・つまるところ、倒れたまま微動打にしないこいつが・・・・・・。
「アイスちゃんさ!」
『お前死なない? 蘇生できるかアイーダに聞いておくよ』
「死の恐怖よりも研究の好奇心! 当然だろう?」
絶対当然じゃない。こいつには怖いものがないのか。
そもそも、なんでアイスはこうも穏やかな表情で大の字に・・・・・・。
『・・・・・・薬飲ませたか?』
「飲ませてないよ?」
『飲ませてやれよ』
「いやぁ、だって反撃されたら怖いし・・・・・・副作用効くのか知りたかったし」
こいつやばい。危ないやつだ。なんだよ副作用の効果が効くか知りたいって。反撃されるのが怖いならやるなよ・・・・・・。
「これで副作用が聞かなかったら、薬の改良もできるかもだし・・・・・・」
そう言ってチラリと俺の顔を見る。
・・・・・・なんだよ。ちゃんと考えてやってくれてんのかよ。
はっ! ツンデレみたいになるところだった・・・・・・。危ない危ない。
『で、そろそろつっこんでいいか』
俺がそう切り出して言う。
『誰か服着せてやれよ・・・・・・』
全裸で放置とか見てられないんだよ・・・・・・。
ーー ーー ーー ーー ーー
駐屯地へと帰る道中。
「いやぁ。僕これしか服ないからなぁ」
『魔法使えるだろうが』
「この服に魔法が刻んであるんだよ。ほら」
そう見せびらかすコートの内側には、ほのかに赤く輝く魔法陣が複数。
なるほど、魔法って便利なんもんだな。
「さむっ!」
『頭がいいのか悪いのかわかんねえな』
そう言ってコートを羽織り直すパリスに苦笑して、俺はアイスとともに俺の背の上にいるシクルに話しかける。
『お前、冷たくないのか?』
「ん? 何がだ?」
『何がって、アイスだよ』
俺はシクルに抱えられるあアイスのことを思い出す。
常時シクルの何倍もの冷気を発していて、パリスも俺も触れなかったアイス。
それをシクルは素肌で軽々と持ち上げるれるのは不思議でならない。
『・・・・・・お前のスキルなんだ?』
「わ、わたしのスキルは、たしか・・・・・・《リトルアイス》だった。あまりよくわからないスキルで、氷魔法が使える程度だと思っていたが・・・・・・」
『完全にそれだな』
なんだよ《リトルアイス》って。思いっきりアイスようのスキルじゃないか。
・・・・・・というか、リトルということは。
『完璧にアイスの器じゃねえか』
そう。まるでアイスに向けて存在するようなスキル。
それを考えると、あの男たちの言動のおかげで疑り深くなってるだけかもしれないが、このスキルがあることも偶然ではないように思えてしまう。
まあ、スキルは天から与えられるものだから、なんの細工のしようがないが。
考えすぎかと俺は思考を戻す。
『で、パリスはどうするつもりなんだ?』
「え? あー。そうだなぁ・・・・・・」
しばし考えるパリス。
考えて、考えて、考えて、熟考して・・・・・・。
「どうしよっかなぁ」
『なんも決めてねえのかよ』
こいつほんと怖い。五大凶王を持て余すつもりかよ。
「まあ、僕の家にでも招待しようかな」
『誘拐の間違いじゃないか?』
「そんなことないよ! ・・・・・・ふふふ。楽しみにしてるといいさ。次に会う時には・・・・・・」
『お前が氷漬けになってると』
「君を今すぐ氷漬けにしてあげてもいいんだよ?」
あ、そういえばこいつ魔女だったっけ。ただならぬ殺気を感じたからこれ以上はやめておこう。
『シクルは何かあるか?』
「わ、私か? と、特には何も無い・・・・・・が・・・・・・」
シクルが少し言葉を詰まらせる。そしてまた口を開く。
「いや、やっぱり私はアイス様といたい」
それは、唐突な告白だった。
「なんだか、親近感が湧いてしまってな。・・・・・・私も、昔は冷気の調節ができず、友達の一人もできなかった」
語られるシクルの過去。
ああ。だからこんなに人と話すのが苦手と言っているのか。だが・・・・・・。
「だから、少しアイス様と仲良くなりたいと思ってな。・・・・・・私のスキルも《リトルアイス》だから、同じアイスとしてな」
スラスラとそう述べるシクルの表情は、どうしても伺えないがーー果たして、どんな表情をしているのか。
『まあ、コミュ障のお前がそこまで言うならな』
「え?! 頑張ったのに酷くないか?!」
『ははは。すまん。ま、パリスもいいだろ?』
「・・・・・・まあ、いいよ。じゃあしばらく僕もこの超寒い《零雪原》にいないといけないね」
そう苦笑いとため息をこぼすパリス。
「五大凶王と仲良くするなんて、考えられないけど」
『その五大凶王に薬を飲ませたお前も考えられねえけどな』
「それは別さ」
何が別なんだか。まったくもって理解ができない。
と、目的地が見えてきた。
『じゃ、ここでしばしのお別れだな』
「そうだね」
俺はシクルを下ろしてのそのそと歩く。
「ケルベロス殿。今回はとても世話になった。本当にありがとう」
『ん。どうも。じゃ、俺は雪山の調査報告をしねえとなあ』
そう何気なく呟くと、シクルがきょとんとした表情をした。
「ケルベロス殿、いつの間に調査を?」
『ん? お前と調査に行ったじゃないか。ほら、魔法陣が・・・・・・』
そこまで言って気づく。
『・・・・・・あれお前じゃねえのか』
「私は雪山に行った記憶がないが・・・・・・」
『気にすんな。というか、今更だがお前こそなんでアイスに会いに行ってたんだ』
「それなんだが、アイスに会うまで記憶が無くてな・・・・・・」
記憶が無い。まるでサンドのときのアレッタと同じだな。
・・・・・・このことも合わせて報告するとしよう。
俺たちは帰還用の魔法陣へと向かい、俺は魔法陣へと足を踏み入れる。
『短い間だったが、世話になったな。じゃ。アイスについてのいい報告待ってるぞ』
「心配しなくていいよ。僕がいるし」
「私も、きっと仲良くなる。・・・・・・なれる、よな?」
なんだか心もとない言葉を残したシクルたちに見送られ、俺は魔法陣に飲み込まれた。
妙に清々しい、いい気分だった。




