三十六話 しょぼくれ魔王の任務説明
カミラ「ようやくあの子も仕事に・・・・・・。あら、どうもこんばんわ。よかったら最後までみていってくださいね」
魔王城。魔王の間。同日――。
『よう。シクル。待たせたな』
俺(犬)は、大体の準備を整えて、シクルとともにいた。
「いや、無理をしなくても・・・・・・」
「いや、いいんだ。行くぞ。逆に行かせてくれ。行かせてください」
「え、ええっ?!」
困惑するのも無理はない。だって、相当心変わりしてるからな。・・・・・・あそこでさっきからずっと無言の魔王と同じく。
『・・・・・・魔王ー。やっぱ、母は強しだな』
「・・・・・・そう、だな」
震える声で返す魔王の姿は、いかにも弱々しい。
まったく、妻に怒られたぐらいで何をあんなにうじうじと・・・・・・。
「け、ケルベロスも、来たときはあんな感じだったが大丈夫か?」
『・・・・・・それは秘密の約束だ』
「え? そ、そうだっけ?」
そんなことは無い。俺は、叱られてもちゃんと反省して次に生かそうとしたのだ。決してあそこの玉座で丸まっている魔王と同じではない。・・・・・・多分。
「け、ケル・・・・・・」
『・・・・・・あ、俺?』
か細い声で、久々の略称で呼ばれる。思わず聞き返してしまった。
「き、来てくれ・・・・・・」
『・・・・・・はぁ。いい年してんだからなぁ・・・・・・。今日だけだぞ』
俺は静かに魔王の元に寄り添う。すると、震える手が俺の毛をなでる。こいつ、どんだけ怖かったんだよ。まあ、確かに俺だけ先に帰らされたけどさ。それにしてもこんなになることはないんじゃないのか? あの母さんのことだからなぁ・・・・・・。うーん、わからん。
「・・・・・・よし、落ち着く。では、任務の話をしよう」
と、急に元気を取り戻す。・・・・・・こいつ、俺の体を触りたかっただけなんじゃないだろうな。
『大丈夫そうだな。じゃあ、俺はシクルの隣に・・・・・・』
そう言ってすっと立ち上がると、それに続いて魔王も立ち上がる。
・・・・・・まあ、こんな偶然もたまにはあるからな。スルーようか。
そのまま、すたすたとシクルの方に向かう。すると、俺の頭に手を置いたまま、魔王も平行移動を始める。
・・・・・・・・・・・・。
『ごめんな、 魔王』
「いいや、なんてことはない。別にお前に頼らなくても大丈夫だが、今だけはこうさせてくれ」
普通に哀れに思ってしまった俺は、そのまま魔王を連れて玉座に戻る。さて、今日一日ぐらいはこんな感じでもいいだろう。親孝行というやつだな。今頃とか言うなし。
「さてと・・・・・・。任務の話だが、これはシクルが・・・・・・やると、卒倒することもあるから、私がしよう」
おい。本人の前でそういうこと言ってやるなよ。またお前カミラに叱られるぞ。・・・・・・まあ、実際その通りなんだけどさ。
「そ、そっちの方が、助かる・・・・・・」
口ごもって最後の方は聞こえなかったが、シクルも大丈夫だそうだ。・・・・・・認めちゃだめだと思うんだがなあ。
「では・・・・・・。お前たちにやってもらう任務についてだが、これは、前々から調査を始めていた、《零雪原》に突如現れたという雪山の調査だ。近況報告をしてもらってもいいか?」
「は、はいっ!」
『そこはやらせるのな』
「いや、俺もまだ聞いてないからさ・・・・・・」
私語と職場で一人称を変える上司の図である。いや、別に関係はないが、思ったことをいっただけだ。それよりも、まだ報告されてなかったのな。されてから俺を呼びに来いと思ってしまった。
さて、今はシクルの話を聞くか。
「えーっと・・・・・・。ほ、報告、だ。まず、えー、ほとんど何も進展がありません。ど、洞窟が一つ見つかったぐらいです。い、以上・・・・・・」
そして、顔を赤らめながら後ろに一歩下がる。
「報告、感謝する。そうか・・・・・・。なるほどな。なかなか進展はないということか・・・・・・。その洞窟は現在どうなっているのだ?」
「は、はい。洞窟は、現在、わ、私の部下たちが頑張って調査を進めています」
「そうか・・・・・・」
そのやりとりを、俺は静かに見守る。だって、やることないし、口も出せないからな。というか、洞窟か・・・・・・。洞窟って聞くと、あの後封鎖されたあの《無の砂漠》に繋がるあの洞窟を思い出す。結局、あの洞窟と魔方陣についてはなにもわからなかったがな。
「原因不明、突如現れた雪山に、洞窟か・・・・・・。不思議だな。そう考えると、地下に空洞があったみたいじゃないか」
『いや、洞窟ってそういうものだろう?』
「・・・・・・い、言われてみればそうか」
いや、それぐらはさぁ・・・・・・。無知さが隠しきれてないぞ。
『ちなみに、俺は着いたらどうすればいいんだ?』
最も俺が疑問に思っていることを投げかける。いやぁ。行ってもやることありませんでした。じゃ、カミラにもの申すレベルだからな・・・・・・。
「け、ケルベロス様には、その洞窟の調査をともにしてもらいたいと・・・・・・」
『了解。・・・・・・俺が入れるサイズ? 大丈夫?』
「は、はい。かなりの幅があり、渓谷のようになっていましたので・・・・・・」
なるほど、それなら仕事もあるか。・・・・・・行くのかぁ。零雪原。
「よし! ケル、もういいぞ!」
テンションの戻った魔王に毛並みをわしわしといじられ、ドンっと、背中を押される。
「では! 行ってこーい!」
カミラ「最後まで読んでくれてありがとうございます。どうでしたか? それにしても、ちょっと怒りすぎたかしら・・・・・・。今日は、私がご飯を作ってあげましょうかね。ふふふ♪ じゃあ、次回もよろしくね」




