三十四話 番犬。任務を嫌がる。
ケルベロス「やあ、毎度ありがとうな、来てくれて。今回は・・・・・・新章か・・・・・・。何も聞かされていないんだよな。まあ、ここでわかるだろう。じゃあ、本編だ」
魔王城。間抜けな魔王のいる魔王の間。そこに今。三人の魔物がいる。
一人は、俺。人の状態のケルベロス。そして、その向かい側で玉座に腰を下ろすのが魔王。そして、俺の横にいるのが・・・・・・。
「え、えーっと・・・・・・。ま、魔王様? こ、この方は・・・・・・」
安定のおどおど具合のシクルである。やっぱ気づかれないんだよな。
「よう、シクル。俺だ。ケルベロスだ。久しぶりだな」
「・・・・・・ほ、本当か? だが、け、ケルベロスはもふもふの毛があってこそのケルベロスで・・・・・・」
どうやら、もふもふの毛がないとケルベロスじゃないらしい。・・・・・・おい。ちょっと本気になって冷気を垂れ流すんじゃない。怖い怖い。
「シクルよ。安心しろ。そやつはケルベロスだ。パリスの薬で一時的に人になっているだけだ」
「そういうことだ」
「な、なるほ・・・・・・ど?」
未だに首をかしげるシクル。うーん・・・・・・。まあ、話を進めていい気もするが。
「これで信じるか?」
そう言って、腕を巨大化。足を透明化する。こんなことができるのは俺しかいないからな。
「おお・・・・・・。た、たしかにケルベロス・・・・・・だな」
目を丸くしながら、うんうんとうなずくシクル。本当、いちいち証明するのが面倒くさいな。アイーダみたいな能力をみんなが持っていたら楽なんだがなぁ。そう思ってアイーダの姿を・・・・・・。
「・・・・・・? ケルベロス。顔が赤いぞ。シクルの冷気にあたったらどうだ?」
「へ? あ、いや、なんでもないぞ。はは・・・・・・」
危ない危ない。無意識のうちに想像してしまった。・・・・・・くそう。パリスのやつ、余計なことを・・・・・・。
「というか、お前今さらっとシクルを・・・・・・」
「ん? なんだって?」
おいおい。こいつ自分の部下に向かってなんつーことを・・・・・・。チラリとシクルの顔をうかがう。と、目があった。
「あ、いや、別に私は、大丈夫・・・・・・」
「ほれ見ろ。困ってんじゃねえか。サイテーな上司だな」
「うっ・・・・・・。し、シクル。お願いだから、カミラには報告しないでくれ・・・・・・。き、給料あげるから・・・・・・」
「えっ?! いや、本当に気にしてないんで! いい! え、遠慮する!」
そうか・・・・・・。俺としては、カミラに報告したいぐらいだが・・・・・・。
「個人的に報告しておくか・・・・・・」
「ケルベロス?! お、親には優しくありなさい!」
「カミラの方が優しいからな。それに、これも一種の優しさなんだぞ?」
「待って! そんなことしたら串刺しになっちゃう! せ、折角再生した右腕が!」
そう言って、ぷらぷらと右腕をゆらす魔王。右腕・・・・・・。
「ああ、そんなもん六十年もたちゃ治るだろうが。勇者との戦いの代償なんてよ。それにしても、いつのまに治ったんだ」
「ず、ずっと前から治ってたじゃん・・・・・・。少しは親に興味をもとうな?」
「じゃあ串刺しにされてきてくれ」
「怖いよ! ・・・・・・はぁ。話が進まないな」
そう言って、大きなため息を吐く魔王。いや、進める気なんてないからな。だって任務とか行きたくないし。これ本音。そもそも進める気なんて毛頭無い。行きたくないし。あ、二回言ったのは俺の気持ちの表れだ。
「じゃあ話を進めるぞ」
「なるほど。カミラに報告をしに行けばいいということか」
「だから違うってば・・・・・・。何? 行きたくないの?」
だから、そんなの決まっているというのに。
「絶対に嫌だ。そんな寒いところ」
「本当に拒否されたな。初仕事だっていうのに・・・・・・」
いらないよ仕事なんて。俺は今まで通りあの橋の前でほのぼのと過ごせればいい・・・・・・。マトイをいじりながらな。
「はあ・・・・・・。お願いだから行ってくれよな。シクルだって、お前に来て欲しいと思ってると思うぞ?」
「へ? い、いえ、別に、ケルベロス様の都合が悪ければ・・・・・・」
そう言ってちらちらと俺の方を見てくるシクル。・・・・・・。
「シクルって、今何歳だ?」
「へえ?! ・・・・・・じゅ、十七だ」
唐突な俺の質問に驚きながらも、シクルが答えてくれた。・・・・・・そうかぁ。そういえば、まだ十七歳の子供だったか。
「お前、なんでこんな若いやつを、凶王のテリトリーの調査にいれたんだ」
「若さでは計らんよ。実力を見るのが俺の魔王街の経営方針だ」
「素晴らしい方針でございますねぇ」
全く。そこだけは魔王らしいな。そこだけ見ればいい親なのに・・・・・・。・・・・・・はぁ。
「仕方ねぇなぁ。この国の未来を背負う若者のために、俺が《零雪原》に行ってやるよ」
「よしっ。頑張れ息子ぉ!」
「やめろ馬鹿親父。・・・・・・シクルも、一つお荷物ができるが大丈夫か?」
「え? お、お荷物?」
「俺だよ。なんもできないからな」
実際。現地に着いても俺は何もできないだろう。おそらくは人化も解けてるだろうし、薬も《零雪原》の驚異的なまでの寒さでは、あの緑色の方がおしゃかになるだろうな。それに、犬の方が寒くなくていいだろうが、それだとなんの協力もできない・・・・・・。
「・・・・・・あれ? 本当に俺なんもできないぞ?」
なんでこれ行くんだ?
「いや、も、もふもふ係に、なってもらえば・・・・・・。嬉しい」
「そ、そうか・・・・・・」
本当に俺の需要はそこなのか。・・・・・・戦闘員とかの方が幾分かましなんだがなぁ。
「まあ、そういうことだ。いいか? ケルベロス」
「ああ、別にいいよ。で、出発はいつなんだ?」
さっさとこの話を終わらせて、現実逃避のために寝るとしようかな。そう思って言った一言の返事は・・・・・・。
「今からだ」
俺はダッシュで城を出た。
ケルベロス「・・・・・・。・・・・・・っ! (小声)おい! し、静かにしろ! 見つかったらどうするんだ! ・・・・・・最後まで読んでくれてありがとな! 次回も・・・・・・。やっべぇ! 見つかったぁぁぁぁぁ!」




