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二話(2) ツンデレは番犬より強し

二話の二個目です! よければ最後までどうぞ!

 ほどなくして、昼食の入ったバスケットと、大きなリュックを持ってきたアイーダがやって来た。


「待たせたわね。さ、行きましょ!」


 うきうきとした表情でそう言う。

『ああ、じゃあ、俺の背中に乗ってくれ』

「あら、そんな遠いの?」


 不思議そうな顔をしてそう聞いてくる。


『魔界の外まで行こうと思ってな』

「ふーん。そうなのね。ま、よろしく頼むわ」


 アイーダが俺の上にまたがる。


「レッツゴー!」


 犬の本能だろうか、そう言われた途端、俺は全速力で駆け出していた。


『よし。着いたぞ』


 着いたのは、新緑の葉をつけた高い木々が立ち並ぶ森林だ。


「ちょ・・・・・・。と、飛ばしすぎだって・・・・・・」


 まあ、若干グロッキー状態のアイーダはそれどころではないようだが。


「は、吐きそう・・・・・・」

『まて。それだけはやめろ。・・・・・・おい! あきらめたように顔を下に向けるな!』


 まずい! これは一大事だ!

 せっかく朝に体を洗ってもらったというのに、これでは元も子もない!


『ほら! あっちに川が・・・・・・』


 心配して(自分の身も)アイーダの方を見る。


『・・・・・・どうした?』

「い、いや・・・・・・。あんたのそんな焦った声久しぶりに聞いたから、面白くて・・・・・・」


 口元を押えて表情を隠しているが、どう見ても笑っている。


『はあ・・・・・・。なんだよ。大丈夫なんじゃないか。この辺は坂が急だから、ちょっと移動を』

「うっ・・・・・・」


 なんということだ・・・・・・。

 字には表しにくいが、悲惨な状況になっている。 

 とりあえず、残念ながらここから先はお見せできないので、想像にお任せしようか。


 今、目も当てられないような体の俺は、アイーダに見守られながら川に浸かっている。

 春の川は、それなりに温度もあり、川の流れが心地いい・・・・・・。


「大丈夫ー? 変な魚とか来てない?」

『いや、俺よりもお前の方が心配なんだが』

「あたしは大丈夫だけどさ・・・・・・。ごめんね」

『気にするな。俺も飛ばしすぎた。それに、春の川も心地いいものだぞ』


 アイーダといったら、さっきの一件から随分テンションが下がってしまっている。


「そう・・・・・・」


 まったく・・・・・・。


『おりゃ』

「ひゃあ?!」


 俺はアイーダの方に向かって水を飛ばす。


「ちょっと! 何を・・・・・・」

『せっかく遊びに来たのだ、楽しまなければ損であろう?』


 そして、さっきのよりも大きな水しぶきをあげる。


「きゃあ! ふふ・・・・・・。そんなにやりたいのなら、あたしも本気を出そうかしら」


 と、アイーダの周りの魔力が動き始める。


『おい待て。魔法はさすがに』

「《ハイドロフォール》!」 


 ドバシャアッ!

 頭上から大量の水が落ちてくる。

 もちろん。回避できずにすべて受けることになったが。


『お、お前・・・・・・』

「楽しまなければ損なんでしょ?」

『お返しだっ!』


 大きな尻尾をなびかせ、水をこれでもかといわんばかりにまき散らす。

 しかし、それらはアイーダの手前ですべて防がれた。


『はあ?! それはずるくないか?!』

「だって濡れたくないんだもの」


 ここだけお嬢様感出さなくてもいいんだけど?!


「さあ、お返しよ!」

『おい! 魔法はやめろって言っ』

「《ハイドロウェーブ》!」

『コノヤロー!』

 


「いやー! 遊んだわね!」

『そうだな』

「まあ、一回落ちかけたのは危なかったけど」

『そうだな』

「・・・・・・ねえ、そんないじけないでよ。確かにやりすぎたけどさ・・・・・・」


 いや、やりすぎを超えているぞ。

 だって、一本しかなかった川が三つに枝分かれしているからな。

 それに、一方的にやられるのは俺の性格じゃない。


『帰り。覚えとけよな』

「待って。あれはほんと無理だから」


 フッ・・・・・・。行きよりも速いスピードを出してやろう。 


「そういえば、なんでここに来たの?」

『ん? ああ、薬草が欲しいって言ってただろう? この辺りはそういうのが豊富でな。景色もいいし、ほんとに暇なときに来るのだ。せっかくだし、お前を連れてこようと思ってな』

「ふーん。そう」


 来たばかりの時とは打って変わって、先ほどから上機嫌なアイーダ。


『新種っぽいのもあるぞ?』

「新種?!」


 その言葉に、アイーダが目を輝かせる。


「ほんとに?!」

『あ、ああ。初めて嗅ぐ匂いのものが結構あったからな・・・・・・』


 と、俺の話には目もくれず。木の周りをあっちにこっちに探している。


『案内しようか?』

「だめよ。わたしは自分で見つけることが研究者としての義務。プライドなのよ」


 真剣な表情でそう語るアイーダ。


「邪魔しないでよね」

『わかってるさ』


 とりあえず。俺は手ごろな倒木の上に座り、彼女を待つことにした。


 日が真上に照り輝くころ。


「や、やっぱり案内してくれない?」


 あっさり俺に頼ってきやがった。


『研究者としてのプライドはどこへ行ったんだか・・・・・・』

「ち、違うわよ! ヒント! そうよ、ヒントを貰いに来たのよ! それだけ頂戴!」


 なるほど。ヒントならば関係ないと。

『ヒントねえ・・・・・・』

「なんか今の言葉、二つの意味が込められてるような・・・・・・」

『ん? ああ。よく気づいたな。エライエライ』


 無言の腹パン。

 普通に痛い・・・・・・。


「で! ヒント!」

『ヒントねえ・・・・・・。ちょっと待て。今のは無意識だ。グーをつくるなグーを』


 またも目つきが怖くなるアイーダをなだめて、俺はどう伝えるべきか考える。


『そうだな・・・・・・。まずは昼めしにしないか?』

「・・・・・・はあ。そんなことだろうと思った。じゃあ、ちゃんと食べ終わったら教えてよ」


 ひとまずの昼食をとることにした。


 今日の昼は俺の好物のチキンのサンドイッチだった。 

 ふう。おいしかった・・・・・・。


「さ、ヒントを頂戴!」


 食事の余韻すらあたえてもらえないとは・・・・・・。


『そうだな・・・・・・。もうちょっと飯ないか?』


 無言の腹パン。

 心なしか、二回目の方が痛いんだが・・・・・・。


「ヒ! ン! ト!」

『わかったわかった。えーっとだな。お前のすぐ近くだ』

「近く?」


 それを聞いた途端。近くの茶色い落ち葉をかき分けて探し出すアイーダ。


「ないじゃない。まさか、地面の下とかいうんじゃないんでしょうね・・・・・・」

『さすがにそこまで俺の鼻もよくはないぞ。もう一個ヒントがいるか?』

「お願い」

『お前。この辺りを見て違和感を覚えないか?』

「違和感?」


 キョトンとした顔をして、周りを見渡し始める。

 新緑の草花と茶色の落ち葉。若々しい葉をつけた高い木々。静かな音をたてて流れる川・・・・・・。


「・・・・・・わかったわ」

『そうか。では、答えは?』

「この落ち葉でしょ」


 足元の茶色の落ち葉を指さし、苦笑いでこっちを向くアイーダ。

 俺は、してやったぜというような表情でこう言う。


『正解だ』


 そのとうり。答えはこの落ち葉だ。

 あらゆる木々が青々しい葉をつけ、枯れた木など何一つなかったのに、なぜかこの落ち葉だけこんなにも落ちているのである。

 正直言って、これに囲まれている間は匂いが気になって仕方がなかった。


「これは本当に新種のようね」

『だろ?』   


 まじまじと落ち葉を観察するアイーダ。


「水分が飛んでるのにやわらかい・・・・・・。成分だけが変化している? そもそも、薬草なのか・・・・・・」


 独り言をつぶやきながら、リュックの中から様々な器具を取り出す。

 そして、何かの液体の中にその落ち葉をちぎって入れる。と・・・・・・。


「完全に毒じゃない」


 液体の色がどす黒く変化した。


『おや。毒だったのか。一回好奇心で食べようとしてしまったのだが、食べなくて正解だったな』

「なんで落ち葉を食べようと思うのよ・・・・・・。まっ。これもなんかの研究に使えるだろうし、収穫はあったってことでいいのかしらね」


 と、ガッカリしたような顔をする。


『どうした? 新種だろう?』

「新種は新種でも、毒性じゃない。あたしは薬草が好きなのよ。・・・・・・そっちの方が、たくさんの人々を救えるでしょう?」


 そう語るアイーダ。

 いつもはあんな感じだが、こういうところだけはお人好しなのだ。


「さっ。あとはいろいろ薬草を回収して帰りましょ。はあ~~。なんか、もう疲れちゃったわ」


 ぐぐっと背伸びをするアイーダ。


「もうひと頑張りね」

『そうだな。頑張れよ」

「あんたも手伝いなさい。偉大なるお嬢様の命令よ?」

『いや。俺は寝るよお嬢様』

「・・・・・・いいから手伝う!」


 ちょっとキレ気味のお嬢様怖い!


『はあ、仕方がないなあ』


 仕方なく倒木の上から降りる。


『手伝おうか? アイーダ』


 と、お嬢様ではなく、名前で呼ぶ。


「うん。よろしく」


 その時彼女が見せた笑顔は、なぜかはわからないが、とても。とても美しく見えた。


「どうしたの?」


 ぼーっとしている俺は我に返る。


『いや。なんでもないよ。で、どれを探せばいい?』

「うーんと。これと、これと・・・・・・」


 まったく。犬が人間に見とれてどうする。

 番犬である俺が、こんな感情を・・・・・・。


 いや、今はやめておこう。

 その気持ちを、ゆっくりと胸の奥にしまう。

 首にかかる首飾りの重さが、愛おしく感じられた。




 そして、彼女が帰りに地獄を見ることになることを、彼女は知らない。

最後までお読みいただきありがとうございます。いかがでしたか? 次回からはちゃんと通りすがらせようと思います。それでは、次回もよろしくお願いします。

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