表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/137

二八話 番犬。元勇者の自宅を満喫する。

ケルベロス「ん? 今日は俺か?」

カンペ『人間になってみて一言!』

ケルベロス「一言ねえ・・・・・・いろいろと発見があって面白いぞ? じゃあ、これぐらいでいいな。本編だ、よかったら見ていってくれ」

「はー! すっきりした!」

 風呂上がりのマトイがそう言う。

「それには俺も同感だな。人間の姿で風呂に入ると気持ちのいいものだ」

「ほんとなー。数少ない至高のひとときだな・・・・・・」

「ほかに何かあるのか?」

「お前の毛を触ってる時」

「だろうな」

 用意された白い服を着た俺は苦笑いを浮かべる。

 なんとなく予想はついていたのに、聞いた俺が馬鹿だった。

「ついでにマッサージでも受けてくか?」

「マッサージか・・・・・・」

 先ほどの風呂でずいぶん疲れはとれたが・・・・・・。

「折角だし、受けに行くかな」

「すげー気持ちいいからな。期待しとけよ」

 自慢げにそう話すマトイ。

 そんな会話をしながら廊下の角を曲がる。すると・・・・・・。

「どうも、ご主人様。ケルベロス様」

 俺たちが転んで、掃除した場所をリンが掃除している。

「リン。そこは俺たちがやったけど・・・・・・」

「ご主人様、どうかお気になさらず」

 きっぱりとそう言い放って、黙々と掃除を続けるリン。

「なんだ。俺たちの仕事ぶりは本職様からしてみたら、まだまだだそうだぞ?」

「け、結構やったけどな・・・・・・」

 そう話して、もう一度リンの方に目をやる。


「・・・・・・お気になさらず。どうぞ、ゆっくりしていってください」

「「ういっす」」


 若干のいらつきが混じった声を聞いた俺らは、言われた通りにマッサージに向かうことにした。



「あ~・・・・・・気持ちいいわ~」

 俺の隣で、脱力しきったマトイの声が聞こえる。

「まぁ~。それは、同感だな~」

 そして、それは俺も同じなのだ。

 マッサージ師の人が、全力疾走で疲れのたまった足をほぐしてくれる。

「どうだ~? これもさいこ~だろ~?」

「だな~」

 なんだか、すごいゆるい会話をしている気がするが、この快楽には耐えられん。

「そ~いや~よ~。おまえ、犬にはいつになったらもどるんだ~?」

「さ~な~。俺もわからんよ~」

 薬の効果なんて、作った本人でもわかっていないんだから、そんなものを知るよしもない。

「ケルベロス様。足つぼのご要望はありますでしょうか?」

「よろしく頼む」

「かしこまりました」

 アシツボがなにかはわからないが、とりあえず頼めば・・・・・・。

「・・・・・・お前、足つぼやるの?」

「アシツボってなんだ?」

「お前・・・・・・」

 そんな会話をしていると、マッサージ師の人の手が足に移動する。


「まいります」


 ぐっ。


 俺の足に、マッサージ師が力を加える。


「あ~。気持ちいい~」

 普通に気持ちがいいな・・・・・・。

「マジで? お前、痛くないの?」

「別に全然だが・・・・・・。あ~。いいわ~」

 自分でも言ったことのないような声が漏れる。

「ほ、ほんとかよ。いつもはあんなに激痛なのに・・・・・・。ち、ちょっと俺にも」

「かしこまりました」

 隣では、マトイが同じようにアシツボを頼む。

 別に激痛でもなんでもないんだけどな。

「まいります」

 俺の時と同じ台詞で、マッサージ師が足に手を移動させ、力を加え・・・・・・。


「いってええええええぇぇぇぇぇぇぇ!」


 耳障りなマトイの絶叫が響き渡った。




「いや~。気持ちよかったなあれは本当に至高のひとときだった」

「うう・・・・・・。なんでそんな平気なんだよ・・・・・・」

 先ほどのアシツボで、若干涙目のマトイがそう呟く。

「平気も何も、別にあんなもの痛くもなんともないじゃないか」

「痛いよ。すっごい痛いよ。すっっっっっっっっっっごい」

「わかったから、そんなためなくていいから」

 必死に訴えかけてくるマトイを制止する。どんだけ痛かったんだか・・・・・・。

「で、次は何をするんだ?」

「次・・・・・・か」

 痛そうに足の裏をさすりながら、マトイが考える。

「・・・・・・何気に満喫されてることに気づいたんだけど」

「おう。満喫させてもらってるよ」

 今気づいたのかよ。

「まあ、全部お前の案内だけどな」

「ほんとだな。普通に自分も楽しんでた」

 本当に気づいていなかったのか。

「ま、じゃあ昼飯でも食うか?」

「飯か・・・・・・」

 まあ、ちょうどいい頃合いだしな。

「じゃあ食べようかな」

「そうこなくっちゃ」

 嬉しそうに笑顔を見せるマトイ。

 こいつ。いい年してんのに無邪気な笑顔を見せやがって。


 ・・・・・・そりゃあ勇者になるか。こんなやつ。


「じゃあ、こっちだ」

「おうよ。元勇者様」

「なんでいきなりその呼び方になるんだよ。やめろよな」

 嫌そうな顔をするマトイの後ろを、ニヤニヤしながらついていった。



 マトイについって行って、着いたのは真っ白いベランダ。

「ここが、俺のお気に入りポイントでもある、ベランダだ」

 そこは、ガラスの窓で仕切られており、直角に交わる廊下同士の間にある。ベランダに出れば、見てわかるほどの気に入りようで、そこらかしこに白い薔薇が植わっている。

「いい趣味をしているじゃないか。この白い薔薇とかな」

「ありがとよ。俺、薔薇が好きでさ」

「・・・・・・まったく、話を聞けば聞くほどお前のイメージが変わっていくよ」

「今まではどんなんだったんだ?」

「俺の毛が好きな変人」

「変人だったんだ?!」

 どう見ても変人だったからな。あれは。

「ち、ちなみに今は・・・・・・?」

「真っ白い勇者」

「・・・・・・ツッコミにくいな」

 動揺するマトイ。

 まあ、実際本当にそう思っている。真っ白い勇者。・・・・・・なんか不思議な感じだな。

「まあいいや、そろそろ飯にしようか」

 そう言って、マトイがこれまた真っ白いイスに座る。

 俺も続いてその向かい側に座る。

「じゃ、飯を頼むか」

 マトイが廊下を通ったメイドを呼び止め、飯を持ってくるよう指示をする。

 そして、しばらくしてメイドが持ってきたのは・・・・・・。

「・・・・・・なんだこれ」

 魚の切り身。それも、生のものだった。

「ん。これは刺身っつってな。俺の国の名物だったんだ。このタレをつけて食べてくれ」

 マトイが茶色い液体の入った瓶を差し出す。

 ・・・・・・さ、さしみ?

 俺はフォークで一切れ刺し。匂いを嗅ぐ。

「・・・・・・匂いがわからん」

「そりゃあ、今お前人なんだからな」

 しまった。つい癖で匂いを嗅いでしまった。まあ、犬の本能だし・・・・・・。

「まあいい。とりあえず、一口・・・・・・」

 茶色い液体を垂らし、半透明に透き通る身を口に入れ・・・・・・。


「・・・・・・うまい」


 なんだこれ、この前ジミーが出した山魚の焼きも美味しかったが、同じ魚という種類とは思えないほどの違い。うまみ。これは・・・・・・。

「おい。笑顔が漏れてんぞ」

 マトイの言葉を聞いて、俺は我に返る。どうやら、思わず顔がにやけていたようだ。

「・・・・・・お前の国には、こんな美味いものがあったのか」

「ああ、その通りさ」

 俺は黙々と刺身を食べる。

 そして、あっという間に平らげてしまった。

「ごちそうさま。美味かったよ。そう伝えといてくれ」

「おうよ。わかった」

 俺は、それだけ言ってイスに深く座る。

 マッサージの時などには得られなかった、最高の満足感が身を包む。


「・・・・・・おい。迎えだぞ」

 

 幸福感の余韻に浸っていると、マトイが外を向きながらそう言うのが聞こえる。

 迎え・・・・・・ということは。


「やあ、どうだったかい? 元勇者様の家は」


 箒に乗ったパリスが、黒衣を風になびかせながらにやにやとこちらを見ていた。

「最高だよ」

「そうか、よかったじゃないか」

 俺はマトイの方を向く。

「今日はありがとうな。マトイ」

「いーや。俺の方こそ」

 そう言葉を交わす。

「じゃあ、行こうか」

「おう。いいぞ」

 そう言って、パリスの方に向かうと、なぜか少し驚いたような顔をするパリス。

「なんだ? どうかしたか?」

「いやあ、すごい素直だなーってさ」

「失礼な。俺だってもう諦めてんだよ」

「諦めてるんだ・・・・・・」

 あきれ顔のパリス。いや、諦めぐらいはするさ。どうせほかの薬試させられるんだろうし。

「じゃ、行こうか」

 パリスが箒の向きを変え始める。

「じゃあな、マトイ」

「おう。また遊びに来いよー」

 そうして、俺たちは魔王の城へ向かった。 

ケルベロス「最後まで読んでくれてありがとな。どうだったか? それにしても、刺身か・・・・・・。あれはまたいつか食べたいな。まあ、犬の姿じゃ食べられないから、パリスに言わなきゃ・・・・・・。じゃあ、また次回もよろしくな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ