二話(1) 王女アイーダ
※訂正しました。
魔界の外→魔界の端
二話を二つに分割しました。
番犬である俺の朝は早い。
「ワオォーーーーーン」
いつも通りに遠吠えを響かせ。
「ケルベロス様! 鎧を外してきました!」
『うむ。よろしい』
兵隊たちにモフモフさせる。
さて、あとはどうしようか・・・・・・。
「ありがとうございました!」
『おーう。今日も頑張ってなー』
兵隊たちを見送る。
そうだ、風呂に入ろう。そろそろ体がかゆくなってきたからな。
そうして、今日も魔王の城への橋を渡る。
「ケルベロス様! おはようございます!」
『おはよー』
門番と挨拶を交わして城内へ。
「おはようございます。ケルベロス様。今日はいかがなさいましたか?」
『ああ、久しぶりに風呂に入ろうと思ってな。空いてるか?』
「ええ。それではこちらへ」
召使の女に案内されて、城内を奥へと進んでいく。
案内されたのは、一つの泉のような大きな露天風呂。
「それでは、今係りの者を連れてきますので、少々お待ちを」
『ああ。ありがとう』
そう言うと、足早に風呂場をあとにする召使。
・・・・・・それにしても、なぜもう風呂の準備が整っているのか。不思議である・・・・・・。
風呂上り。さっぱりとした俺は、中庭で草花のカーペットの上で丸まっていた。
春とは、なぜこうも心地の良いものなのだろうか・・・・・・。
ん? 番犬の仕事? 知らんなそんなもの。
「あー! ケルベロスじゃない!」
静かな中庭に響くその声の主の方を向く。
『やあ、お嬢様』
その声の主は、魔王の娘であり、母の血を濃く受け継いだ白い肌に、薔薇のような真紅の髪を左右にまとめ、ツインテールにし、目鼻立ちの整った綺麗な顔に薄い胸。彼女が子供の時から俺とずっと一緒に過ごしていた少女。アイーダだった。
「ちょっと! お嬢様はやめてっていったでしょ? アイーダでいいわよ」
『そうか。で、アイーダはなんでこんなところに?』
「あたしは、人間界帰りよ。ほら、お土産」
アイーダが差し出したのは、美しい金色の首飾り。
「あんたの首に合うかわかんなかったから、何個かつなぎ合わせて来たわ」
たしかに、よく見ると接合のために溶かした跡がみられる。
「ほら、首出して」
言われるがままに首をアイーダの方へ向ける。
「よ、いしょっ・・・・・・と。オッケー。付けれたわ。一応いろいろと加護はかけといたから、役に立つといいんだけど・・・・・・」
『まあ、ここはまだ安全だからな。俺よりも、人間界によく行くお前が持っておいた方がいいんじゃないか?』
そう。彼女は、頻繁に人間界を訪れては、さまざまなものを持ち帰ってくるのだが、毎度毎度心配になる。
「心配してくれてるのかしら? 大丈夫よ。なんて言ったって、《七変化のアイーダ》様よ? 人間にばれないように魔力の質を変えるのだって、おちゃのこさいさいよ」
そう力強く宣言するアイーダ。
アイーダの能力は、その名の通り。様々なものを様々に変化させる能力なのだが、それについてはまた今度。
「じゃ、ちょっとだけいいかしら?」
『ん? ああ。わかった』
そして、いつも兵隊たちにやっているのと同じように首元をさらけ出す。
「あ、そうじゃなくて、いつもみたいに・・・・・・ね?」
そう言って、正座をして短いスカートから出る膝をこちらに向ける。
『そっちか。じゃ、失礼』
ごろりと寝っ転がり、頭をアイーダの膝に預ける。
と、アイーダの手が頭を優しくなでる。
「いい毛並みね・・・・・・。ここに来るまでにいろんな人に聞いたわよ。なんか、あんたすごい有名になってるじゃない」
『モフモフさせてるだけだがな』
「そうなの? なんか、子供の面倒を見てくれたって言ってたわよ?」
む。昨日の小僧たちか。そんなつもりは別になかったのだがな・・・・・・。
『そういうお前こそ、人間の世界はどうなんだ?』
「いいところもあるわよ。最悪なところは最悪だけどね・・・・・・。旅をしているうちに、友達もたくさんできたし、正直言って、自分から攻めたくはないわ」
よほど思い入れがあるのか、顔をあげ、上を見るアイーダ。
「・・・・・・そうだ! 何をしに中庭に来たのかすっかり忘れてたわ!」
思い出したというように手をたたく。
・・・・・・ちょっとびっくりして体が跳ねてしまったではないか。
「あ、あはは・・・・・・びっくりした? あっちでの癖でさ」
「てへへ」と頭をかくアイーダ。
『で、何を思い出したんだ?』
「薬草を取りに来たのよ。ちょっとごめんね」
俺は、少し寂しいが彼女の膝から頭を持ち上げる。
中庭には、常備たくさんの薬草が育てられている。そして、そのほとんどが、いわゆるアイーダのコレクション。アイーダは、王女でもあり、薬草マニアの研究者でもあるのだ。
「確かこの辺に・・・・・・あれ?」
焦った声が聞こえてくる。
「な、ない?! いつも植えてあるのに・・・・・・。ねえ、ケルベロス。あなたはさすがに知らないわよね・・・・・・」
ふうむ。薬草か・・・・・・。
『そういえば、昨日の朝食はやけに野菜が多かったな。それに、昨日はあんなにだるかったのに、今日はやけに調子がいいよな・・・・・・』
あれ? これってもしかして・・・・・・。
『俺が食べたかもしれん』
「え、えええ・・・・・・」
愕然とした表情をする彼女。
「はあ~~~。そう。じゃあ仕方ないわね」
大きなため息をついてその場に座り込む。
『何に使うつもりだったんだ?』
「人間界での資金稼ぎ。あっちではなんか病気が流行してるらしいから、売り込みたかったのよねえ・・・・・・」
少し悲しそうな表情をする。
そう言って、本当は助けたいだけなんだろうに。
『アイーダ』
俺はスクッと、立ち上がる。
『散歩に行かないか? いい山を知っているんだ。できれば、リュックと昼食を持って・・・・・・な』
俺の言葉に、彼女は表情を明るくする。
「じゃあ、門の前で待っててね! せっかくだから、あたしの腕前も見してあげるわ!」
そう言って、自分の部屋へと駆け出して行った。
・・・・・・彼女も、子供のときから変わんないな。
そう思いつつ、俺は門へと向かった。
最後までお読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか? いきなり通りすがりじゃなくなってる・・・・・・。次回もよろしくお願いします。