十七話 デイジーの買い物
シクル「な、なななんだ、なぜわたしが前書きに・・・・・・。す、ストレスにしかならないだろう!
・・・・・・えっ? そんなことない? い、いやいい! ほ、本編だ!」
「・・・・・・ああ。久しぶりにこんな笑ったな」
『俺もだよ。ここ最近は、こんなことなかったからな』
本当に久しぶりに声を上げて笑った。笑うって、こんな気持ちよかったっけかな。
ひとしきり笑った俺たちは、そんなことを話していた。
『さて、俺はそろそろ帰るとするよ』
「ん? なんだ。もう帰るのか? 飯でも食ってけよ」
『いや、飯はさっき食ってきたからな』
そうだ。今度あそこに魔王を連れて行こう。・・・・・・いや、さすがにまずいことになりそうだしやめておくか。
おっと、そう言えば一個聞いておきたいことがあるんだった。
『なあ、親父』
「どうした?」
『デイジーがどこにいるか知っているか?』
そう。デイジーに助言のお礼を言いに行かねばならない。あの助言がなかったら、俺もアレッタもどうなってたかわかったもんじゃないからな。
「デイジーか・・・・・・なんだ。あの時の助言が当たったのか?」
『ああ。正確には、”回避できた”って感じだがな』
当たっていたら俺はここにいないだろうし。
「そうだな・・・・・・。この時間なら、買い物のためにお前の小屋の前を通るんじゃないか?」
なるほど。いつも通りあそこで待っていればいいのか。
『わかったありがとうよ。じゃあな』
「おう。またもふもふさせてくれよ」
そう言って、俺は城を出て行った。
さて、場所は変わって俺はいつも通りの定位置につく。
今は真昼間。普段はここで昼寝をしているところだが、今日はそうもいかないからな。ちゃんと起きてないと。
「あの。番犬様」
話しかけてきたのは一人の若く、下半身が蛇の尻尾のようになっている長い青い髪のラミアらしき少女。
『どうした?』
「ちょっとモフモフさせてもらってもいいですか?」
『ああ、いいぞ』
「ありがとうございます」
倒れこむように俺の体に少女が飛び込んでくる。
最近は少なかったが、いつもはこんな感じで通りすがった人たちが俺をもふもふしに来ることがよくある。そして、言うならば俺のここでの唯一の仕事と言ってもいい。
これが唯一の仕事ってどうなんだろう。一回だけマトイに言われたことがあるが、ゆるキャラみたいな立場になっているんだが。
まあ、楽だしいいかな。
「・・・・・・気持ちいい」
少女が嬉しそうに呟く。
・・・・・・ま、この仕事も捨てたもんじゃあないってことだな。
「・・・・・・ありがとうございました」
少女が俺の体から離れる。
『もういいのか?』
「はい。私仕事があるんで。じゃあ、また」
『おう。いつでも来ていいからなー』
去っていく少女を見送る。
少し寂しそうな顔をしていた気がするが・・・・・・本人がいいというのならば俺は止めない。まあ、時々そういう悩みを持った人が来るときもあるから、不安になるんだがな。
少女から目を離し、俺はあたりを見渡す。と、お目当ての人物が目に入った。
ゆっくりと体を起こし、俺はその人物に近づいていく。
『やあ、デイジーの婆さん』
何やら大きな袋を手にしたデイジーに声をかける。
「おやおや。これはこれは番犬様じゃあないかえ」
デイジーがニコニコとした表情でこちらを向く。
「わざわざこっちまで来てもらって、どうしたんじゃ?」
『この前のお礼を言いに、な』
何のことか思い出したのか、「そうかい」と微笑む。
『で、だ。そのお礼と言ってはなんだが、何か手伝ってやれることはないか? そのぐらいしかできんのでな』
「そんなことはいいんだけどねぇ・・・・・・。じゃあ、せっかくだし一個頼もうかの」
デイジーが手に持った袋を俺に差し出す。
「わしのお買い物を手伝ってもらおうかの」
『わかった。そんなことでいいのならやるよ』
そう言って袋をもら・・・・・・。
・・・・・・貰う手がそもそもなかった。
言い出したからにはやらないと・・・・・・。《持つ》という能力すらないとは。犬である自覚がなくなってきてるな。まずいまずい。
変わりに俺は尻尾の先で受け取る。
「じゃ、着いておいで」
『ああ』
内心若干の冷や汗をかきながら俺はデイジーと大通りへと向かった。
―― ―― ―― ―― ――
人でごった返す大通りを一人の婆さんと一匹の大きな犬が歩く。
そして今。俺はとんでもなく後悔している。
まずは一つ目。
「番犬だー」
「犬だー」
「もふもふだー!」
光る俺の頭ほどの大きさの子供の妖精が俺にくっついてくること。だが、それだけならいいのだ。一人や二人。その程度なら。だが・・・・・・。
『おいお前ら。なんでそんなにいっぱいいるんだよ』
「さー」
「知らなーい」
俺の体覆い尽くすほどの数がくっついていた。
例えるなら・・・・・・そうだな。毛むくじゃらの発光体だな。いや、まず毛が見えないくらいくっつかれているからただの眩しい奴かもしれん。ちなみにだが、俺の顔にも何匹かついているため、すごい眩しい。
「ほっほっほ。賑やかでいいねえ」
すごい仏様のような微笑みでこっち見られても困るんだが。
「へい! そこの婆さん! いい魚入ってるよ! どうだ、見ていってくれ!」
「すまんねぇ、あいにく今日の献立は決まっていてねぇ」
「そうかい! じゃ、また今度寄ってってな!」
陽気な兄ちゃんの声。
さて、二つ目の理由だが。
「それにしても、今日は人が多いねぇ」
『そうだな』
とんでもない人数で通りが溢れていること。正直。俺すごい邪魔になってる気がする。まとわりつく妖精の明るさも含めて。
『ちなみに、今日は何を買いに来たんだ?』
「今日はね。お肉を買いに来たのよ。孫が帰ってきてのう。そのお祝いじゃ」
なるほど。孫のお祝いか。
すると、デイジーが一軒の店の前で止まる。
「ここじゃよ」
ここ・・・・・・って言われてもなあ。
中には人の姿が見えず、どう見ても繁盛していないようにしか見えない。
『ここなのか?』
不安になって思わず尋ねてしまう。
「そうじゃよ。おーい。デンちゃん」
扉を開け、誰かの名前を呼びながら中に入っていく。
それに着いて俺も中に・・・・・・。
・・・・・・いや、大きさ的に入れないわこれ。
『すまん。俺は外で待ってるよ』
「そうじゃな。そうしてくれ」
俺。何をしに来たんだろ・・・・・・。まあ、暗くなりそうだし深くは考えないでおこう。
「もふもふきもちー!」
「いいねー!」
「さいこー!」
『なんならもっともふもふに出来るぞ?』
「「「やってー!」」」
巨大化の能力を使って毛を大きくする。
「すっげー!」
「もっときもちいいー!」
「ずっといたーい」
俺は妖精たちと戯れていた。
なんといったって、やることが無いのだ。おそらく、デイジーは中で「デンちゃん」とやらと会話をしているのだろうな。
そんなことを考えていると、突然店の扉が開いた。
「ケルちゃんや。ちょっと袋を貸してくれんかの?」
『わかった』
それだけ言って、俺は尻尾をデイジーの方へ向ける。
「ありがとお。それじゃ、もうちょっとだけ待ってておくれ」
『ああ、俺はこいつらと遊んでるから気にしなくていいからな』
そういや、ここ何の店なんだろうな。
デイジーが中に入っていくのを見ながら、俺はふとそう思った。
そこからまた時間がたち、妖精達も帰ったころ。ようやく扉が開いた。
「待たせたのお」
『いいや、大丈夫だぞ』
パンパンになった袋を片手に持ったデイジーが戻ってきた。
・・・・・・パンパンなのに袋の中身が見当たらない?
そう。あれだけパンパンなのならば、ものの一つや二つはみ出しているはずだ。
『なあ、その袋の中。どうなっているんだ?』
「ん? ああ、これかい? これは《ナローバッグ》と言っての、入れたものが小さくなるんじゃよ。だから、そのおかげでものが入れ放題って言う便利なものじゃ。まあ、重さまでは変えられないという試作品らしいがの。友達からもらったのじゃ」
なるほど。そんな道具があったのか。ということは、あの中にその分のものが入っていると。
『それじゃ、ここからは俺が持つよ』
そう言って尻尾を向ける。
「ほんとかの? ものすごく重いから、能力は使っておいた方がええぞ?」
いや、そんなこと言われても、そんな重そうに見えないしなあ。
『まあ、任せろ』
「じゃあ、ここに置くから持ち上げてごらん」
そう言って、ゆっくりと地面に袋を下ろす。そして俺は、その持ち手に尻尾を通して持ち上げ・・・・・・。
・・・・・・られない。
何これ重すぎやしないか? びくともしないんだが。
・・・・・・そういや、”入れたものが重さはそのまんまに小さくなる”って言ってたが・・・・・・小さくしたものでこんなにパンパンだとしたら・・・・・・。
俺は尻尾に魔力を流す。そして、俺の持つ最大の力で袋を持ち上げる。
すると、なんとか運べる高さまでは上げることができた。
「おお。やるじゃないか」
『こ、これでもう最大出力なんだがな・・・・・・』
「そうかい。ま、無理せんでな。ついておいで」
歩き出すデイジーの後ろを、袋の重さでふらふらしながらついていく。
こんな重いものを運べるなんて、この婆さん本当に何者だよ。
・・・・・・そう言えば、さっき片手で持ってたな。
・・・・・・まじかよ。
重さに意識を向けたら負けだ。俺はデイジーに一つ尋ねる。
『なあ、どこに行くんだい?』
「なあに、最初に言ったろう? 今日は孫のお祝いじゃと」
デイジーが振り返らずにこう言う。
「わしの家じゃよ」
シクル「さ、最後まで読んでくれてありがとう。ど、どうだったのだ? わ、わたしには面白いかどうかなんてさっぱりなのだが・・・・・・。しょ、正直に言ってくれていいからな? じゃ、じゃあ、次回もよろしく頼む」