十六話 報告ナウ!
ケルベロス『ん? なんだ。今日は俺なのか。まあ、前書きなんてなんも言うことないんだけどな。一つ言いたいこととしては、俺の名前もうちょっとかっこいい名前にできなかったのか? さすがにこれは呼びにくいと思うんだ。・・・・・・まあいい。本編だ。楽しんでいってくれ』
「会いに来てくれたんだね息子よー!」
城の中に入るやいなや、魔王に出迎えられる。
『おい兵士さん』
「はっ! 何でしょう!」
俺は魔王を呼びに行ったはずの兵士を呼ぶと、耳元で小声で囁く。
『なあ、俺が呼んだのは親父じゃなくて魔王なんだが』
「はっ! 魔王様の姿がお見えになりませんでしたので代わりにこの方をお呼びしました!」
「ねえ、聞こえてるからね? というか、兵士くんノリよくない?」
「おもしろそうだったのでつい!」
『よろしい。お前には俺をもふもふする権利をやろう』
「ありがとうございます!」
「ごめん。これのツッコミ方は俺知らないわ」
ノリのいい兵士が俺の体に飛び込んでくる。
『ま、これにツッコめないお前は今日はもふもふ禁止な』
「ええっ?! ひどい!」
なんかこのやり取りを聞いて、俺に抱きついている兵士が笑いをこらえてるな。そんなおもしろいのか?
おっと、そんなことより。俺は報告に来たんだった。
『おい魔王。本題だ』
「わー。ここまですんなり雑に扱われるとちょっと落ち込むなー」
『そういうキャラなんだから受け入れろ』
「俺そういうキャラなの?! てか、なんか一瞬メタくなかった?」
メタ? なんだそれ。初めて聞くな。
とまあ、からかうのは置いといて、報告だよ報告。
『おい。報告するぞ。まず・・・・・・軽いのかちょっと不安になるやつかどっちがいい?』
「えっ、そんなにあったの? てか、いつ調査に行ったの?」
『子供と遊んだ時にな』
「子供と遊ぶ時に見つけた報告事項て・・・・・・」
いや、何気に重要なのもあったからな。結構いっぱい。
『で、どっちがいい?』
「不安な方からで」
なるほど。そっちから行くか。じゃあ、まずは・・・・・・。
『でかい蜂の巣あったから駆除頼む』
「全然不安要素じゃないんだけど?! というか、それは業者の人に頼めばいいんじゃないかな。俺やだよ? 蜂と戦うとか」
あ、そんな業者あったんだ。知らなかった。
『ま、よろしく』
「ええー・・・・・・。はあ、仕方がない。後で電話かけるかな」
ため息を吐きながら胸元から出したメモ帳に書き込む。
「で、他には?」
他ねぇ・・・・・・。
『あ、人面魚の湖。あれいる? 個人的には埋めて欲しいな』
もう二度とあんなことにはなりたくないからな。
「・・・・・・ねえ、冷やかし? 冷やかしなの?」
『いや、いたって真面目だぞ』
「真面目なの?!」
いや、そんな驚かなくてもいいだろ。俺真面目に報告しに来てるから。・・・・・・そう。マジメニ。
「というか、それって郊外のあの湖か?」
『ああ、そうだぞ』
「あそこたしか、人面魚の研究施設じゃなかったか? まだ何人かが使ってると思うぞ?」
だったら柵つけろや。思わずそう言いそうになった。いや、事故ったら大変だよ? あそこ。
まあ、冗談はこの変にして・・・・・・。
『ここからは真面目な話だ』
空気が変わったのを感じたのか、魔王の目が真剣になる。
「・・・・・・なんだ?」
そこで、俺は昨日あったことを話し始める。
《サンド》と出会ったこと。
そして、《サンド》と話したこと。
アレッタがその血族だったこと。————まあ、これは省いてもよかったかもしれないが。
そして、正体不明の《魔法陣》のことと洞窟のこと。
『以上だ』
話し終えて、少しの沈黙が流れる。
珍しく魔王が口を挟まずに真剣に聞き、今は悩むように頭を掻いている。
「うーん・・・・・・。さっきまでの冗談なんかよりもよっぽど重要じゃないか」
『まあ、そうだな』
ちなみに、不安になるやつってのは、俺目線からだからな。正直俺にとっては魔法陣よりもこっちの二つを優先したいぐらいだ。いや、ほんとに。
「・・・・・・まあ、その魔法陣の件は保留にしよう。洞窟には結界を張っておくよ。あと、《サンド》との会話の記録は千年間分からなかった《サンド》への貴重な資料になる。・・・・・・たかが子供との遊びでなんでここまでの報告ができるんだ?」
『いや、知らんよ』
まず、自分から調査しに行ったわけでもないし、報告しようとなんて思ってなかったし。
と、俺は一人、忘れていた人物を思い出す。
『おい。ノリのいい兵士』
「はい! なんでしょう!」
『そろそろ離れてもらってもいいかな?』
「はい! ありがとうございました!」
言うとうりにササっと俺の体から離れる。
さて、報告も済ませたしこれ以上やることはないな。
『じゃ、俺は帰るよ』
「え? 帰っちゃうの?」
まるで、「まだやることがあるでしょ」といったような視線を向けてくる。が、俺はそれを無視して背を向け・・・・・・。
『じゃあな』
「待って! せめてもふもふさせてー!」
はあ、この前もふもふさせたばかりだというのに。
『というか、俺は一番最初に行ったぞ。今日はもふもふ禁止って』
「えー。いーじゃん別にー」
駄々っ子のように口をとがらせて反論してくる。
親バカ・・・・・・なのかな?
『はあ、仕方がないな。ほれ、ちょっとだけだぞ!』
「ヒャッハー! 息子よありがとー!」
いい年した親が言う台詞じゃないだろ「ヒャッハー」とか。息子として恥ずかしいよ。ほら、さっきのノリのいい兵士が見てんじゃん。
『おい。ノリのいい兵士』
「はっ! なんでしょうか?」
『こいつどう思う?』
俺の問い掛けに少しだけ悩んだあと、兵士は笑みを浮かべながらこう言った。
「微笑ましくていいんじゃないでしょうか!」
なるほどな。傍から見ればこのやり取りは微笑ましいものに見えるのか。
『おい。魔王』
「んー? 今は俺親父って呼んでよー」
いや、こんなやつを親父って呼びたくないんだが・・・・・・まあいい。
『親父』
「なんだー?」
一瞬の間。俺は出かけた言葉を飲みこみ、別の言葉を伝える。
『俺ら、見てて微笑ましい家族に見えるらしいぞ』
「はっはっは! いいじゃないか!」
俺の毛に顔をうずめたまま魔王が笑う。
それを聞いた俺も、だんだんと自然に顔がほころんでくる。
その日、俺は久しぶりに、大声を上げて笑った。
ケルベロス『最後まで読んでくれてありがとな。どうだったか? なんか、今回の話はちょっと照れくさいな・・・・・・』
魔王「息子よーーー! 最高だぞーーー!」
ケルベロス『おい! 今は俺の番だから! ・・・・・・はあ。ま、次回もよろしくな』