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十五話 ジミーの”新メニュー”!

アイーダ「なんか知らないけど、前書きに呼ばれたわ。何も言うことはないんだけどね。・・・・・・ま、よかったら見てってね」


 番犬である俺の朝は早い。

 遠吠えをして街の住民を起こし、次にするのは兵士たちの心のケア。

 とか格好よく言ったが、実際はもふもふさせるだけなのだがな。

 とまあ、久々にこんないつも道理の朝の紹介を済まし、俺は小屋へと戻る。

 なぜなら、おそらく今日は······。


「おはようございま~す! 《快床商店》でーす!」


 こいつが来るからだ。


『マトイ。お前ほんと毎朝来るけど、仕事は大丈夫なのか?』

「大丈夫大丈夫! 俺夜型だから!」


 そういう問題なのか。


『で、用は?』


 俺はいつも道理の質問を投げ掛ける。


「そりゃあもちろん!」


 まるで、どこぞのしつこい店の店員見たいな笑顔を浮かべて言う。


「飯! 行きましょ?」

『そうだろうとは思ってたよ······』


 めんどくさいのか、しつこくて呆れているのか、俺は大きなため息を心の中で吐いた。

 まあ、ちょっとばかし誘ってくれるのは嬉しいんだがな。


 ―― ―― ―― ―― ――


「へいらっしゃい! 《巨人定食屋》だよ!」


 元気な声で出迎えられたのは、二回目となる巨人定食屋の中。


「おいマトイぃ! そりゃあ店長の俺のセリフだぜ!」

「ん? そうだっけか?」


 いや、あの声お前なんかい。ちょっと困惑したわ。


「まあいい。おら。適当に座れ。俺は作ってくるから」

「頼んだぜジミー!」

『よろしく頼む』


 ジミーが厨房の奥へと消えていくのを俺とマトイが眺める。


「さーて。今日の飯は何かな~っと」

『なんだ。お前も知らないのか?』

「ん? そうだよ? なんか、新メニューらしいから出てきてからのお楽しみらしい」


 ふむ。新メニューか。否応にも期待が高まってしまうではないか。

 俺は、何か予想しようと匂いを嗅ぐ。

 ······なんか変な臭いがする。


『なあ。変な臭いするけど大丈夫か?』

「ん? 匂い嗅いだのか? そうだな。ときどきジミーが妙に張り切ってるときはとんでもない料理が出たりもするけど。今日は普通そうだったし。大丈夫だろう」


 いや。この匂いは······。

 マトイの言うことを信じて期待しないでおこうかな。


「······なあケル。お前最近なんか強敵かなんかと戦ったか?」


 唐突にマトイが尋ねる。


『なんだ。確かに出会ったが、なんでわかるんだ?』


 俺は聞き返す。こいつは俺が《サンド》と出会ったことは知らないはずだが······。


「いや。なんか、最近は魔力がだんだん戻ってきたみたいでさ。俺は《魔力感知(マジックセンサー)》を持ってるからさ。そのリハビリみたいな感じで、魔力を感知して最近出会ったやつの強さを聞いてるんだよ。ついでに、そいつとの話を聞かせてくんない?」


 リハビリで当てられるって怖いな。そんで、あいつとの話か······。


『ま、飯がくるまでな』


 俺は、昨日のことを話始めた。

 いずれにしろ、今日はこのあと魔王にも全く同じ話をしようと思ってたし、いい練習になる。


「なるほど。そのアレッタって言う子が《サンド》の血族だっただな。それにしても、《サンド》か・・・・・・」


 懐かしそうに呟く。


『なんだ? お前は《サンド》のことを知っているのか?』

「いやあ。知ってるも何も、最初上陸したときに一番最初にあたった壁が《サンド》の砂嵐だったからなあ。・・・・・・あいつさえいなければ俺はもっと楽にこっちまで来れたのに」


 いや、これは懐かしいんじゃなくて因縁だったわ。

 というか、もしかして《サンド》が足止めしててくれなかったら俺たちは・・・・・・。

 いや、過去は思い出さない。今を見るのだ今を。

 カランカラン。

 入口のベルが新たな客の来店を伝える。


「よおジミー・・・・・・じゃなくて、今回はお前らのお出迎えかい?」

「よおベル!」


 やって来たのは、俺の因縁の巨人ベル。


『ど、どうも・・・・・・って、酒くさっ!』

「んー? そうかー? 昨日は飲み会があったからなあ」


 くっ。なんて時に来てくれたんだこいつは。昔のトラウマが・・・・・・。


「・・・・・・? 番犬様ー? 顔色悪くねえかー?」

『そ、そうか? べ、別に・・・・・・』

「おい何言ってんだベル。そもそも顔色なんて伺えねえだろこいつは。犬的な意味で」


 犬的な意味ってなんだ。まあ、俺も顔色って言われて違和感なかったけど。よくよく考えたら確かにそうなんだよな。いや、これ何の話だよ。


「んー? いや、なんとなくさあ・・・・・・。まあいいや」


 うん。そっちの方が助かる。


「へいお待ち! 新メニューの《クラーケンパスタ》だよ! っと、ベルも来たのか。ちょっと待っとけよ」


 二つの大きな皿が前に置かれる。


「おーう。頼むぜ」

「ありがとよ! ジミー!」

『・・・・・・ありがとう』

「おう! よかったら感想を聞かせてくれよな!」


 やり切ったというような笑顔でジミーが厨房へ戻る。

 そして俺は、前の《物体》を目にして固まる。

 真っ黒な液体にどっぷり浸かった太麺パスタ(一応面麺の太さは人間サイズに合わせてあるし、少なめにしてもらった)。魚臭いし、正直言って、魔女がゾンビを煮て作ったようにしか見えない。


『・・・・・・おい。マトイ』


 ちらりとマトイの方を見ると。


「ヒャッホー! 久しぶりの《イカ墨パスタ》だ!」


 俺とは正反対に満面の笑みを浮かべていた。


『い、《イカ墨パスタ》?』

「ああ! ソースにイカ墨を混ぜてからめるんだけど、俺はこれが大好きでさ! 元居た世界じゃ週三で食いに行ってたぜ!」


 こ、これを週三?

 困惑する俺をよそに、マトイが大きなスプーンを手に取る。


「いっただきまーす!」


 口いっぱいに麺を啜り、イカ墨が口の周りにべったりと付く。


「うん! うまい! これだよこれ! ケルも食ってみろって!」


 ・・・・・・まじかよ。

 ゴクリとのどを鳴らす。”初めて”というのは怖いものだな。

 ちなみに、さっきから空気になっているベルはというと、昨日の飲み会の影響かウトウトしている。

 俺は、覚悟を決めて体の巨大化をする。


『・・・・・・ほんとに美味いんだろうな?』

むまいむまい(うまいうまい)


 大量の麺が詰まった真っ黒な口を開けてもごもごと肯定する。

 ・・・・・・出されたもんは食べるが道義。いざ!

 俺は覚悟を決めて皿に口を突っ込む!

 一口、一噛み。そしてのどを通り・・・・・・。


『・・・・・・うまい』

「だろ?」


 口の周りが真っ黒になっているマトイがどや顔でそう言ってくる。

 いや、作ったのお前じゃないだろうが。ってツッコミたいが、今は美味しさの余韻に浸る。

 ダークマターのような真っ黒な見た目とは裏腹に、やわらかいコクと旨味が口の中に広がる。正直言って、ここまでとは思っていなかった。

 クラーケン。俺はお前を少し好きになったぞ。


「ジミー! おかわり!」

「待ってろー! 今持ってくからー!」

『ジミー。俺も頼む』

「ん? なんだ、そんなにおいしかったのかー?」


 一皿をぺろりと平らげ、俺はさりげなくおかわりを頼んだ。


 ―― ―― ―― ―― ――


「いや~! 食った食った! 久しぶりに食べたからめちゃくちゃおいしかったな!」

『そうか。よかったな』


 俺も何気に気に入ってしまったしな。出てくる前はびくびくしていたが、食べてよかった。

 まあ、一番ほっとしたのはベルがあの後勝手に寝て何もされなかったことかな。


『あ、そういえば』

「ん? どうした?」

『お前俺の毛持ってかないのか?』

「あ~。どうしようかな・・・・・・」


 今は春。俺は生え変わりの時期だから、いつもより多めに抜けてしまうのだ。まあ、抜けてもすぐに生える体質だから特に支障はないんだがな。


「ま、まだ残ってるけど貰ってこっかな」

『おう。持って行ってくれ。できれば、今度製作しているところも見てみたいな』

「ん~。ま、それは気が向いたらな」


 そう言って、眠そうにあくびをする。

 気づけばもう俺の小屋の前。


『じゃあ、俺はこのまま魔王への報告があるから』

「おう。じゃあな」

『ああ。またな』


 少し楽しかったぞ。なんて、照れくさくて言えなかった。

 俺はマトイと別れ、魔王城への橋を渡った。 

アイーダ「最後まで読んでくれてありがとう! どうだったかしら? そういえば、なんでここに呼ばれたのかしら・・・・・・えっ? 最近出番がないから? ・・・・・・う、うるさいわね! また今度わたしの回があるからそこまでまちなさい! ・・・・・・はあ。じゃ、またよかったら次も見てね!」

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