十四話 探検終了!
ちびっこばんけんたい編 ラストです!
《サンド》が乗り移った反動か、グッスリと眠っているアレッタを背に乗せて水の滴る洞窟を戻る。
まったく。ただの遊びだったはずなのに気づけば五大凶王と出会うとは。それに、報告することもたくさん・・・・・・。
大丈夫かこの国。
そんなことを考えているうちに洞窟の出口が見えてくる。
そういえば、カイ達はちゃんと待ってくれているだろうか。
どれほど凶王の元へ居たかわからないから、余計不安になってくる。
だが、そんな心配は出口を出た瞬間どこかへ行ってしまった。
「「「「隊長ーーーー!」」」」
四人の子供達が俺の体に飛び込んでくる。
「無事でよかったー!」
「おかえりー!」
「アレッタ連れてきてくれてありがとう!」
「心配したぜ・・・・・・」
みんなが口々に喜びの言葉を発する。
なんだろう。三百年のなかで一番心にじんわり来てる。
『ほら。ここだとあれだから水辺の方へ行こう』
「「「「はーーーい!」」」」
元気な返事が返ってくる。
「んにゃ・・・・・・」
元気な声に反応したのか、元気な方のアレッタが目を覚ます。
『起きたか。アレッタ』
「へ?」
寝起きでぼんやりしているのか、眠そうに目をかくアレッタ。
「・・・・・・ここどこ?」
『洞窟の前だ。今からさっきの水辺に戻るぞ』
洞窟の前と言われてもピンとこないのか、首を傾げる。
『なんだ、覚えてないのか?』
「うーん。ご飯食べてレンとカイに誘われたところから記憶が・・・・・・」
記憶がない? 不思議な話もあるものだ。
『ふらふらと洞窟に入ってったらしいぞ?』
「あたしが? ・・・・・・ダメだ。思い出せないわ。・・・・・・あっ、でも、なんかに引き寄せられた感覚だけはあるかな・・・・・・」
引き寄せられた感覚・・・・・・か。
『《サンド》に出会ったのは覚えてないのか?』
「《サンド》? ・・・・・・凶王の?!」
アレッタが驚きで体をビクリと揺らす。
『なんだ。凶王を知っているのか』
「・・・・・・あたし何気に頭いいのよ?」
『それは意外だな』
「あー! バカにしたー!」
アレッタがわしゃわしゃと俺の体を触る。
怒っているのか知らないが、俺の毛並みをそんなに乱暴にわしゃわしゃしないでくれ。生え変わりの時期だから抜けるんだよ。
「わっ! めっちゃ抜けた!」
『《快床》に持ってけば売れるんじゃないか?』
「へー・・・・・・じゃなくて! 何? あたし《サンド》様に会ったの?」
アレッタが手の中の俺の毛をまじまじと見ながらそう尋ねてくる。
『ああ。そうだぞ』
「そっか・・・・・・。なんか、あたしの一族って、《サンド》様の血族らしいのよ。だから、挨拶ぐらいしたかったなーって」
『顔も知らないのにか?』
「すごい人だっていうのは知ってるからね。それに、ご先祖さまに挨拶するのは普通でしょ?」
いや、俺には先祖がいないからなぁ。わかりかねる。
『あと、そいつの名前は《サンド》じゃないぞ』
「え? そんなはずないわよ? だって、代々そう教えられてきたんだから」
何? 代々そう教えられてきた?
『でも、あいつは自分の名前なんて忘れたって言っていたぞ?』
「そうなの? うーん。なんでだろう?」
『いや俺に聞かれても』
まぁ、おそらくは《サンド》の一体に吸収されたときに、記憶が一部飛んだということだろうか。
「あーあ。見たかったなあ・・・・・・。ねえ、また会える?」
『どうだろうなぁ・・・・・・』
さっきまでの話を聞く限り、あいつが乗り移れたのはアレッタがあいつの血族だからだろうし・・・・・・。そう考えると・・・・・・。
「ねえ、どう思う?」
『ま、いつか出会えるんじゃないか?』
「えー。それ絶対に会えないやつじゃん」
アレッタががっくしとうなだれる。
適当なことを言ってしまったが、まあ大丈夫だろう。
いつかあいつに伝えておくか・・・・・・。
まず会えるか不安だが。
「アレッタ! ・・・・・・姉ちゃん?」
サリーがどちらの方か尋ねながらやって来る。
「おう。姉ちゃんの方だぞー」
「ねえ! お花畑があったから、お花摘みしようよ!」
「いいよ」
そう言って、二人で駆けていく。
・・・・・・郊外に花畑なんてあったっけか?
まあいい。俺は疲れたし、魔力の補給も兼ねて寝るとするか。その前に、水分補給を・・・・・・。
湖の水に口をつける。そこに奴らがいるのを忘れて。
『・・・・・・』
あー。忘れてた。
そう思うも時すでに遅し。口を水から離すと大量の人面魚が口の周りにくっついてきた。
舌で舐めとるのもなぁ・・・・・・。よし。一つ思いついたことがあるので試そう。
口周りの人面魚の周りにある俺の毛に魔力を流し込む。
・・・・・・何気に難しなぁ。
『フンッ!』
なかなか操れない苛立ちを込めて毛に魔力を流し込み、ハリセンボンの針のように硬質化して全方位に突き刺す。
案の定。硬質化した毛が人面魚たちを貫いた。
何本か自分に刺さって痛いけど、我慢しよう。
『・・・・・・この人面魚どうしよう・・・・・・』
誰かいないかな・・・・・・。
人面魚を取ってもらおうとカイ達を探す。が、サリーとアレッタは花を摘みに、カイとレンは洞窟の周りを探検に。アランは爆睡中・・・・・・。
仕方がない。湖で洗うか。
ジャポンと、口の先を湖に・・・・・・。
・・・・・・何やってんだ俺。
さすがにこれは自分の阿呆さを疑った。
「隊長ただいまー! 見て! お花いっぱい! ・・・・・・隊長その口どうしたの?」
「帰ったぞ・・・・・・って、口の周りが血まみれだけど大丈夫か?」
『安心しろ、人面魚の返り血だ』
我ながら恥ずかしい。あの後、わざわざ洞窟まで口を洗いに行ったのに、また湖に口をつけて、もうめんどくさいから洗いに行かないなんて言えない。
カイ。俺はお前を越したぞ・・・・・・。
「まぁいいわ! はい! これ! 黒薔薇よ! 付けてあげる!」
そう言って、俺の耳元に差し込む。
・・・・・・たしか、これの花言葉って・・・・・・。
ま、まあ、子供の純粋さに免じて忘れたことにしよう。
「それの花言葉って、『恨み』とか『憎しみ』ていうのがあるらしいわね」
知ってるんかい!
『そ、そうだな。ちょっと怖くないか?』
「もしもそういうことがあったら、この花を身代わりにしてあげてね!」
・・・・・・いや、純粋無垢とはこの子のことを言うのだろうか。
『あ、ああ。ありがとうな』
「どういたしまして!」
天使にさえ思えてくるサリーの笑顔。
やだおじさんベタ惚れ。
っと、柄でもないことを思ってしまった。
「はは。子供ってのはおもしろいな」
『おもしろいが・・・・・・。うむ。何とも言えん』
ほんとうに言葉が出てこない。
「あたしもこの花貰ったよ。黄色い秋桜。花言葉は・・・・・・なんだっけか?」
『《野性的な美しさ》だな』
「う、うーん。いいのか・・・・・・な?」
ぴったりじゃないか。なんて言ったらまた毛抜かされそうだからやめとこう。
「隊長ー! 戻ったよー!」
元気な声が後から聞こえてくる。
『おう。おかえ』
「見てこれー!」
カイが俺の目の前に差し出したのは、人の顔が付いた蝶。
俺はたしか、前にちょっとだけ言った気がするが、ここでもう一度。
「・・・・・・? 隊長どうしたの? ほら! 見て見て!」
「カイ。やめてあげな・・・・・・」
察したアレッタがそう促してくれる。
「・・・・・・? はーい」
俺は虫が苦手。いや、“大嫌い”なのだ。
『よし。そろそろ夜だから帰るぞ』
「「「はーい」」」
だんだんと日が暮れてきた頃。俺たちは帰る用意をしていた。
「隊長ー! 最後にまたお花摘みに行っていいー?」
『いいけど、危ないから誰かと行ってくれよ』
「はーい! アレッタ行こー!」
「はいよ。じゃあ行ってくるわ」
また花を摘みに行った二人を見送る。
「隊長ー! 新しい虫見つけたー!」
『よかったな。カイ。たが絶対に俺の視界に入れないでくれ』
「見て見てー!」
『俺の話聞いてた?』
カイの手がグーになっているのが怖すぎる。虫よ・・・・・・同情するぜ。
「痛っ! か、噛まれた!」
カイが痛みに顔を顰め、手の中のものを解き放つ。
そしてその虫は、ふらふらと、空中を漂って・・・・・・。
俺の頭に止まった。
そして、今日修得した毛の硬化を全身で無言で発動。
「うわぁ! び、びっくりした・・・・・・」
カイの驚く声。だが、今の俺はそれどころではない。
なぜなら、突き刺したところから虫の言葉にするのも嫌なほどの液体が・・・・・・。
魔王に追いかけられた時の十倍ぐらいの鳥肌が立った。
「ただいまー! ・・・・・・なんかまた血が増えてない?」
「帰ったぞー・・・・・・あんた大丈夫? 血がすごいけど」
『安心しろ。全然平気だから』
今日の俺の頭は平気じゃないが。
あの後、頭を洗おうとしてまた湖に頭を・・・・・・。いや、そんなの知らない。夢だよ夢。・・・・・・うん。
『じゃあ帰るぞー。用意はいいかー』
「大丈夫だよー!」
「帰りたくなーい!」
「楽しかったわ!」
「また来たいんだぜ」
『じゃ、行くぞー』
五人を背に乗せて夕日で照らされる帰り道を進む。
『楽しかったか?』
「「「「楽しかったーー!」」」」
口を揃えて答えてくれる。
『そうか。よかったよ』
なんだか、俺の心まで温かくなってくる。それが、夕日のせいか、子供たちの笑顔かは知らないが。
カイから順番に送っていく。毎度「ありがとう」と言われるのは、妙に照れくさかった。
そして、最後に残ったのはアレッタ。
「いやー! だいぶ静かになっちゃったね!」
『そうだな。あいつらがどれほど騒がしいかがよくわかる』
そう言って俺は微笑む。
ほんとに、騒がしいやつらだった・・・・・・。と、背のアレッタの方を見ると、ニヤニヤとこちらを見ている。
『おい、なんだその顔は』
「えー? いやー。番犬様にもカワイイところがあるんだなーって」
うっ。なんだかすごい恥ずかしい。
返す言葉に迷っていると、アレッタが口を開いた。
「で? 次回の予定は?」
次回・・・・・・か。
『また今度かな』
「行く気満々じゃーん! かーわいい!」
『おい! 別に今のは関係ないだろ! ・・・・・・わしゃわしゃするな! 抜ける抜ける!』
「うわっ! さっきよりいっぱい抜けた!」
言わんこっちゃない! というか、さっきからなんなのだこいつは。
「あ、あたしこの辺だから降りるねー」
と言いつつ降りてもなお俺の体をわしゃわしゃする。
『おい! いい加減わしゃわしゃするのを』
「隊長ー」
俺の言葉を遮ってアレッタが言う。
「楽しかったよ! ありがとう!」
・・・・・・慣れないもんだな。こういうのは。
『どうも』
「えー! それだけー?」
『な、慣れてないんだ。すまんな』
もふもふさせて感謝してもらうのには慣れてるんだがな。
「ま、じゃねー!」
『おう。じゃあな』
アレッタを見送る。
そして、俺は春の暖かい穏やかな風を受けながら、自分の小屋へと帰っていった。
『・・・・・・明日の報告めんどくさいなあ』
いらないことを思い出しながら。
最後までお読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか? ここでちびっこばんけんたい編が終了になります! では、次回からもよろしくお願いします!