十三話 五大凶王 《土のサンド》
最近。週間ユニークユーザー数が百人を突破しました。ありがとうございます。ということで、また番犬祭をしようと思います。予告はまた後日。
※訂正しました。六百年→千年
魔法陣の光に飲まれ、目を開けると、そこは砂嵐の吹き荒れる砂漠だった。
『・・・・・・砂漠など、魔王街から西へ遠く離れたところにしかなかったはずだが』
おそらく、ここがその魔界の西端。《無の砂漠》なのだろう。
なぜ《無の砂漠》と呼ばれるのか。それは、辺りを見回してすぐに気づく。
『噂通りだな。生物の気配どころか、植物の一つ・・・・・・いや、魔力すらないのか・・・・・・?』
感じ取るかぎり、生物の気配は皆無。植物もなし。そして何故か、魔界に満ちている魔力すら見当たらない。
そう。これこそが《無の砂漠》。生き物どころか、魔力すら存在することが出来ない。“なにも無い砂漠”なのだと。
そして、俺はもうひとつの違和感に気づく。
『・・・・・・魔力がないどころか、魔力を吸い取るのか』
体から、魔力が抜けていくのがわかる。それがこの地形の効果なのか、それとも、なにか別の謎の存在によるものなのか。
『とりあえず。手早くアレッタを探さなければ・・・・・・』
この環境だと、アレッタの命どころか、俺の命すら危ない。
と、微かに生き物の気配がぽっと現れる。
『遠いが・・・・・・』
アレッタの命には変えられない。
俺は、微かな気配を追った。
程なくして、気配の元にたどり着く。
砂嵐で影しか見えないが、あのシルエットはおそらく・・・・・・。
『アレッタ!』
俺は確信を持って呼びかける。が、反応がない。
『おい! アレッタ!』
続けざまにそう呼ぶと、思わぬ反応をされた。
「アレッタとは、この女子のことか?」
その声に抑揚はなく。威圧するとも、優しく問いかけるとも取れぬその感情のない声。だが、それを聞いた瞬間。俺は大きく後ろに飛び退いた。
なんだ・・・・・・この圧は?!
『お前・・・・・・いったい・・・・・・』
俺は声を振り絞る。
「む? どうした? ・・・・・・っと、自己紹介がまだじゃの」
可愛げな少女の見た目に似合わない口調でそう話す。
「わたしは・・・・・・そうじゃな。お主らの言い方じゃと、《五大凶王》だったかの? その中の一人・・・・・・いや、一つと言った方が正しいかの。《サンド》という」
《サンド》・・・・・・?!
俺はその一言を聞いて固まる。
この魔界の周りは、五つの属性の”王”の領域で囲まれていることで守られている。
ロスト大陸を囲む海の《アクア》。大陸内では、北の《アイス》。東の《リーフ》。南の《ファイア》。そして、西の《サンド》。
そのうちの一人。《サンド》が、目の前にいる・・・・・・だと?
二人の間に沈黙が流れる。
「・・・・・・して、おぬし。どこから来た?」
先に口を開いたのは、サンドの方だった。
『・・・・・・誰が置いたのかは知らないが、おそらく、その女の子・・・・・・アレッタが入って来た魔法陣からだ。あの魔法陣を置いたのは貴方か?』
「魔法陣・・・・・・?」
それを聞いた瞬間。吹き荒れていた砂嵐が止んだ。
「なんじゃ! 自分から渡って来たんじゃないのか! 警戒して損したわ!」
・・・・・・なんか逆切れされてるんだが。
「は~~・・・・・・。すまんの。ここまで来れる者とあっては、かなりの手練れだと思ったのでな。少し警戒してしまったのだ。老いぼれに免じて許せ」
『は、はあ』
俺にはそんなとぼけた返事しかできない。
その姿で老いぼれとか言われてもってツッコミたかったが、何より、さっきまでの威圧の余韻がすごい。
「ま、せっかくじゃから、このサンドになんでも聞くがよい」
・・・・・・急な展開だが、ここはお言葉に甘えていろいろと聞こうか。
『そ、そうか・・・・・・じゃあ、まず。なんでアレッタ・・・・・・その女の子に貴方が入っているのですか?』
「うむ。やはりそのことか。まあ・・・・・・簡単に言えば、”水を吸った砂人”だったからかの」
『水を吸った・・・・・・?』
「そう。わしは、言わば濡れた手につく砂じゃ。だから、水を吸ったこの女子・・・・・・アレッタといったかの? に、わしの意識を付けれたって感じかの。なんじゃ。雨でも降っとったのか?」
そういえば、あの魔法陣の前の洞窟の中は、雨のように水が滴っていたな・・・・・・。そのせいか。
『そうだな。魔法陣が置かれていた洞窟は水が上からしたた滴っていたからな』
「ふむ。なるほどな。ちなみにじゃが、その魔法陣とやらはだれが置いたのかの?」
『貴方が置いたんじゃないのか?』
「知らんよわしはそんなもの。そもそも、わしに実体はないのだ」
魔法陣はサンドのものじゃない・・・・・・。というか、実体がない?
『実体がないって言うのはどういうことだ?』
「うむ。先ほどの砂嵐の説明とか、わしの過去とかで長くなるのだがの・・・・・・。《サンド》というのは、わしが昔・・・・・・千年ほど前かの。学者のころに造り出した”魔物”の一種なのだよ」
サンド・・・・・・ではないな、サンドの生みの親である学者の砂人————名前は覚えてないそうだ————の話をまとめると。
彼は昔。魔王が産まれる前にあった王国で、有名な生物学者だったらしい。
そして、その年は三千年に一度の、一年中雨が降る”神の涙”という現象が起こる年だったそうだ。
その時代にも、五大凶王はいたそうなのだが、西を守っていた元が、寿命と長い雨により絶命してしまったそうなのだ。
そこで、その時の国王が彼に言ったのだという。
「あらたな凶王を造れ」と。
そうして、不本意ながら造り出したのがこの今の《サンド》。先ほど吹き荒れていた砂粒の一つ一つがすべて《サンド》の分身だというのだ。
この《サンド》というのは、敵に回すと非常に厄介なもので、ひとたび敵と認識した者が現れれば、自ら砂嵐を引き起こし、さらには固有能力の《ドレイン》によって魔力と水分を体から奪っていくという。
一体一体ではどうにもならないところだが、そこは数の暴力だという。
だが、親である彼にも寿命はある。誰かが制御しなければならない。苦肉の策で最後に行ったのが、《サンド》による《砂人》の吸収。自らを一体の《サンド》に吸収させ、《サンド》の核となったのだと。
だが、最近は制御が効かなくなっているという。
「とまあ、長かったがこんなところよ」
『なるほどな・・・・・・』
凶王も、いろいろあったんだな。
「ふう。なんじゃ、久しぶりに喋れて楽しいわい」
満足気な笑顔の砂人。
そりゃあ、千年ぶりともなればそうであろう。
『そうかいそれはよかった』
「うむ。・・・・・・さて、そろそろ時間かの」
『時間?』
「この子の体が乾いてきおった。水を吸ったものにはくっつけるが、乾けばつけれんのでな」
今度は寂しそうな、乾いた笑いをする。
それもそのはず。そもそも、この場所には誰も近寄れないのだろう。
砂人のアレッタに乗り移ったことで制御の力を高められたというのだが、アレッタがいなくなれば、ここはまた俺が来た時と同じように、とんでもない砂嵐が訪れるだろう。
そして、娯楽も何もない、地獄ともいえる長い日々も。
「・・・・・・最後に。一ついいかの?」
『なんだ?』
俺は体を砂人の方に向ける。
「少し、その体を触らせてもらってもいいかの? この子の記憶から、そういう幸せな感情が感じ取れてのう・・・・・・」
なんだ、そんなことか。
『もちろん。いいに決まってるじゃないか』
そう言ったと同時に、砂人が俺の体へと飛び込む。
「ありがとう・・・・・・」
砂人は、こう呟いた。
「ああ・・・・・・これが、幸せ・・・・・・だったかの?」
儚げなその一言。
『そんなに気持ちいいか?』
そう尋ねるも、返答がない。
『お・・・・・・い』
そこには、寝息を立てる砂人。アレッタの姿があった。
そこで俺はようやく悟った。
『・・・・・・じゃあな』
そして、見えない一人の砂人に別れを告げ、魔法陣へと戻っていった。
最後までお読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか? ちょっとシリアスな回でしたが、どうでしょうか。本人としては、すごい難しかったです・・・・・・。
では、次回もよろしくお願いします。