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百二十五話 第三ラウンド“魔王が託した力”

「俺たちの全てを、お前に託す」


 一瞬の思考の停止。


「ーーデメリットは」

「俺たちが元の世界に戻る。以上だ」


 なるほど、簡潔でわかりやすい。


「やり残したことは」

「…………ない」

「わかりやすい間ね。無いって言ったら嘘になるわ」


 隠せもせずにケルベロスが目を逸らして言うと、アイーダがその脇腹を肘でつつきながら正直に言う。


 今度は俺の隣のアイーダが口を開いた。


「安心して、あたしがちゃんと調整して、一日ぐらい留まれるようにするわ」

「あたしに言われると心強いけど……。そうね、結論を言うわ。あたしたちの中には、この世界で過ごす蓄えとして、パパから魔力を貰ったわ。だから、調整ですら相当難しいわよ」


 なるほどな。そりゃあ、あの魔王の魔力だ。どんな性質を持っているかなんて想像もつかない。


 アイーダはなおも食さがる。


「大丈夫。任せて」


 その目は真剣そのもので、アイーダにじっと見つめられたアイーダは言葉を詰まらせた。ややこしいな。


 そして渋々と言った様子で頷く。


「……わかったわ。任せたわよ」

「ええ、任せて」


 アイーダがアイーダに抱きつく。俺はケルベロスに視線を向けて、互いに微笑んだ。だからややこしいな。


 ケルベロスが俺の近くにくる。


「それじゃあ始めよう。アイーダ、任せたぞ」

「ええ、任せて」


 アイーダが、ケルベロスとアイーダの手を握る。すると、三人の輪郭がボヤけ、淡い金色の光に包まれる。


 二人の手を握るアイーダは、目を固くつむって何かを唱えている。髪が逆立ち、その瞬間、目の前に巨大な、居間を埋めそうなほどの大きさの眩い光の玉が現れた。


 思わずアイーダ以外の三人は、その美しさに言葉を、思考を失う。刹那。背後の瓦礫が吹き飛んだ。


 俺はそれら全てからアイーダを庇う。穴から顔を出したのは、顔の片側を血で濡らしたマトイ。


「面白いことしてるじゃねえか!」

「邪魔はさせないよ!」


 マトイが飛び退くと、紫色の魔力の弾が降り注いだ。こちらに注意を払ってくれたのか、瓦礫は飛んでこない。


 ありがとう、パリス。


 俺はアイーダに向けて、だが独り言のように口の中で言う。


「頑張れ、アイーダ」


 その時、光の玉から、二つの人の頭ほどの玉が分裂した。


 その二つはアイーダとケルベロスの元へ。そして、アイーダは俺の方を振り向く。


「ずるいわ。聞こえてるのに」

「……恥ずかしいな」


 いや、普通に恥ずかしい。集中力を乱させるわけにはいかないと、かなり抑え目に言ったのだが。心臓がはち切れるんじゃないかと言うほどにバクバクと胸の中で轟いている。


 その隙をついて、アイーダが突然俺の額にキスをした。それと同時に、オーブの中身、懐かしい魔力が流れ込んでくる。


 ああ、これは、俺が産まれたばかりの頃、魔王のーー親父の近くで感じていたものだ。


「……お前も相当ずるいぞ?」

「勝ってくれる?」

「ああ、もちろん」


 その時、先程マトイが開けた穴から人が飛び込んできた。


 ケルベロスが咄嗟に受け止めると、それはパリスだ。


 パリスは脱力しきって座らない首をもたげて言う。


「へへ……。結構頑張れたと思うんだ。元幹部の意地、見せれたかな?」

「ああ、あとはお前の後釜に任せろ」

「生意気だね」


 こんな状況でも軽口を叩くパリスが、何故か安心する。もちろん一番安心するのは家族と恋人の傍だ。


 俺は立ち上がり、自分の体を確認する。よく、とてもよく馴染んだ力だ。申し訳ないがカミラのは慣れなかった。すまんマミー。


 だが、これでようやくトントンといったところだろう。


「行ってくる」

「行ってらっしゃい」

「頼んだよ」


「この世界を変えろ、俺よ」


 なんだよ、いきなりそんな頼られても困るんだぞ?


 ただ、気分は悪くない。


 なんだか主人公の気分だ。別にこの状況を楽しんでるわけじゃないし、むしろこんな展開ない方がいいに決まってる。


 しかし、違うのだ。


 ずっと橋の前で寝てて、時折動いては遊びに行き、飯を食い、寝る。その怠惰な生活から、凶王の時にはあんなに頼られて。


 ああ、俺はーーやはり人に喜んで貰えるような、そんな事をするのが好きなのだと。


 だから、俺は戦う。


 また、俺の体をもふもふさせる日々を失わないために。


「ーー第三ラウンドと行こう」

「気分的には四ラウンド目だ。馬鹿野郎」


 マトイが俺に飛びかかってきたーー

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