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百二十四話 第二形態“人化”第二ラウンド

 俺は爪を光らせて襲いかかる。標的はーーマトイ。


 カミラから貰った力はまだ体に馴染まず、別の誰かを操っているような錯覚がする。だが効果は絶大だ。


 マトイは俺の攻撃を受け止めるのをやめ、躱すことが多くなった。あいつの目から見ても脅威に見えるのだろうか。


 しかし、以前として、マトイの体勢を大きく崩すことはできないでいた。


 俺は透明化を方向転換の瞬間に発動させ奇襲を狙う。だがどうしてか見えるらしい。俺の爪は“受け止められた”。


『なんだ、チート持ちには第六感のおまけでもついてるのか』

「そうかも……なっ!」


 マトイが俺の脚を抱えて放り投げる。俺の体は小屋に激突し、愛用の小屋が無惨に崩壊する。


 一種の衝撃映像を目の当たりにして、だがなんとか思考を切り替えた矢先、視界にひとつの小瓶と一着の服が見えた。


 俺は小瓶の中身を口に放り込む。残りわずかの小瓶から二粒が舌の上に躍り出た。


「ーー第二ラウンドだ」

「変身するのは敵側のはずなんだがな」

「ならお前もさっさと変身するんだな!」


 低い姿勢でマトイの懐に潜り込み、掌底、真下からマトイの顎を撃ち抜く。


 さしものマトイも、これには体勢を崩しーーだが倒れない。


「気絶耐性があるんだ」

「チートめ」


 マトイが俺の脚を掬う。俺は地面に両手をついて飛び退き、追撃を免れるが、立ち上がった瞬間目の前にレンガがあった。


 額を赤茶のブロックが打ち、俺は大きくのけぞった。


 そのまま後ろに転がるようにその場から離れる。体勢を整えよう。


 だがマトイは息を整える暇さえ与えてくれない。


「鈍いぞ、動きが!」

「ーーうるせぇ!」


 薙ぎ払うようなマトイの蹴りを腕で受け止め、その衝撃に息を詰まらせる。


 苦し紛れに脚を突き出すが、やすやすと躱され既にマトイの腕の中。


「あ、き、ら、めろっ!」


 そして次の瞬間には空を舞う。


 俺は絶望した。これが勇者かと。これが、この街をたった一人で壊滅させた人間の力かと。


 勝ち目はあるのか。魔王が来るまで待つのが賢明だろう。やつならばやすやすと倒してしまうに違いない。例え昔に負けかけていたとしても。


 ーーけれど。


 諦めて戦うことをやめるような、無様な真似を、親父が許してくれるものか!


 気合いを入れ直し、民家の屋根の上に着地する。


 そこを狙って、マトイの蹴りが飛んでくるが、俺は屋根の瓦を剥ぎ取って、強化を加えた腕でマトイにぶん投げる。


 マトイは無理やり瓦を避けようと、逆の足で無理やり蹴飛ばした。そこに俺はカウンターの蹴りを打ち込んだ。


 初めてまともに入れることのできた一撃は、マトイの脇腹を捉え、民家三つほどの距離を転がした。


 その間に立ち上がり、大きく息を吸う。


「うおおおおぉぉぁ!」


 瓦礫に横たわるマトイへ、追撃をしようと飛びかかるが、マトイもまた瓦礫を投げてきた。


 しかし今度は俺はその瓦礫を無視して、当たるのも構わずに胸ぐらを掴みにかかる。そして地面にマトイの頭を叩きつけた。


 鈍い音がして瓦礫の山が崩壊する。そして手を離すと、今度はその手を捕まれた。


「やるじゃねぇか」


 同じ瓦礫の山へと叩きつけられる。頭皮が切れる嫌な感覚がした。


 薄らと目を開ければ、マトイの顔も血に濡れていた。


 さあ、俺はここまでだろう。もう、力は出し切った。あとは、誰かがーー


 そう悟った瞬間、近くで爆発音がした。


 驚いて顔を上げると、今度は俺を呼ぶ声。


「ケル! ケルベロス!」


 それは、俺が愛しく思う王女様の優しい声音。


「あ、いーだ」

「ちょっと無理やり連れてくわよ。透明化使って!」


 言われるがままに俺は透明化を使う。そして俺を何を変化させてか浮かせて、どこかへと向かう。


「今、戦ってるのは」

「パリスよ。元幹部の意地を見せたいって」


 首を僅かに動かせば、確かにボロボロのパリスが空中から攻撃を加えていた。なんてパリスらしい。あれではマトイは攻撃に行けないではないか。


 思わず笑みが零れる。やるな、とも思った。


 そこで俺の視界は壁に阻まれた。


 そこにいたのは、ケルベロスとアイーダ。


 俺が何かを訊く前に、ケルベロスが声を出す。


「俺たちの全てを、お前に託す」

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