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百十九話 番犬、絶死海へ

マリン「……今日はあたしなのね。少し、それどころじゃなくて……。本編を頼むわ」

 俺と魔王、それと未来のケルベロスとアイーダは、魔王の力で絶死海へと転移する。もちろん、いつもマリン達がいるという所へと。


 しかし、俺たちが開幕一番に目に入ってきたのは、壮絶な光景。


『……なんだ、これは』


 真っ黒な暗雲の下で、闇を抱えた波が大きくうなりを上げている。その波の高さは砂浜のヤシの木を優に超えていた。


 そして、その不穏な空気の漂う砂浜に、マリンは佇んでいた。


 俺たちに気づいていないのか、じっと荒れ狂う海を眺めるその背には力がない。


 魔王がその背に話しかける。


「マリン」

「……」

「なあ、マリン」

「……あら、魔王じゃない」


 マリンは上司を呼び捨てにして、さらには視線も向けない。


 それを訝しんで、俺たちはマリンの元へ。


 横から顔をのぞき見れば、マリンにはいつもの生気の一切が無く、ただただ呆然と魂の抜けたような表情で海を眺めているだけだった。


 そのマリンに、アイーダが話しかける。


「マリン。もしかして、アクアは……」

「ええ、そうね。あれがアクアよ」


「あれ」という代名詞だけで俺たちは共通の認識を得る。そして、改めて波立つ海に目を移した。俺は疑問を口にする。


『なぜ、襲いかかってこない』

「まだ自我があるのよ。きっと助かるわ。アクアが自分の精神にさえ、勝ってくれれば……」


 まだ自我がある。ならば。


『俺の出る幕だろう』

「待て、ケル。あれは無理だ」

『やってみないとわからないだろう』


 俺は少し語調を強めて引き留めようとした魔王に反論する。しかし、俺の反論は魔王ではなく、ケルベロスに否定される。


「お前は勘違いをしている。アクアっていうのは、そもそもロスト大陸の沿岸から数キロの範囲の海そのもののことを言うんだ。……サンドやウッドみたいに乗り移っているわけでもない。お前の力が効果を発揮したとしても、大きさから見れば焼け石に水だ」


 未来の自分に否定されては俺ももう何を言うこともできない。ただうつむいて一歩下がった。


 すると今度はアイーダが。


「……ねえ、マリン。最近、魔力が濃い場所ってどこかに無かった? それさえ見つければ、あたしがなんとかしてあげられる」

「あるわよ。――海の中にね」


 俺たちは一瞬にして希望が消え失せるのを感じた。


 ごつい指を力なさげに持ち上げ、表情のない顔をこちらに向けてマリンが伝えたそのありか。それはあの禍々しくも恐ろしいアクアの領地の中にあると。


 アイーダの表情が強ばる。その肩に、魔王が手を置いた。


「マリン。本当にあるんだな」

「ええ」

「ならば、俺が動けばいい。《防》。さあ、行くぞ」

「わかったわ。頼りにしてるわよ、パパ」

「任せろ」


 緑色の濃いバリアをドーム状に張り、魔王とアイーダが荒れ狂う海の中へと脚を踏み入れた。


 残された俺たちにやれることは無く。ただ無事を祈るだけ。魔王とアイーダを包み込んだアクアは、尚もうねりまるで中の二人を圧殺するようだ。


 それに耐えかねてケルベロスは言葉を漏らす。


「……頼む、無事に終わってくれ」


 そう言って、目を伏せて両手を組んだ。俺もただそれだけを祈る。


 しかし、そうしようとして目を閉じたところでそれは感じられた。


 匂い。


『――後ろかっ!』


 俺は尻尾を巨大化させて、匂いの元へ向けて叩き下ろした。俺の行動に反応して、マリンとケルベロスも振り返る。


 そこにいたのは、二人の人間。前にここへ攻めてきてコテンパンにやられたはずの二人。


「あなたたち……」

「隙をうかがってはいましたが、わたくしたちはここまでで用済みのようです」


 確か、ガリガリの道化師がサトル、ガタイのいい男がツヨシと言っただろうか。


 その二人が現れたことに、マリンは驚愕を隠せないでいた。


「なぜ……! アクアの海の中の空間にいたはず!」

「残念ですねぇ。実は、わたくしどもには内通者というものがいまして。……ま、この状態になればなんなく出てこれるんですけどねぇ」


 サトルが骨張った顔でくっくっくと卑劣に笑う。その笑い方はスケルトンを彷彿とさせるほどに生気が無く、薄ら寒いものを感じる。


 今は内通者とかいう単語に反応している暇はない。


『……魔王たちに手はかけられない』

「これがあんたたちの仕業だっていうのなら……あたし、手加減はしねぇ」

「……」


 ここに砂浜の戦いが始まった。 

マリン「最後まで読んでくれてありがとう。どうだったかしら? あたしは、あたしにできることをするまで。ここはあたしが守る!」

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