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百十四話 番犬、番犬と会話する

アイーダ「今回はあたしよ。さて、ちなみにどっちのアイーダかしらね? 自分を見るっていうのも不思議なものね。今回も最後までよろしくね」

「……はぁ。いつかバレるとは思ってたのよ」


 まだ煤のとれない黒い手をぎこちなく動かして、破られたローブを軽く頭に被らせるダイア――いや、アイーダは、口を尖らせた。


「それにしても、よくもごまかしの効かないタイミングでばらしたわね?」

「我なりのメッセージだ。それで、一体なんのまねだ?」


 ウッドは語調を強めて睨むように俺たちを見る。


『待て、ウッド。こいつらは未来から来たんだ。俺もその正体は今まで知らなかった』


 弁護のために動かした口は、先ほどのショックで固まった思考をほぐしてくれる。それと同時に、困惑が脳を支配した。


 そこまでウッドに伝えて、俺の頭ははたらくのをやめた。


「未来、だと?」


 ウッドが戸惑いを隠せずに反復し、未来から来た二人は諦めたようにため息を吐く。


「そうだ。俺たちは未来から来た。……バレるつもりでは来ていなかったんだが」

「ま、凶王相手にバレないわけないわよね。ちなみになんでわかったのよ」

「簡単だ」


 そう言い切るウッドは、自身の体を指さす。


「我は貴様の攻撃を身をもって知っている。魔王の娘よ」

「そういえばそうだったわね」


 アイーダはたしかにウッドに直接的な攻撃をした唯一の人物だろう。枯らしたり、水を張ったり凍らせて封じたりとアイーダの魔力は知られている。


 俺は未だ混乱する頭の端で納得する。だがやはりまだ思考は宙を漂っている。


『……すまない。俺が一番混乱している』

「あやまることはないぞ、俺。俺だってこの状況になった時は混乱した」


 なるほどとてもわかりやすい経験談だ。俺もおそらく未来に同じことをして、同じことを語ることになるのだろう。


 いや、だがそれではいけない。


『お前達は、未来を変えるために来たんだよな』

「ああ、そうだ」

『その時も、未来から来た自分たちと会ったのか?』

「ええ、会ったわ」


 真実を告げる二人は苦しそうな表情をする。


 ならば、こいつらの時は未来が変わらなかった。だから次の未来にかけることにした。俺も失敗する可能性があるのか。


 それを理解した途端にえもいわれぬ不安にとらわれる。


「その時はこの魔力の流れを教わったわ。……取り返しのつかない時に知ったって、そのあたしたちは悔やんでたけど」


 アイーダはその表情に影を落とす。現に、俺も気持ちが暗くなっていくのを感じた。


 俺はルーケル改め、ケルベロスを見てあえて話題を変えた。


『ちなみに、どうやって来たんだ?』

「簡単だ。異世界に行った時のように、ダイア……いや、もうその呼び方はいいか。アイーダが魔方陣を書き換えたんだ。過去に戻る魔方陣の書き換えは難しかったらしい」

「大変だったわよ? パリスと一緒に協力しながら考えたのが懐かしいわ」

「そうだな」


 二人が知っている人物の話をする度に俺の心が締め付けられるように苦しくなるのはなぜだろうか。俺はその気持ちを隠すように自分の体に顔を埋める。しかしアイーダの手がありそれは叶わなかった。


 俺が動いたのを察してアイーダが手を放す。


「ありがと。……ねえ、あのケルベロスったらね、二年分も薬を飲んできたのよ? おかげでずっともふもふできなくて寂しかったの」


 くすりと妖艶な笑みを浮かべてアイーダが立ち上がる。


「ありがとね、ケルベロス。やっぱり犬のあんたも好きだわ」

「おいケルベロス、俺の株がどんどん下がってるんだがどうしてくれる」

『残念だなケルベロス。もっと魅力的になれ』


「そういわれてもなぁ」と頭をかくケルベロスは、アイーダに謎のキックをすねに食らって悶絶する。未来のケルベロスに嫉妬されても困るのは俺なのだが。


 しかし、なんだ……。良い関係を築けているじゃないか、未来の俺。


 俺はケルベロスに言う。


『未来の俺はよほど積極的らしいな』

「同じ俺だ。結局こうなる」

『む、返す言葉がない』


 そう言われては俺はアイーダに甘えに行くしかなくなる。いいな、それ。ちょっと今度またどこかへ遊びに行くとするか……。


 なんていう他愛のないことを考えていると、ここまで口を挟んでこなかったウッドが前に出た。


「話はわかった。ひとまず我の領地はこれで無事になったということでいいのだな?」

「ああ、問題無いはずだ。ただ、もし影響が出たら……その時は精神力で頑張って打ち勝ってくれ」

「はっ、根性論は我には合わぬ」


 ウッドが木を操って玉座のような椅子を作り上げ、そこにどっしりと腰掛ける。その気迫は凶王の威厳そのものだ。


 満足げな笑みでウッドは言う。


「礼を言おう。次に来たならばもてなしてやらないこともない」

「あらそう。なら、今度また来ることにするわ」


 悪戯っぽくアイーダが笑って洞窟の出口へと向かう。俺とケルベロスもそれについて行こうとして――


「まったく、素直じゃないですねっ!」


 その場違いな声にはっと振り向いた。


「ウッドさんはツンデレなんです! もうキャラ被りまくりなんでちゃんと誘ったらいいじゃないですか!」

「むっ、ウィン! 我が格好良く決めたというのになんの真似だ」

「格好は良かったけど、人には好かれないよ、その格好付け」

「そ、そう言われると我も困るのだ……」

「みなさーん! また来てくださいねー!」


 見ればひとつの体を器用に使い合って三人で会話をするウィンたち。


 ……なかなか濃いキャラをしているな。


 不意に浮かんだ微笑みを隠すように俺は洞窟へと向かうのだった。 

アイーダ「最後まで読んでくれてありがと。どうだったかしら? 困ってるケルベロスを見れるのもいいわね。あとで褒めてあげないと。あ、ちなみにあたしは未来のアイーダよ。次回もよろしくね」

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