百十三話 未来人の正体や
ウッド「ふむ。今日は私か。……私などでいいとは、キャラ付けも大変のようだな。まあ最後まで見ていくといい」
「いやはや、やっとたどり着いてくれたようだな。力を蓄えておいた甲斐があったというものだ」
嬉しそうにウッドはウィンの姿のまま笑う。俺たちはその変化についていけず、いい表情を浮かべられないまま固まっている。それが気に入らなかったのか、ウッドは笑みを消した。
「なんだ。我がそんなに怖いのか?」
「……急に出たからびっくりしただけよ。というか、あんたに襲われたんじゃない」
ダイアがそう言って苦い顔をする。
『お前、ウッドと戦ったことがあるのか?』
「……向こうの世界で一回ね。ちょっと苦戦した気がするわ。まあそれでも余裕だったわ」
どっちなんだ。見栄を張るのか相手をたてるのかどっちかにしてくれ。
隣でやれやれと首を振るルーケルと心境を同じにしていると、ウッドが舌打ちをして幹へ近づく。
「あの一件は仕方がないだろうに。そんな昔のことを引っ張ってこられても困る。我の件で来たのだろう。さっさとこいつを片付けてくれ。頭痛がして仕方が無い」
そう愚痴を垂らしながらウッドが幹に触れると、その表面がぐにゃりと動いて、木の構造が変化した。
ウッドは木を操るこの大森林の長。その力があれば、この巨木も障害にはならないらしい。
あの時は俺たちを苦しめたその強さも、今は頼りになる。俺たちはこの凶王の存在をやはり警戒せずにはいられなかったが、その分頼りにできることを実感した。
ウッドが作りだした木の洞窟を俺たちは進む。
「なんだか不思議な感覚ね」
ダイアがところどころに魔力で光源を生み出しながら、そう感想を口にする。
それには俺も同感である。木目の見えるつるつるとした洞窟は、いつもの灰色で無機質な洞窟とは異質すぎて落ち着かない。
「なに、すぐに着くのだ。それに我は案外楽しいぞ?」
「まあ、この違和感を新鮮さとして感じるのはわかるな」
新鮮さ、そう形容されるとなんとなく納得ができた。
「それで、我はどこへ向けてこの洞窟を広げればよいのだ」
「どんどん下に行って。そこに……魔力の流れがあるはずよ」
「ふん。我に命令をするな。……というのは暴論であるな」
洞窟は下へ下へと進んでいった。
だんだんと底に近づくにつれ、その存在は察知しやすいものになってくる。その途中でふと気づいた。
『この木はまだ生長しているのか』
「みたいだな。我も驚きだ」
洞窟の壁のがだんだんと上へ動いているのだ。生物の成長というのは、研究になど微塵も興味のない俺でも少し興味をひかれる。
そんなことに気をとられていると、いきなり地面が抜けた。俺は反射的に着地する。その俺の背に何かがぽすりと着地した。
「いったぁ……くない」
『気を取られすぎだな』
「仕方ないじゃない。あたしはこれでも研究者なのよ。ま、ありがと」
俺の上に着地したダイアはそう言って背中をぽんと叩いて俺の背を降りた。俺も息を軽く吐く。
「役得か?」
『ルーケル、その微妙な冗談はやめてくれ』
「微妙か……」
変なことを言い出したルーケルは、俺の言葉に肩を落とした。いや何も落ち込む要素がないぞ。
仕切り直すようにダイアが咳払いをする。
「そんなことはいいわ。ここみたいね」
そこは二度もみた空洞。ただ違うのは周りが石ではなく木であるということだろうか。変わらないのはその空洞を走る魔力の流れ。今回も白色らしい。
「それで、こいつをどうするんだ」
ウッドがあからさまに顔をしかめながら、魔力の流れを指さして振り向く。
それにダイアが大した表情も浮かべず。
「まあ見てなさい」
そう言って腕を魔力の流れに突っ込む。俺とルーケルはもう三度目だが、やはりどの凶王にもそれは異常に見えるのか、ウッドも表情を豹変させた。
「なっ……。馬鹿か、お前は」
「ウッドよ。聴いて驚くがいい。あいつはこれをもうすでに二度行っている」
なぜかルーケルが自慢げに言う。それをウッドは鼻で笑った。
「阿呆の所業だな」
苦笑いを顔に貼り付けてそう吐き捨てた。
俺はそのやりとりを見てから、ダイアに視線を移す。もうすでにその役目は終わろうとしていた。
魔力は白から緑へ。
「ほら、回復」
魔力の浄化を終えたダイアは余裕そうに、だが腕は体の脇にだらんと垂れさせて俺たちを呼ぶ。近づいてわかったが、こめかみを汗が伝っていた。
さすがに何度もやっても慣れるものではないか、と思う。
「あ、ルーケル。あんたはウッドに説明しておいてよ。あたしはケルベロス撫でてるから」
「はいはい。女王様がそう言うなら」
「ちょっと言い方」
おざなりな扱いをされたルーケルがあからさまにしょんぼりしながらウッドの元へ。俺はそれを温かい目で見送ってダイアの元へ。
「はー。やっぱ男よりワンちゃんよね」
『ワンちゃん……なんて言い方だ』
「癒やされるんだもん」
俺の首に両腕を巻き付けてダイアが言う。はたしてどんな表情をしているのかは見当がつかない。
しばらくそうしていると、ひとつの足音が近づいてきた。ちらと首を動かすと、それはウッドであった。
俺が何か尋ねようとすると、ウッドは不快そうに口を開く。
「お前達はなんの茶番をしている」
その声はとても冷ややかで、俺もダイアも表情を消した。
後ろからルーケルが追いついてくる。
「やめろ、ウッド。やめてくれ」
「いいや。私は不快だ。いつこの茶番に口を挟むかをずっと考えていた」
そう言って乱暴にダイアのローブを掴み、破る。
俺は目を見開いた。
「なぜ王女と、そこの犬がいるんだ」
俺を撫でていたアイーダが目を見開き、後ろからやってきたのは、俺だった。
ウッド「最後まで読んでくれてありがとう。ふむ。私がトリガーとなって、彼らの正体を暴くとな。……まあいい。私はスッキリした。お前たちはどうだ? まあ、次回も見ていってくれ」




