百十二話 番犬、大森林へ
ウィン「今日は、私。でも私、出番ほとんどないからあんまり喋らなくていい……最後まで見ていってね」
「いらっしゃ~い! よく来たね! 久しぶりー! 三重人格ウィンだよ♪」
『「「…………」」』
「……こほん。お久しぶりです」
早速退場させられた木属性のウィンに特に感情を抱くわけでもなく、俺たちはさも今来たかのように振る舞うことを決めた。何も見ていなかったのだ。
風属性のウィンは気まずそうに息を吐いた。
大森林は今日も俺たちの魔力を吸い取る。その違和感になれようとしながらも意識から外すために俺は話しかける。
『久しぶりだな。ウッドは大丈夫なのか?』
「ええ。最近はなぜか大人しいですが、仲良くやっています」
それを聴いて隣の二人が顔を疑問に染めた。
「本当になにもないのか?」
「そうです。本当に、いつもならば話しかけてくるタイミングでも、ウッドは静かです」
「それはそれで変なんじゃないかしら?」
そうダイアが首をかしげるが、反対にウィンは緩やかに首を横に振った。
「異変だとしてもこちらとしてはありがたいので」
『複雑な事情を垣間見たな……』
果たしてウッドはどんな扱いを受けているのか。まああの魔王よりはひどくないだろうから大丈夫だろう。魔王は自業自得だしな。
ひっそりとウッドを心配してやっていると、今度はルーケルがウィンに尋ねる。
「ならウッドが静かなうちにやってしまおう。ウィン。最近、妙な洞窟やら魔方陣やらを見かけなかったか?」
「そうですね……」
顎に手を当て静かに考えるウィン。しばらくすると思い出したのか人差し指をぴんと立てて言った。
「最近、魔力を他の地域よりも大量に摂取している場所があります。そこの木々は魔力を吸って巨大化しているのですが、もしかしたらそこに何かあるかと」
冷静に淡々とそう情報を伝える。
俺たちは言われて無自覚に辺りを見渡した。ただ、そもそもの木の一本一本が高く太く、ここからではその大木も見えそうにない。
仕方が無い、たまには俺も頑張ろうじゃ無いか。
『俺が跳んで見るよ』
「頼んだわ」
俺は脚に強化をかけて跳躍。木々の上を跳び抜いて高く空中に躍り出る。するとそれはあっけなく見つかった。
今俺たちがいる場所の木など目ではない、それこそ人工の灯台と同じ太さでそれよりも背の高い茶色い大木が、あの人間界のビル街のように連なっていた。
何本も束ねられるように密集したそれは、一種の建造物のようにも見える。
俺はくるくると尾を回転させながら緩やかに落下する。地上に着地してから、俺は見た情報を伝えた。
『ここから右手側にその巨木の塊が見えた。たぶんそこが目的地だろう』
「そうか、ありがとう。……それにしても、お前はそんなことができたのか」
ケルベロスが興味深げに俺に訊く。
そんなこと、というのは俺の今の行動だろうか。
『尾をプロペラのように使った飛行だ。犬ならみんなするだろ?』
「少なくとも俺はやらなかったよ」
何、そうなのか。てっきり俺みたいなことができるのは普通だと思っていた……というのはさすがに冗談だ。
だがルーケルよ。お前はそもそも人間だからやるも何もないだろうに。
「とりあえず、さっさと行くわよ。何事も早い方がいいわ」
俺たちはダイアのその言葉にうなずいて森林を進む。
前回に訪れたときのように、大森林は危険な魔物がうじゃうじゃと潜んでいた。茂みからはダンゴムシが飛んでくるし、地面からはミミズが生えるし、空からはカマキリが襲ってくる。
だがそれらを難なく蹴散らせるのが今のメンツである。とても心強い。何よりも俺は虫が苦手だから、ウィンが風で薙ぎ払ってくれるのがとても助かる。俺はなるべく触れたくない。
なんてことを考えていたらぼとりと背中に何かが着地した。
『――――――――っ!』
「ど、どうしたのよケルベロス!」
あまりの不快感と背筋を駆け上がる悪寒に俺は地面に背中から着地して背中をこすりつける。
『最悪だ。最悪だ。ああ、クソっ。これだから森林は。虫なんて滅んでしまえああああぁぁぁぁ!』
「る、ルーケル! ケルベロスがおかしくなったわよ!」
「虫が苦手なんだな。わかるよ。俺も大っ嫌いだが今は克服した」
『それを今どや顔で言うことか?!』
背中の違和感がひとまず治まったところで俺は思わずルーケルにつっこむ。そのどや顔をやめろ。その誇らしげな……ああ、もういい。
一気に気分がどん底に落ちた。俺はむすっとしながらまたみんなの後ろをついていく。茂みが揺れる度にびくっと体が揺れてしまうのは仕方が無い。
そうしてなんとか俺たちがその巨木の位置にたどり着いたのは、陽が大きく傾くほどの時間が経ってからだった。
それを目の前にして、俺たちは上を見上げた。
「……でかいな」
「大きいわね」
『想像以上だ』
葉は雲と同じ位置でなびき、そこから地面まで突き刺さるような幹はもはや砦のようだ。
しかし、その中から漏れてくる魔力は隠せていない。
「とりあえず、試そう」
ルーケルが右腕を引き、体のひねりを加えて幹へとその拳を突き立てる。しかし、表面の樹皮が軽く削れた程度で、たいした効果は見えない。
さすがに木だからな。植物は生きている。前のファイアの時のような破壊は難しいだろう。
「ならば私に任せるがいい」
その声は、ここまでずっと沈黙を守ってきた者の声。
ウッドが得意げで怪しげな笑みを浮かべてそこに立っていた。
ウィン「最後まで読んでくれてありがと〜♪ ねぇねぇ、どうだった?! え? 急にテンション上がった? 仕方ないじゃん木属性ウィンちゃんだも「うるさいですね。次回もよろしくお願いします」




