十一話 魔王街 郊外探検中!
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「わ~れらち~びいっこば~んけ~んた~い♪」
俺の背中に乗る四人の子供たちが陽気に歌っている。
今、俺たちが歩いているのは、魔王街の西郊外。まあ、郊外とは言っても、むき出しの岩肌だらけの荒地なのだが。
「隊長! 止まってください!」
『どうした。カイ』
「見たことない草です!」
それは、この辺りならばどこにでもあるような紫色の草。
これだけで、こいつらがどれほど外に来てなかったのかがわかるわけだが、こんな草一つではしゃぐ彼らを見ていると、そんなことはどうでもいいぐらい微笑ましい。
「隊長! この紫色の草はなんだ?」
アランが毒々しい紫色の草を手にして尋ねる。
『それか? それは毒消し草だよ』
「おいしいのか?」
『食べればわかるさ』
「そうか。いっただきまーす!」
アランが五本ほどの束を一気に口に運ぶ。
得体のしれないものを、こうも一気にかぶりつくとは、子供とはいえ恐ろしいことだ。
『どうだ?』
「ま・・・・・・まずい・・・・・・吐いてもいい?」
『見えないところでな』
アランがよろよろと口を押えて岩陰へと向かう。
まあ、毒消し草だからな。そうなるだろう。
「隊長ー!」
『なんだ、レン』
「あの木にぶら下がっているおっきい塊はなんだぜ?」
木にぶら下がっているおっきい塊?
『ああ、あれは蜂の巣だよ』
見れば、横に太い木にレンの体ほどある蜂の巣がついている。
「石投げてもいいのか?」
『死ぬぞ』
「・・・・・・やめときます」
さすがに俺も蜂は無理だからな。
まあ、虫自体もあんまり得意じゃなかったりする。
というか、あの大きさは野放しにしちゃだめなやつだろ。あとで誰かに言っておこう。
「隊長・・・・・・もどりました・・・・・・」
『おう。アラン大丈夫か? 俺の体の上ででも休んどけよ』
「ありがとうございます・・・・・・」
テンションが下がりすぎて敬語になっているアランを俺の背に乗せる。
「ねえねえ隊長」
『なんだ、サリー』
「このお花なんていうの? 薔薇に似ているけど違うわよね」
サリーが持ってきたのは、真紅の花びらを持つ綺麗な花。
『それは”カーネーション”だな。色は似ているけど、薔薇とは全く違うものなんだ』
「そうなのね・・・・・・。うちのお母さんが撫子なの。だから、いい花ないかしらと思って・・・・・・」
『そうなのか? だったらそれをあげるといい。その花も撫子の仲間だからな』
「そうなの? じゃあ。これにするわ。ありがと」
嬉しそうにカーネーションを肩掛けバッグに入れるサリー。
親のことを考えるなんて、優しい子じゃないか。
「隊長隊長!」
『なんだ? カイ』
次に話しかけてきたのは、顔を赤く染め、息を弾ませているカイ。
「あの動物はなんですか?」
『あれか? あれは赤猪だな』
「突撃されたら痛いですか?」
『ああ、痛いな。骨も一本ぐらい折れるほどだと思うぞ?』
赤猪は、この魔王街の郊外で最も危険な動物といってもいいだろう。
まあ、逆に言えば、あいつ以上の動物や魔物はいないわけだが・・・・・・。
「行ってきます!」
『おい待て』
なぜか急に赤猪に向かって走り出すカイ。
「なんで止めるんですか!」
『いや止めるだろう。話聞いてたか? 危険だぞ? 痛いぞ?』
「それがいいんじゃないですか!」
なんだこいつ。さっきまであんなキチっとしてたのにこの変わりよう。
あれか? ゾンビだからMっ気でもあるのか?
『とりあえず。俺はお前らを連れてきている以上。お前らに怪我をさせるわけにはいかないんだよ』
「はーい・・・・・・」
まるで、おもちゃを取り上げられた子供のようにしゅんと落ち込むカイ。
なんだろう。今の会話でカイのイメージがすんごい変わったんだが。
「た、大変ですね・・・・・・水、どうぞ」
アレッタが俺に水を差し出す。
『ありがとう』
「い、いえ、わ、わたしは年長なのに何もできてないから・・・・・・」
たしかにアレッタもこの中ではお姉さんの方だ。だが。
『そこまで考えることはない。それに、俺に言わせてみればお前らはまだまだ子供なんだ。はしゃいでいいんだぞ?』
「そう・・・・・・ですかね」
アレッタがクスッと笑う。
「わたしも・・・・・・」
「タイチョーーーー!」
何か言おうとしたアレッタの言葉を、アランが遮る。
『なんだ。今度はどうした』
「カイがーーーーー!」
「カイがな・・・・・・」
カイ?
『落ち着けお前ら、どうしたんだ?』
サリーとレンが声をそろえて叫ぶ。
「「行っちゃったー!」」
”行っちゃった”・・・・・・?
『まさか・・・・・・!』
俺は、先ほど赤猪がいた方を見る。
『あ、あの野郎・・・・・・!』
案の定。カイが赤猪に向かって突進していた。
俺は、背の上のアランのことをすっかり忘れて、地面を思いっきり蹴っていた。
「こーーーーい!」
今最も危ない本人は、俺の心配などどこ吹く風。赤猪を挑発している。
もちろん。挑発されている赤猪は戦闘態勢で、今にも突進しそうだ。
「ブルルルルゥ!」
そして、荒い鼻息を吐いて、赤猪がカイへ突進する・・・・・・!
ドゴッ!
鈍い音をたてて、何かが吹っ飛ぶ。
『だから危ないと言っているだろう!』
吹っ飛んだのは、カイではなく、突進を仕掛けた赤猪自身。
なんとか間に合った俺は、間に壁のように立ちふさがり、俺に突進した赤猪は、自らが生み出した衝撃吹っ飛び、今は向こうで伸びている。
「ちょっと! 邪魔しないでよ!」
しかし、本人は悪気がないのか、遊びを邪魔されたように怒っている。
怒りたいのは俺なんだがな・・・・・・。
『カイ・・・・・・』
「なにさ! 人の遊びを邪魔してさ!」
はあ、いったいなんで俺が怒られているのか。
『いいか、お前は親に”怪我してこい”と言われたか?』
「そんな言われるわけないじゃん!」
『だろ? なんでだと思う?』
「・・・・・・さあ」
親でもない俺が、こんなことを言っていいものなのか疑問だが・・・・・・。
『いいか。お前は”大切”なんだよ』
「大切?」
『そう。お前にも大切なものがあるだろう? 友達とか、おもちゃとか。もしも、それが壊れちゃったり、傷ついちゃったら嫌だろ?』
「・・・・・・そうだね」
『だからさ、いくらそれが楽しいからと言って、そういうことをするのはやめてくれ。いいな?』
「・・・・・・はーい」
うーん・・・・・・。我ながら、伝わっているか不安だが、まあこれでいいとしよう。
『さ、場所を変え』
「ブ、ブルル・・・・・・」
後ろで、赤猪が立ち上がる気配。
『・・・・・・カイ。わかってると思うが、もう二度と』
「行ってきまーす!」
『バッカヤロー!』
俺はもう一度こっぴどく叱ってやらねばならなかった。
最後までお読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか? 子供って・・・・・・大変ですね。(書くのも育てるのも)




