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百八話 番犬、ファイアと戦闘す

ケルベロス『暑い……。ああ、今日は俺だ。まあ、なんだ。最後まで見ていってくれ。それにしても暑い』

 ファイアの咆哮が大気を震わせる。その中を、俺たち三人は駆け抜ける。毛を短くしてきてよかった。あの長さだったらさぞ動きにくかったことだろう。


 俺は右手側から、ルーケルは左手側からファイアに接近し、その隙にグレンには背後に回ってもらっている。コアなるものの位置を知っているのはグレンしかいないのだ。


 ファイアがおもむろに右手を上げた。


「ケルベロス!」

『わかっている』


 今や腕を上げれば我らが魔王城ほどの大きさになったファイアは、近寄ることも、その前に立つことさえも恐ろしい存在だ。以前に会った時のあの朗らかでお調子者だったファイアの面影など微塵もない。


 俺は自分を鼓舞して、脚に力を入れて頭上から襲いかかるファイアの魔の手から逃れるように横へと跳ぶ。俺がいた位置は右手によって粉砕され、その下に眠っていたマグマが果実を潰した時のように噴き出した。


 ぞっとする攻撃だ。あれをくらえば、叩き潰されるだけでなくマグマでコーティングしてもらえると。想像もしたくない。


 だが俺の体はダイアの耐性付与によって炎が苦手ではなくなった。実際に、先ほどのファイアの手。岩石を溶かすほどの超高温なのだから近くにいるだけでも相当の熱量を感じるはず。だが俺は大して熱を感じなかった。これで安心して攻撃を仕掛けられる。


 俺は全身を巨大化させた。犬歯をあらわにし強化をかけ、攻撃のために低い位置に来た腕を穿ち、炎の体を食いちぎる。どうやら肉体は柔らかいらしい。


 攻撃の効果はあったようで、咆哮とともにファイアは自身の右手を引いた。そして俺に焦点を合わせ、左手を振り下ろし――


「――俺を忘れるな」


 高く跳躍したルーケルが、前腕を蹴りつける。振り下ろした勢いがある左腕は、蹴りの衝撃を受けて前腕の途中から先が崩れ落ちる。崩れ落ちたファイアの肉体は、地面をどろどろに溶かした。


『ダイアの耐性はすごいな』

「あいつもチート並なんだ。すげえだろ」

『なぜお前が誇らしそうなんだ……』


 他人のことを自分のことのようにどや顔を浮かべるルーケルに冷静に返して、また視線をファイアへ向けると、顔が煌めく。


 なんだか、嫌な予感が――


『ルーケル! 俺の後ろに!』


 俺はルーケルの前に横向きに寝そべり壁となる。そして、強化を限界までかける。ふと、強化の限界値が高くなっていることに気づく。なぜだろう? もしや、幹部の試練のおまけ――


 そこまで考えたところで、思考は爆風と熱に支配される。


 目も開けられない熱風。限界まで強化を付与した俺の体でも、その熱はヒリヒリと皮膚へ届き、毛は縮れる。


 これはまずい、そんな危機感を感じた。しかし、すぐに風から熱が消えた。


 俺は何が起こったのかと顔を上げた。


「もう、あたしを置いて勝手に始めて……。まあ、あたしも力を温存するために参加しないつもりだったのだけど」


 ダイアが俺の前に立ち魔法を展開していた。ダイアの周りの空気だけが熱を奪われて心地のいい涼しい風へと変化している。


『ルーケル、無事か?』

「ああ。お前が壁になってくれなきゃダイアを迎えに行けなかったな」


 なるほど、俺の壁を利用してダイアを連れてきたのか。いい判断だ。


『なるほどな。助かった』

「礼はあとでダイアに言ってくれ」


 それもそうだな、なんて思ったところで、ファイアからの熱風が止んだ。周囲の地形は熱風のせいでどろどろに溶け、まともな地形はダイアを起点とした扇状の地面だけだ。


 もちろん、それ以外のところは赤いマグマが表面を泡立たせている。地面に降りたところで、これでは脚をとられ回避もままならない。


『あとは、グレンに任せるか』

「そうね」


 俺はあのファイアの巨体の背後にいるであろうグレンを案じる。


 ――突然、ファイアの胸元がぐにゃりと歪んだ。次の瞬間、ファイアの体が大きな気泡を伴って爆発を始めた。


 その胸元に、人影が現れる。


「ナイスタイミング、だな」


 グレンが、人の胴体ほどある赤いコアを掲げてぐっと親指を立てていた。 

ケルベロス『最後まで読んでくれてありがとう。どうだっただろうか。まさかファイアと戦うことになるとは思わなかった。凶王の恐ろしさがわかるな。次回もよろしく頼む』

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